B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

ビールが飲まれなくなった?

 
glay-s1top.jpg
buritora / PIXTA
暑くなると飲みたくなるビール。特にここ数年は、「日本の四季も今や昔。“春夏秋冬”は“夏夏夏冬”になった」と言われるほど、年がら年中暑いですから、きっとビールの消費量も右肩上がりに伸びているはず。
 
・・・と、思いきや、実はそうでもないようです。今年7月発表の最新の国税庁「酒のしおり」を見ると、集計がある中で一番新しい令和5年(2023年)の消費量が222万1000klだったのに対し、平成16年(2004年)の消費量は361万7000klありました。過去20年で約4割減です。
 
「こんな暑いのに、みんなビール飲まないの? なんで!?」と思っていたら、代わりに「リキュール」と「スピリッツ等」が伸びているんですね。
 
 

「今の人は酒を飲まない」は本当か

 
酒税法上の分類を言い出すとややこしいので、ここでは市中の感覚に即して「何々サワーとか、『○○の果実搾り』とかの商品名で売っている、大体は甘い系のシュワシュワしたお酒」というくくりで見てみましょう。そうすると、リキュールは同じ2004~2023年の間に69万2000klから203万8000klに爆増しています。ほぼ3倍に迫る勢いです。
 
ジンやウォッカや45度以上の焼酎等を指すスピリッツ等も、5万9000kl→85万8000klで、14.5倍という驚異の伸び率です。スピリッツ等は原料用アルコールといってチューハイやジントニックのベースにもなりますから、それも消費量の伸びにつながったかもしれません。
 
そうやって見ると、巷で言われる「今の人はお酒を飲まなくなった」というのは必ずしも真実ではなくて、好みが多様化して昔ながらの「ビールか日本酒」という飲み方ではなくなっただけ、という気がしてきます。酒類全体で見ても、9042t→7822tという減り幅は、生産年齢人口もこの間に1割5分減っていることを思えばさもありなん。
 
 

敢えてしたジャンルの濫発

 
とはいえ、全体におけるビールのボリュームはやはりデカい。最新2023年の集計においても、222万1000klというのは全酒類中最も飲まれているお酒です。2019~2022年の4年間こそリキュールに座を譲りましたが、2023年は再びトップ。2024年度以降直近までの売上高推移からも、勢いを持続している様子がうかがえます*1
 
背景にあるのはメーカーの“ビール回帰(本筋回帰)”です。一昨年10月に酒税率の改正と連動する形で「新ジャンル」が「発泡酒」に統合され、やっとビールと発泡酒の二種類に落ち着いたものの、日本では1990年代末以降、ビールは真正のビールと、1994年登場の発泡酒、それに「第三のビール」とも呼ばれた「新ジャンル」の三種類が濫立し、それらは「ビール系飲料」という言い方でくくられていました。
 
この間、「ビール系」という胡乱な定義を許したことで失ったものは少なくなかったと思いますが、ある意味でそれは仕方ないことでもありました。もとはと言えば、国が「理屈は後から。取れそうなところから取る」という野蛮な徴税姿勢を押し通したせいで、それに対抗して庶民のビール文化を守るために始まったジャンルの濫発でした。発泡酒にいたってはそもそも「戦後の原料調達難のなかで頑張って近寄せてつくったビール風味飲料」が始まりだそうです*2
 
いつだってメーカーは不利な条件下で、それでもおいしいビールを届けようと奮闘していた――そう思うと、一昨年からのビールの復権を支えているものは、明治の代に本邦ビール文化が開闢して以来営々と各社で培われてきた、「ビールメーカーとしての矜持」そのものかもしれません*3
 
 

本筋への回帰

 
もちろん、具体要因もあります。これも国の差配一つなのが悔しくはありますが、前節で触れた酒税率の改正です。
 
ビール系飲料は数年ごとに税率が改訂されており、従前は真正のビールにかかる税金は350ml缶1本あたり77円でした。それが2020年10月に70円に下がり、代わりに新ジャンルが28円から37.8円に上げられました。そして3年後、両者は再び税率が変更。新ジャンルは発泡酒と同じ46.99円に上がり、ビールは63.35円に下がりました。
 
