現場に正しく意図を伝える難しさ
「選曲を変えない」が大事なんじゃない

取材されました。こう見えて中拳士二段です
私は、「ははぁ、多分みんなは、私が自分の好きな曲をかけてると思っているんだろうなあ。それで自分たちも、自分の好きな曲をかけているんだな」と思った。そこで、ベテランのアソシエイトを呼んで、こんなことを聞いて実験してみた。
「これ、最近始めたエントランスのBGMね。私は“70年代洋楽ロック”という基準で曲を選んでかけているんだけど、なぜだと思う?
急に聞かれてもわかんないか。ごめんごめん。70年代っていうのはさ、カメラ業界にとって黄金期だったんだ。日本の一眼レフカメラが世界で評価された時代で、現在のデジタル一眼も、この時代のデザインを踏襲したモデルが多い。また、白黒フイルムがカラーに変わり世界に広がったのもこの時代。一般家庭に写真撮影が広まったのもこの頃からだ。この時代にカメラ業界が一気に活気づいた。
ということはさ、当時を知っている60歳代・70歳代のお客さんが店に来て70年代洋楽ロックが流れていたら、どう感じると思う? また、フイルムカメラ好きの若い世代からしたら新鮮に感じないだろうか。キミも考えてごらん。
要はさ、私は自分が気分良くなるために70年代の洋楽ロックを流しているんじゃないんだよ。中古カメラも大々的に扱い始めたことだし、ノスタルジーの演出で流しているんだ。だから選曲は変えないでほしい。みんなにもそう伝えておいてくれ」。
彼は「わかりました」と請け合ってくれた。私は、あえて実験台としてそのままベテランの彼に任せてみた。
そして翌日。朝、店に行くと70年代洋楽ロックが流れている。うんうん、いいぞいいぞ、――と思ってPCを覗きこむと、画面部分の枠に付箋が貼ってあって、こう一言――。「副会長より。選曲変えるな!」
「まさか! そう来たかー」と思ったよね。「そして、これがうちの問題だったのか」と(笑)。
伝言ゲームはもう止め!
デジタルなら情報の劣化もノイズもない
私はその彼を責めるつもりはない。今まで――ワンオンワンミーティングを始める前まで――私が部下に対しやってきたことの結果が今現れているだけだからだ。
思い返せば、私は今まで、経営者としては甘すぎた。仕組みを構築し、その仕組みに乗れば各人が力を発揮できる体制を調えるかわりに、属人的な能力に期待しすぎた。この例でいえば、彼がベテランであることに甘えてしまったということだ。無意識のうちに、「後はうまくやってくれるだろう」と自分都合で考えてしまっていた。
もう一つ反省したのは、「これもマニュアル動画同様にメッセージ動画にすべきだったか」ということだ。
今、サトーカメラではDX化の一環で、企業戦略や社内ルール、現場販売員向けの接客マニュアルなどを動画にし、いつでも誰でも見られるようクラウドに共有化する作業を進めている。アナログな伝達手段しかなかった昔と違い、今は、データにして保存すれば、情報を伝える側の手間も、伝えられる側の受け取り損ないも、格段に減らすことができる。また、デジタルだから、伝言ゲームで必然的に生じる「情報の劣化」や「ノイズ」もない。
情報の劣化とは、今回の例でいえば「意図を説明した部分の欠落」だ。また、ノイズとは、今回の例は該当しないけど中間管理職が部下に対してやりがちな、「この情報は出すがこの情報は出さない(=それにより、会社ではなく自分の方針に部下を誘導しようとする)」という行動のことだ。
これらが混じるから経営者の意図が現場に正しく伝わらないので、その余地を無くせば、経営者は「なんでわからないんだ!」とか「どこで止まっているんだ!」とか思い煩わずにすむ。
経験を通じてしか学べないのが人間
そのおかげでコンサルの腕が磨けた
今振り返ると、「なんて意味のないことをしていたんだ」とつくづく思う。意味がないというのは、「人材教育の仕方として効率が悪い」という意味と、「まったく響かない人にも教育を与えていた」という意味の両方においてだ。
考えてみれば、しゃかりきになってそういう教育をしていた20年前当時から、「素質がない人をいくら教育しても無駄だぞ。ちゃんと資質検査でその人の素質を見極めてから教育しなさい」と、日本のチェーンストア理論の祖である渥美俊一先生から教わっていたんだよなぁ・・・。当時はまだ若かったから、「人の可能性を検査なんかで決めつけていいはずがない!」と、つい反発してしまったけど、今はその正しさがよくわかる・・・。
そうやって私が回顧していると、この連載の制作陣の一人が、こんなふうに前向きな合いの手を入れてくれた。――「でも、そのときにもし、資質検査による人の振り分けをご自身の教育方針に取り入れていたら、今みたいに『どんなに出来が悪い人や企業に対しても良さを引き出して成長させてあげられるコンサルタント』になってなかったと思いますよ。どうやったらこの人、この会社が成長できるだろう、と必死で考えなかったと思いますから。それだと試行錯誤もしないし、顧客を選んで終わりだったでしょうからね」と。
そうかぁ・・・。まぁ、そうなんだけどね。結局、人間は経験を通じてしか学べないなんだろうね。それで成長できるんだからね。
つくづく苦労性だなぁと自分で思うけど、これからも皆さんと、とことん付き合っていくから、ヨロシク!
■勝人塾IN新潟 11月5日(水)
事務局 おぐま経営研究所
■勝人塾IN富山 11月12日(水)
事務局 滑川ショッピングセンター
■勝人塾IN名古屋 11月25日(火)
事務局 ゴエンズ
■勝人塾IN郡上大和
事務局 郡上商業開発
【経営学と会計学を簡単に習得できる】
■第24回サトカメ栃木MG11月19日(水)-20日(木)
事務局 サトーカメラ法人営業課 担当野沢定久
https://forms.gle/DF4T4d6UEYgLJ3mU9
■最新著書「地域密着店がリアルとネットで全国繁盛店になる方法」
https://amzn.to/3EfDs6W
■YouTube佐藤勝人チャンネル登録ヨロシクお願いします
https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw
■最新情報が届く佐藤勝人のLINE公式会員募集
https://lin.ee/qZEREN1
■佐藤勝人講演・セミナー・個別支援のお問合せ
contact@jspl.co.jp
vol.108 資質検査と“ヒト”へのフォーカスの間。そこで思い知る苦労性
(2025.9.17)
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副会長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
オフィシャルサイト
オフィシャルフェイスブック
https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts
サトーカメラオフィシャルサイト
YouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)
https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)