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世の中にはあまり人に知られていない、ニッチな仕事を紹介するコーナー。vol.4はご当地レトルトカレー協会の理事長で、ご当地レトルトカレーの販売店、カレーランドの店長も務める、ご当地レトルトカレーマニアの猪俣早苗さん。ご当地レトルトカレーの普及を通じて猪俣さんは何を目指しているのか、そこには深い意味が隠されていました。
 
 

ご当地レトルトカレーマニアのお仕事

 
一般社団法人ご当地レトルトカレー協会の理事長として、ご当地レトルトカレーの商品開発、普及に向けたイベント、催事への出店などを手がける。ご当地レトルトカレーに独自の視点で価値を見出し、その魅力を伝える活動を展開。株式会社Campsisの代表取締役として、ご当地レトルトカレーのショップ、カレーランドも運営している。
 
 

カレーを通じてご当地の知識を得ることにハマった

 
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猪俣早苗さん
意外なことに、猪俣さんは大のカレー好きというわけではない。興味を惹かれたのはご当地レトルトカレーの“ご当地”というワード。身内が島根県の土産に買ってきてくれた、シジミのレトルトカレーがきっかけだった。
「例えばみそ汁のシジミって、身をすべて食べることってあまりないですよね。それがカレーの具の主役になっていることに興味を惹かれて、ちょっと商品のことを調べてみたんです」。
 
当時、島根県の宍道湖のシジミが有名ということを知らなかった猪俣さんは、商品を通じてご当地の知識を得られることに面白味を感じた。以来、旅行先での購入や、アンテナショップ、ECサイトでの購入を通じて、全国各地のご当地レトルトカレーを食する日々が続く。
 
 

魅力を発信するためにショップをオープン

 
その中で猪俣さんが感じたのは、ご当地のレトルトカレーを見つけても、商品の由来や製造された背景について、販売する側に多くの知識がないケースが多いことだった。例えば、「アンテナショップで店員に質問しても、地元の人が売場に立っているわけではないから、商品に対する知識が十分でないと感じることがあった」そうだ。
 
ユニークなご当地レトルトカレーをラインナップ
店舗外に自販機も設置され、閉店時でも購入が可能
「せっかく地元のPRのためにお金をかけてつくっているのに、その魅力をしっかりと発信できていないのはもったいない」。そこで猪俣さんは一念発起して、自らの手でご当地のレトルトカレーを販売するショップを開くことを決意する。そこで、株式会社Campsisを設立し、全国各地の販売者に声をかけて仕入れ先を開拓。約300種の商品をそろえた状態からカレーランドをオープンした。
 
当初、足立区で営業していた店舗では、店内で商品を食べられるスペースも設けていたが、約2年半後に台東区に移転してからは、物販に専念。リピーターが徐々に増えていく中で人脈も広がっていき、商品開発の相談を持ちかけられるようにもなっていく。
 
 

さらなる普及を目指して協会を設立

 
商品開発にあたっては、登記簿謄本を変える必要が生じるなどの障壁があった。また、ショップでの取り組みがメディアに取り上げられた際に、「店舗で仕入れている商品しか紹介ができない」という問題がある。「ご当地だけで販売したいという理由で仕入れることができないカレーの中にも、皆さんに知ってほしいものがたくさんあった。それで、自由にご当地レトルトカレーに関われる立場がほしいと考えるようになりました」。
 
そこで、2017年2月にレトルトカレー協会を創設。同年12月には一般社団法人格を取得し、一般社団法人ご当地レトルトカレー協会へと名称を変更した。同協会の目指すのは、「ご当地レトルトカレーを通じて、カレーの素材となる生産者や地域とのつながりを生みだし、里山・里海の保全、自然との共生を目指す」こと。
 
カレーランドと協会の活動を通じて、「もっと知らない日本を知るとおもしろいよ! ということを伝えていきたい」と猪俣さんは強調する。そのために、ショップでの物販に留まらず、百貨店の催事コーナーや、各地域で催される食のイベントに参加してPRに精を出している。
 
 

