B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

欧米では政府要人も実践する取り組み

 
glay-s1top.jpg
buritora / PIXTA
さて1月。新年の始まりです。近年、この時季になると欧米諸国で同時多発的に立ち上がる、あるムーブメントがあります。「ドライジャニュアリー(Dry January)」です。
 
Dryとは禁酒・断酒のこと。January は1月です。つまり、ドライジャニュアリーとは、「毎年1月の1ヶ月間はアルコールを断つ取り組み」のこと。最初はアルコール依存症など飲酒由来の問題に取り組むイギリスのNPOが2013年に始め、その後、一般に広まりました。ベルギーでは「ドライフェブルアリー(Dry February)」と称して2月に同じことをします。報道によると、ベルギー以外にもフランス、ドイツ、スイスなど欧州各国で毎年計数百万人がドライジャニュアリーに参加するそうです*1
 
フランスでは去年、前の年の末に保健・医療アクセス担当大臣に就任した心臓専門医のヤニック・ノイデル氏が、1月は毎年1ヶ月間個人的に飲酒を控えているから今年も実行する、いかなるロビー活動にも屈しない、と宣言し、ワイン好きのマクロン大統領の不興を買ったとか、買わなかったとか*2
 
大臣が国家元首にも忖度せず堂々と主義信条を貫徹するお国柄はあっぱれの一言ですが、翻って本邦は――?
 
 

「今年の新年会、どうする?」

 
ある意味でその“踏み絵”ともなり得る催しが、年始早々、皆さんの職場にも訪れたはず。そう、新年会です。
 
オフィスに出社し、休暇中に溜まったメールやら案件やらを一通り片付け、ホッと一息ついた頃に誰からともなく発せられる、「新年会どうする?」の声。それを機に一斉に交わされる、目くばせ、目くばせ、また目くばせ。「幹事、誰がやる?」「お前、新人だよな」「ま? やるんですか!? 今時?」――声には出さずとも意思が疎通する不可思議は“同調圧力”という名の家父長制権威主義の呪いです。最初の口火を切った人も、努めて何気ないふうにとぼけた口調を装うのですが、声の端の震えに隠しきれない不安があらわれています。“それ”を言う側も「賛同してもらえるんだろうか」と不安なのです。
 
ちなみに、「ま?」は若者言葉で「マジ?」の略。令和の企業社会では、忘年会も新年会も、過去の遺物になりつつあるのかもしれません。
 
 

公平性と人材多様性に鑑みて

 
昨年11月末のダイアモンドオンラインの見逃し配信に、「飲み会、行かなきゃダメですか?」というZ世代の若手社員の質問に優秀な上司はどう答えるか、という記事がありました。回答は4つのポイントを指南しています。
・強制ではないことを伝える
・そのうえで自分なら行くと言う
・その理由を合理的に説明する
・(行くとどうなるかの)真実を過大でも過小でもなく伝える
⇒本人の意思は尊重しつつも、自分がビジネスパーソンとしてその会社で成果を上げるうえで、仕事をしやすくするための手段として、飲み会は非常に簡単でしかも効果的な手段である*3
 
そうだろうなぁ、と思いつつ、「しかし、これは“飲める”前提のロジックだぞ」と、もう一つの声が囁きます。体質的に飲めない人、飲酒を控えざるを得ない事情がある人、飲むのは好きだけど宴会は嫌いな人、などなど。そういった人は「付き合いの悪いやつ」とレッテルを貼られ、酒席で進む――酒席でしか進まない――交渉事や取り決めからハブられ、出世競争に劣後していくしかないのでしょうか。
 
コロナ禍真っ只中の期間に――とはいえ現在も「ポストコロナ」ではまったくないはずですが――高校・大学に在学し、学業も、教授や学友との交流もリモートが普通だった「リモート授業ネイティブ世代」は、人と会うときの潤滑・促進剤としてのお酒というものに馴染みがないまま、社会に出ました。
 