この改訂を受け、年明け2024年に各社はいよいよ「ビール回帰」の方針を打ち出しました。新ジャンルの税率が発泡酒と同じになったのに続き、2026年にはその発泡酒の税率も、ついにビールと同じになるからです。長らく続いた酒税率による「ビールいじめ」の終わりが見えてきたからです。
 
 

心躍りするメーカー各社

 
その心躍りは今年2025年の1月~2月に発表された各社の事業方針に表れています。
 
一例でサッポロビールは、事業方針説明会の席上において、2024年度の実績を振り返り、「主力の『黒ラベル』が前年比109%、缶では117%と“異次元の成長”を実現できた」としました*3。また、『サッポロラガービール』――いわゆる「赤星」――の瓶が前年比121%と大幅伸長し、北海道限定の『サッポロ クラシック』も過去最高売上を達成したことが報告されています*4。2025年は真正のビールカテゴリーで前年の更にプラス4%の上積みを狙うと息巻きました。
 
またキリンビールは、2024年度の実績について、スタンダードブランドとしては17年ぶりの新商品の『晴れ風』が、目標の1.3倍の出荷数を達成したと報告。2年目となる今年2025年度は飲食店での取り扱いを開始し、前年比117%を目指すと宣言しました*5。さらに主力の『一番搾り』からも『一番搾り ホワイトビール』を新投入。同商品のその後の売行きは好調で、7月10日には当初の1.4倍に販売目標が上方修正されています*6
 
 

オリオンビールの挑戦

 
ビールに追い風が吹くなか、先月末は消費者にとっても一際明るいトピックがありました。沖縄のオリオンビールの上場です。
 
日本でビールメーカーといえば誰しも思い浮かべるのはキリン、アサヒ、サッポロ(ヱビス含む)、サントリーの4社ですが、オリオンビールも実は隠れたナショナルブランドです。「ローカルブランドでありナショナルブランド」という独自の立ち位置で全国にファンを獲得しています。
 
また、オリオンビールは、いわゆる“本土”の企業ではないという意味でいかにも沖縄のメーカーらしく、昔から海外市場に大きく目を向けています。ラベルに印字された「FROM OKINAWA TO THE WORLD」のロゴタイプを思い出す人もいるでしょう。「琉球新報」によれば、昨2024年の沖縄からのビール輸出量は8677kl。ボリュームこそまだまだ他の4社に及びませんが、伸び率は前年比43.2%増を記録しています。売上額も同42.7%増。共に過去最高の成績です*7
 
沖縄県の酒造業は日本に復帰した1972年から酒税軽減措置が続き、価格競争力の面では下駄を履くことができました。ただ、その措置もビールに関しては来年9月末に廃止され、以降はオリオンにとっては初めての各社横並びでの競争が始まります。
 
これからオリオンがどう輝くか。いちビール好きとして楽しみに見守りたいと思います。
 
 
 
*1 ビール業界の動向や現状、ランキングなどを研究(業界動向サーチ 2025/8/19)
*2 【さくっと解説】発泡酒が生まれた理由とその歴史は?ビールとの違い(うつわとのみもの 2022-08-30)
*3 サッポロビール事業方針説明会、“情質価値”の訴求で新規顧客拡大を目指す(グルメWatch 2025年1月15日)
*4 「2025年 サッポロビール事業方針」(公式サイトニュースリリース)
*5 販売絶好調の「キリンビール 晴れ風」飲食店展開開始へ(公式サイトニュースルーム 2025年1月16日)
*6 キリン一番搾り ホワイトビール絶好調 年間販売目標を計画比約1.4倍の270万ケースに上方修正(公式サイトニュースルーム 2025年7月10日)
*7 <社説>オリオンビール上場へ 企業の価値高める戦略を(琉球新報 2025年08月25日)
 
(横須賀次郎)
(2025.10.1)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事