1割の人を満足させる商品を開発したい

 
そうした活動と並行して力を入れているのが、新たな商品開発だ。当面の目標は、猪俣さん自身がその魅力を発信したくなる商品をショップに置くだけでなく、自分自身が納得できる商品を地元の人と協力して開発すること。
 
助成金などを利用して、ご当地をPRするための商品開発を考えている人は各地にいる。しかし、「単にご当地の食材をレトルトカレーに使ってみました――という商品が多いのも確かで、地域の思いというか、メッセージを伝えきれていないケースもある」。
 
猪俣さんは新たな商品を開発するに際して、商品購入者の全員に満足してもらうものをつくる必要はないと考えている。むしろ、1割の人にインパクトを残すカレーのほうが、それをきっかけに食材そのものを取り寄せるなど、「後の行動につながること」に期待を寄せる。
 
「究極的には、おいしさを目指さなくてもいいんです。以前、『印象に残る幕の内弁当はない』という言葉を聞いたことがあります。同じように、ご当地レトルトカレーも幕の内弁当を目指すよりは、何か尖ったところのある商品にしたほうがいいというのが私の持論です」。
 
そうした尖った商品の例として猪俣さんは、北海道の「さらべつ和牛ビーフカレー」を挙げる。松坂牛は年間で5000頭ほど出荷されているのに対し、さらべつ和牛はわずか50頭。「こうした巷にあまり知られていない情報をクローズアップして発信するのが私の仕事。付加価値が生み出せる商品にこそ、ご当地レトルトカレーの本当の魅力がある」という。
 
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遠軽町産のビーツを使用したホタテカレー
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「ほしいも」にスパイシーなルーがマッチ
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猪俣さんが監修した人気商品
 
 

地域の人間と野生動物の暮らしを守る

 
人間は、自分の知識として持っていない情報を検索することはできない。さらべつ和牛も、その言葉を知らなければ、その存在を一生知ることはないだろう。「地方にある知られざるものに触れる、きっかけづくりを担いたい」というのが猪俣さんの思いだ。
 
もともとカレー好きではなかったことで、ご当地レトルトカレーに「新たな価値を見出すことができた」という猪俣さんが本当に好きなのは動物で、それが高じて鳥獣管理士の資格も保有しているほどだ。
 
猪俣さんが危惧するのは、最近ニュースでも頻繁に耳にするようになった、鳥獣被害の問題だ。地方において、人間と野生動物の生息する境界があいまいになっているのは、地域の人口減少が一因になっていると言われている。
 
その問題を解消するには、地方にしっかり人が定着し、お金が回っている状況に戻ることが重要になる。「ご当地レトルトカレーをツールに地域の方々や野生動物の暮らしを守る。私のやっていることは草の根活動ですが、それが何らかの形で地域に役立っていけば嬉しいですね。そのためのツールとしてご当地レトルトカレーって最強の商品だと思うんです」。
 
レトルトカレーをきっかけに、その素材を定期的に取り寄せるようになる人もいれば、ふるさと納税を始める人もいる。中にはその地域に興味を持って移住を考える人が出てくる可能性も皆無ではない。猪俣さんは自身の活動を草の根と評するが、レトルトカレーは地域活性化につながる大きな可能性を秘めている。
 
 
※本文内の掲載画像はすべて、猪俣さんご本人の提供
 
公式サイト
https://curryassociation.wixsite.com/lrca (一般社団法人ご当地レトルトカレー協会)
 
https://curryland.theshop.jp/ (カレーランド)
 
Twitter
https://twitter.com/sanaeinomata
 
Instagram
https://www.instagram.com/inomata_sanae/
 
Facebook
https://www.facebook.com/retortcurry/
 
店舗情報
〒111-0035 東京都台東区西浅草2-24-7
アクセス: つくばエクスプレス 浅草駅から徒歩5分
         銀座線 田原町駅から徒歩10分
TEL: 03-5246-4950
営業時間: 11:00~19:00
ニッチなお仕事 
vol.4 地域の魅力をカレーで伝えるご当地レトルトカレーマニア! ご当地レトルトカレー協会 理事長  猪俣早苗さん
(2022.8.19)

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