馴染みがなければ最初から「飲まない」を選択する人になって当たり前です。その人たちが、そのことだけをもって評価や査定に――公式にも非公式にも――ハンデを負わない職場に変えていくことは、機会公平性の観点からも人材多様性(外れ値的な人材への期待)の観点からも、今後、企業経営において重要になると思います。
 
 

飲酒に頼らない関係性構築と相互理解の深化

 
そうすると、新しく始めるべきは「飲酒に頼らない関係性構築と相互理解の深化」の取り組みでしょう。アルコールの理性弛緩作用を借りずとも胸襟を開いた会話ができること。うっかり話してしまった・聞いてしまったというのでなく本音を吐露できること・聞けること。
 
いずれも高難度のコミュニケーションです。心理面でも能力面でもハードルの高さに尻込みして、「だったらいいや」と止めてしまう人や場面が続出しそうです。
 
回数や頻度はハードルを乗り越える助けになるでしょうか。例えば、チームメンバーに対しては1on1ミーティングを毎週行う。それも3ヶ月から半年くらいは優に続けるつもりで行う。単純接触効果は一定の助けになりそうです。
 
他にも、古典的手法ではありますが、ランチを一緒するという手もあります。もちろん誘う側のおごりです。食べ物で釣るみたいですが、コスパ世代の若手には具体的で明確なメリットがないと響きません。もちろん、一回で済ませてはなりません。会社は、誘った社員に人数分の実費を支給するぐらいのことはすべきでしょう。
 
そうやって下地をつくったら、チームでノンアルディナーに繰り出します。ドレスコードのあるちゃんとしたメゾンです。狙いは、ハレの空間で気分が舞い上がる感覚を理性弛緩作用につなげること。大丈夫です。アルコールなしでも、食べ物がおいしければ人は感動する生き物です。会社は、誘った社員に人数分の・・・ごにょごにょごにょ(笑)。
 
 

ノンアルで楽しく飲む

 
「それだとお店に申し訳ない」と感じる必要もありません。近年は本場パリでもノンアルペアリングのコースを提供する店が増えているそうです*4。料理がメインではない酒類提供業、即ちバーでも、「バーテンダー」の斜め上ぐらいに「ミクソロジスト」という立ち位置が確立しています*5。今は、むしろ飲食業のプロたちほど、ノンアルから見える可能性を真剣に考え始めているのです。
 
さてそこで、ドライジャニュアリーです。「禁酒せよ。断酒せよ」というのは「酒の店に行くな」という意味ではありません。アルコールで酔わなくても気分が上がるやり方を探してみよう、ということです。
 
上司や中堅社員の皆さんは、「新年会どうする?」と言いそうになったら、あるいは言われたら、「ノンアルで楽しく飲めるいい店があるみたいだけど、そこでどう?」という言葉に変えてみるのはいかがでしょうか。もちろん、単にアルコールがないだけで説教・自慢話・ハラスメントは満載というのではいけませんが。それに、そもそも、説教・自慢話・ハラスメントに流れる人は、ウェットジャニュアリー(Wet January)であっても願い下げですが。
 
 
 
*1 欧州で広がる「1カ月断酒」 ビールやワインの本場で、記者も挑戦(朝日新聞 2025年8月20)
*2 「1月は禁酒に挑戦! 欧米で勢い「ドライ・ジャニュアリー」健康への影響を懸念 お酒離れに拍車も」(yahooニュース 2025/1/6)。ヤニック氏の姓の読みは他にノデール、ノイデール、ノイダ―、ニューダーとも。Yannick Neuder
*3 「飲み会、行かなきゃダメですか?」→デキる上司の“ベストな回答”とは?(ダイアモンドオンライン 2024年7月24日)
*4 フランスで「ノンアルワイン」のブームが到来! ワインの本場で生産者やソムリエたちがノンアルコールを選ぶ理由は?(フィガロジャポン 2025.12.05)
*5 「ミクソロジー」のすべて|意味・由来・注目される理由をわかりやすく解説(F&B Scene 2025年5月20日)
 
(ライター 横須賀次郎)
(2026.1.7)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事