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国際線チーフパーサーとしてVIP用特別機を担当し、天皇皇后両陛下や各国の元首クラスを接遇してきた里岡美津奈氏。「パーソナルクオリティ」を磨くことで日常の、あるいはビジネスのパフォーマンスを向上させるプロフェッショナルです。里岡氏が送るワンランク上のコミュニケーションメソッド。最終回は、“クオリティ”論総まとめ。
 
 

仕事に精通すれば「余裕」を持てる

 
 前回からの宿題です。仕事上で自分なりの「スタイル」を生かすには、精神的・時間的な「余裕」が不可欠だ、という話をしました。とはいえ、言うは易く行うは難し。毎日、忙しさで目が回りそうな中、私たちはどうすれば「余裕」を持てるのでしょうか?
 
 私の解答はこうです。「余裕」を手にするには、自分の仕事においてスペシャリストになればいい。
 
 ・・・そんなの当たり前じゃないかと、拍子抜けした人もいるでしょう。まるで、仕事で評価されたいなら「余裕」を持ちなさい、そして「余裕」を持ちたいなら仕事ができるようになりなさい、と言っているみたいですから。
 もちろん、私が伝えたいのは、そんな堂々巡りの考えではありません。そうではなく、「余裕」を武器にできるのは人生の後半からで、それまでは「スタイル」のことなど気にせず、目の前の仕事にとことん打ち込むべき、と申し上げたいのです。
 つまり、「スタイル」も「余裕」も、自分のものにするには相応の時間がかかるということ。ただし、新人の頃と変わらないガムシャラな働き方を続けている限り、いつまで経っても「余裕」など生まれません。
 では、どうすればいいのでしょうか?
 
 

自分の仕事全体を見渡すということ

 
 私の考えでは、自分の仕事について基礎から段階的に学ぶ努力を5年、10年と続けていけば、自然に少しずつ「余裕」が出てきます。CA時代の私も10数年かけて自分の「スタイル」を身に付けましたが、それがちょうど「余裕」を持てるようになった時期と重なるように思うのです。
 
 CAという仕事の中で、チーフパーサーの肩書きを仮にゴールだとすると、最初はエコノミークラスのキャビン担当からスタートし、ギャレー(調理室)を経て、成長が認められるとエコノミーのパーサーになります。そして順調に行けば、ビジネスクラスのキャビン、ギャレー、パーサーと進み、ファーストクラスでも同様のコースを歩んで、ようやくチーフパーサーになれるわけです。
 ゴールした後も苦労は尽きません。世界中に延びた各路線によって、パリやロンドン、ニューヨークと結ぶ13時間のロングフライトなら無論のこと、短いフライトにも短いなりの大変さがありました。今振り返っても、20代の頃の私は、毎日新しいことを覚えるだけで手一杯でした。「本当に終わりのない仕事だなぁ」と実感したものです。
 
 それでも、10数年の経験が積み重なって、気が付いた時には、どんな場面でも落ち着いて行動できるようになっていました。たくさんの後輩に囲まれる立場に立ってようやく、自分の仕事を隅々まで見渡せる「余裕」がもたらされたのでしょう。
 
 

何を買うかよりも「誰から」買うか

 
 さて、一段上のあなたを目指して、自身の「クオリティ」を意識することから始めませんか?──こんなメッセージを込めた本連載も、最終回を迎えました。ここまで1万字余りを連ねてきましたが、要点はいたってシンプルです。
 まず、あなたの「クオリティ」がどれほどのものかは、あなたではなく他人が決めるということ。今の評価を受け入れ、もっと高めるためには、自分を一個の「商品」として社会に売り出す覚悟がなければいけません。
 さらに、相手に伝えない(伝わらない)長所は、ないのと同じだということ。ともすれば内向きになりがちな日本人の殻を破って、自分が身に付けてきた仕事や社会生活の流儀=「スタイル」を堂々とアウトプットするべき、という踏み込んだ主張をしました。
 
 モノやサービスの仕組みを進化させるのも、それが社会に受け入れられるかどうかを分けるのも、結局はそれに携わる人の「クオリティ」だと思います。もっと端的に、何を買うかよりも「誰から」買うかが肝心だ、と言ってもいいくらいです。
 わかりやすいのはチェーン店。たとえばカフェにしても、1杯数百円のコーヒーをどの店舗で飲んでも変わりませんし、接遇の仕方も細かく決められているので、看板が同じならどこへ行っても標準化されたサービスを受けられるはずです。ところが、実際に複数店舗を利用された方なら、店の印象がどこでも同じではないことをご存じでしょう。
 
 (会社の近所にある○○店は雑然として落ち着かないのに、ここは何となく居心地がいいな。今度は友達を誘って来ようかな・・・)
 
 この「何となく」の正体こそ、店のスタッフの「クオリティ」の違いです。共通のマニュアルに従っていても、たくさんのリピーターに恵まれる店もあれば、そうではない店もある。立地条件なども無視できませんが、決め手はやはり人。同じ商品を扱うチェーン店だからなおさら、働く人の「クオリティ」が際立ってしまうのです。
 
 

あなたにも「クオリティ」がきっとある

 
 ──最後に、ちょっと矛盾したお話をします。ついさっき、日本人の殻を破って、などと書きました。しかし、どうか日本人が持つ「クオリティ」は大事にしてください。いつも他人の心を思いやり、敬意や親愛の情をはっきりと伝える代わりに、さりげない言葉やしぐさに表すことのできる細やかさ、慎ましさ。国際社会では時に伝わりにくいこともあるから、もっとアピールしていいと何度も強調しましたが、そうした奥ゆかしい心が日本人の「クオリティ」の根源にあって、それが世界に誇るべきものであることは間違いありません。
 
 本来「クオリティ」とは一人ひとりの個性に属するもので、いたずらに国民性などで区別するのは誤解や偏見のもとです。けれど、国際線CAの長い経験を通じて、世界中の人たちが持つ様々な美点に触れてきた中で、やはり日本人には日本人のよさがあるな、とつくづく感じました。それを「クオリティ」と呼べるなら、これからも失いたくないと思うのです。
 
 素晴らしい「クオリティ」の芽はあなたの中にもきっとあります。あとはそれをどう育て、開花させるかです。さあ胸を張って、それぞれの舞台で大いに前進しましょう。
 
〈連載了〉
 
 
 
 
"クオリティ"から始めよう ~元トップCAの信頼をつかむコミュニケーションメソッド~
vol.6 (最終回) さあ、それぞれの舞台で始めよう

 執筆者プロフィール 

里岡美津奈 Mitsuna Satooka
人財育成コンサルタント

 経 歴 

1965年生まれ。愛知県岡崎市出身。1986年に全日本空輸(ANA)に客室乗務員として入社。以来24年間、国内線および国際線に乗務し、うち15年は国賓クラスの特別機を担当。その接遇技術と実績が評価され、「ANAで最も優れたキャビンアテンダント」と呼ばれるように。2010年の退職後はパーソナルクオリティコンサルタントとして活躍。国内外のVIPを多数接遇した経験からくる独自のコミュニケーション論や能力開発メソッドが注目されている。

 フェイスブック 

https://www.facebook.com/mitsuna.satooka

 
 
 
 

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