干支に関心がない人も今年は・・・
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「あれ? てことは、新年って今日からなの?」――はい、その通り。本日めでたく令和八年が始まりました。昨日までは令和七年です。乙巳の年よさようなら。そして、こんにちは丙午。
というわけで、界隈は今、「今年はどんな年になる? 世の中の動き、あなたの運勢、etc…」というネタで持ち切りです。普段“干支”に関心がない人も、丙午(ひのえうま)に限ってはなんとなく風説を知っているでしょうから、今年は特に多くの人が、「今年は何かありそうだなぁ・・・」と、心ざわついているのではないでしょうか。
占い市場拡大の予感
そんな一年の始まりに、占い市場は今どうなっているかを見てみます。信頼できる調査資料で最も新しいものによれば、2023年度の占いサービスの市場規模は997億円。内訳は多い順に、「占いメディアサービス市場」372億、「対面占い市場」287億、電話占い市場216億、一気に減って「占いスキルマッチング(オンラインサロン)市場」65億です*1。
ただし、メディアサービス市場の数字は関連雑誌・書籍の販売額および広告出稿額の合計ですから、占いそのものの市場規模を表しているわけではありません。となると、287と216を足した503億円が、いわゆる占いそのものの規模と言えるでしょう。
全国で503億円はいかにも小粒ですが、他の産業に比べて現金決済が多いでしょうから、実態はもっと大きいと思います。また、占いは製造業や小売りと違って仕入れがない、原価率の低い産業です。仮に年売上高500万円の人でも大半が所得になるなら、世情の不安定化を見越した新規参入は今後も増えそうで、これから市場拡大が予想されます。
企業とAI占い
ここで重要なのは、占いの結果――本来は「占断」ですが、「予測」「推察」ととらえられていそう――が当たっているかどうかではなく、齟齬の所在と解消策をめぐる共通言語が二人の間に成立することのよう。しかも、それは外部の第三者委員会のような人間的主体感を伴う位置からではなく、あたかも超次元的なご託宣のようにしてもたらされます。この“非人称性”がまた良いのだとか。
必ずしも当たらなくてもよいなら、AI占いの用途は他にも見つかりそうです。例えば、「ほぼほぼ方針が見えている事案について、最後の意思決定ツールに使う」とかは、今でも企業が時々やっている、「わざわざコンサルを雇って『コンサル会社がこう言っているから』を採決の材料に使う」のと同工異曲でしょう。
また、近年は日本でも、大手企業は人事(採用・配属・チームビルディング)にMBTI (エムビーティーアイ:Myers-Briggs Type Indicator)を導入し、Z世代の就活生との間の共通言語になっています。MBTIは性格タイプ論をベースとした自己分析メソッドで、占術とは本質的に異なりますが、同じ作用ができるなら、占いを拒む理由はありません。
もともと、事業を始める日や独立のタイミングを見極めるなどの用途では、日本は昔から占いを使ってきました。例えば建設・不動産業界の神事(地鎮祭や棟上げ式など)は、暦を読む占術で日取りを決めます。「成功している企業は密かにやっている(やったから成功した)」との認知がもともと都市伝説的に普及している、つまり下地があるところに、ITおよびICTの進化(自動計算、インターネット、SNS、オンライン)で占術へのアクセスがコモディティ化すれば、企業が占術を経営に取り入れるのは当然だと思います。
卜術とマーケティング
卜術の最も素朴な形として上げられるのは、子どもの頃、脱ぎかけの靴をポーンと蹴り投げて地面に落ちたときに甲側と底側のどちらが上になるかでいろんなことを占った――明日が晴れかどうか、夕食に好物のおかずが出るかどうか、etc…――あれです。その意味で、子どもの頃は誰もが、純心な占術師なのです。
卜術は産業社会においてはマーケティング領域で、すでに多数導入されています。スマホでニュースを見るとき、「当たりが出たらポイント3倍クーポンゲット! 今すぐトライ!」などと出てくるガラポン。毎週のように郵便受けにポスティングされるフードデリバリーサービスの初回利用限定特典スクラッチ。
もちろん、それらは「当たりますように!」と念を飛ばして選を抽する時点で、どんな結果(占断)が出ても素直に受け容れるのが大前提である卜術とはまったく違います。あくまで籤(くじ)です。
しかし、「これで当たらなければ今回のあの件は止めておく」というふうに、籤の結果を占的(占いたい事柄)に対応させれば、立派な卜術です。「次にドアを開けて入ってくる人が男性か女性かでこの人にするかどうか決める」などという、今日もどこかで誰かがきっとやっているだろう恋占いも、こっちなら恋が成就する暗示、こっちなら上手く行かない暗示、と決めて自分で占う卜術です*3。
問題は、マーケティングで使われる籤は最初から当たりの上限数が設定されていることと、それ以上に問題なのは、特にWeb上の籤は、何度も引かずにはいられなくさせるサブリミナル効果が仕込まれていることです。カードゲームの課金ガチャにクレジットの限度額を突っ込んで、後で頭が真っ白になるのもそれはそれで悲劇ですが、大事な事柄の占断をそんな不出来で不純な卜に委ねて、もし不幸になれば、悔いは一生残ります。
「丙午の年はそういう衝動的な気分が起きやすいから、Webマーケティングには要注意!」と、門外漢ながら言っておきましょう。
*2 手相占いだけは相術です。
*3 卜術は能力がある人がやらないと託宣を正しく引けないので、本当にそれで決めるつもりの事柄は、自分でやるよりもプロに頼むことをお勧めします。
(ライター 横須賀次郎)
(2026.2.4)
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