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急伸する日焼け止め用品市場

 
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Maridav / PIXTA
今年のゴールデンウィークは「昭和の日」の曜日の巡り合わせが絶妙で、週休二日制のほぼ完全施行と働き方改革のW効果もあいまって、かつてない長期にわたった方も多かったのではないでしょうか。会社によっては「どうせみんな有休取るから」と4月26日~5月11日まで休みにしたところもあるでしょう。丸々休めば16日間です。
 
楽しかったゴールデンウィーク。――でも皆さま、ちょっと待って。サンケアはちゃんとされてましたか?
 
サンケアすなわち日焼け対策。環境省環境保健部発行の『紫外線環境保健マニュアル2020』を見ると、気象庁が基準地にする三ヶ所(札幌・つくば・那覇)のうち、那覇は言わずもがな、つくばも5月にはもう、正午を挟む前後2時間は、UVインデックスが外出をできるだけ控える目安の強さ(8~10:非常に強い)に達しています。国内の紫外線量は気象庁が観測を始めた1990年以降、長期的増加傾向を示しており、サンケアすなわち日焼け対策をせずに戸外で活動することは、生物学的に決して推奨されることではありません。
 
富士経済の今年2月3日のプレスリリース「機能性化粧品の国内市場を調査」も見てみます*1。この調査は2025年の注目市場の一つとして「UV(ホワイトニング)」を挙げています。それによると、今年の市場の規模予測は640億円で、2023年比23.6%増です。そもそもサンケア市場は2023年に「日焼け止め用品の累積出荷個数」ベースで前年比15%増と急伸しており*2、今年はさらにその23.6%増ですから、わずか数年でいかにサンケア用品が日用品市場でのプレゼンスを高めたかは、推して知るべしです。
 
 

気象庁の「紫外線対策 厳重注意前線」

 
2023年に急伸した理由としては、異常気象に伴う猛暑や、前年まで続いたコロナ禍による行動制限が解除されて外出頻度が増えたことがあげられるようです。
 
実際に、この年は晴れ日数の増加や平均気温の上昇などに関し行政から注意喚起が出されたほか、日本気象協会が春先の「桜前線」ならぬ「紫外線対策 厳重注意前線」という前線指標を新たに運用開始し、それまでと一段違う紫外線対策が呼びかけられました*3
 
特に、「紫外線対策 厳重注意前線」の関連では、ユニクロとの協力で「着る紫外線対策」をテーマにしたUVカットウエアの普及啓発を進めるなど、新設指標を周知してもらうための産官連携の動きも見られました。同様のキャンペーンは翌2024年も開催され、今年も4月3日から、日本気象協会運営の天気予報サイト「tenki.jp」などで市民にリーチする活動が始まっています。
 
 

日焼け防止は美容? 予防医療?

 
イギリスの市場調査会社Mintel Groupの日本法人、株式会社ミンテルジャパンのアナリストが語るところでは、欧米人と日本人では日焼け止めを使う理由が異なるそうです。欧米の消費者が日焼け止めを使うのは皮膚がんのリスクを避けるため。対して日本では、「シミを防ぐため」という美容の観点からの理由が圧倒的に多いのだとか*4
 
アナリストによれば、これは「そもそも日本人は民族的に皮膚がんリスクが低いためとも考えられる」とのことですが、サンケアすなわち日焼け対策が美容の範疇に入るか、予防医療の範疇に入るかでは、実施の切実度が違ってきます。その意味では、日本人の日焼け対策は中途半端なのかもしれません。
 
――と、いうようなことを言うと、「いやいや、“美白命”の女の人の日焼け予防ってすごいから。美容目的のほうがガチだから!」と、半ば感心、半ば辟易した男性陣の声が聞こえてきそうです。
 
でも、そんな男性陣の受け止め方も、紫外線を多量に浴びることの肌への影響が我がゴトになれば、むしろ素直に美白女性に日焼け止め指南を仰ぐほうに変わるかもしれません。
 
 

サンケア市場の成長は男性がリード

 
先のアナリストは日本のサンケア用品市場について、まさにその「男性」に潜在市場があると指摘します。記事から引用します(太字はママ)。
 
日本人男性の日焼止め使用者は13と女性の半分以下というデータがあり、開拓の余地が大きいことが分かります。使用率が低い理由には、日焼肌への考え方と知識の少なさがあげられます。日焼のデメリットをわかっていても選び方や使用方法がわからない男性も多くいるようです。特に選び方について知っていると回答したのは、男性の1/5人にとどまります。つまり、日本における男性日焼止め市場伸び悩みは、45人は選び方がわからないことが原因です。
 
この指摘は個人的にもうなずけます。筆者も、釣りを趣味にする前は日焼けを気にしたことなどありませんでしたが、今は「明日の打合せで先方をビックリさせないため」とか「肌が汚くなって将来仕事に支障を来すことがないように」とかの理由で、5月以降は日焼け止めを使うようになりました。そして、日焼け止め成分には「紫外線を反射させ弾き返す系」と「紫外線を肌表面で吸収して表皮に届かなくする系」の二種類があること、それぞれの長所と弱点を把握して使い分けるべきことなど、釣りを始めて日焼け止めを使うようになってから初めて知りました。
 
ちなみに、先月取り上げた「男性化粧品市場の伸長」の関連で見ると、男性の日焼け止め化粧品の市場規模は2019年から2024年の間にちょうど倍になっています*5。先のアナリストが指摘する通り、「日焼止め市場が成熟し、大きな成長が望めない昨今」においては、意外にも男性こそが、日焼け止め市場の成長のエンジンであるようです。
 
 

効果は疲労そのものの防止にも

 
そしてまた実は男性のほうが、ある意味で女性よりも、日焼け予防の効果が如実に表れるかもしれません。
 
昨年4月、獨協医科大学講師で早稲田大学スポーツ科学研究センター研究員の枝伸彦氏と資生堂との共同研究により、日焼け止めを塗って紫外線から体を防御すると運動中のパフォーマンスや運動後のリカバリーに好影響があることが実証されました。昔から言われる、「外で日を浴びると疲れる。同じ活動量でも(屋内にいたのとでは)疲労感が全然違う」という経験則が、科学的に証明された形です*6
 
「ドボ女(どぼじょ。土木女子)」「トラ女(トラック女子)」といった言葉がメディアに登場し、屋外で働く女性が増えてきたとはいえ、やはり、日の下で肉体労働に従事するのは男性が圧倒的多数です。従来彼らが感じていた疲労が、日焼け止め一つで有意に軽減されるとしたら――?
 
効果はサンケア市場にとどまらず、経済全体に波及するかもしれませんね。
 
 
*1 プレスリリース第25010号
*2 第173回 紫外線量は7月に増大、日焼け止め市場も年々拡大(日本生命「新社会人のための経済学コラム」2024年7月11日)
*3 日本気象協会『紫外線対策 厳重注意前線』を開発 ~UVインデックスが「強い」ランクになる時期を予想 ユニクロとともに注意喚起~(日本気象協会プレスリリース 2023.03.27)
*4 【未開拓のサンケアを見直し、潜在顧客にリーチする】日本人男性の4/5人は日焼止めの選び方を知らない(ミンテル Spotlight(2024年11月18日)
*5 成長トレンド続く「男性化粧品」市場(インテージプレスリリース 2025年2月4日)
*6 資生堂、日焼け止め等を用いて紫外線から肌を守ることで疲労感を軽減し、その後の回復も助けることを発見(資生堂ニュースリリース 2024年04月24日)
 
(ライター 横須賀次郎)
(2025.5.7)
 
 

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