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国際線チーフパーサーとしてVIP用特別機を担当し、天皇皇后両陛下や各国の元首クラスを接遇してきた里岡美津奈氏。「パーソナルクオリティ」を磨くことで日常の、あるいはビジネスのパフォーマンスを向上させるプロフェッショナルです。里岡氏が送るワンランク上のコミュニケーションメソッドも、残すところあと2回。今回は最終回に向けて、まずは「スタイル」の総括です。
 
 

自分の個性をわかりやすく伝えよう

 
 改めてまとめると、この連載でいう「スタイル」とは、あなたが社会の中でたくさんの経験をしながら作り上げた、自分の外見や振るまい、言葉づかいなどを指す広い概念です。また、「スタイル」は自分から表現するものだ、とも書きました。表現というからには、自分の外に向けて、つまりは誰かに伝えようとするもの、ということになります。
 
 この国では長らく、自分の能力や長所をそっと内に秘めて、むやみに表に出さない態度が好ましいとされてきたように思います。だとすると、私の「スタイル」論は、いかにも実情にそぐわないと言わざるをえません。たとえばあなたが、この日本的な美徳の通りに自分を隠してしまうと、「スタイル」で人柄を計ることも困難になるのですから。
 
 それでも、あえて主張しましょう。これからの日本人は、先祖から受け継いだ文化や価値観のいいところも残しつつ、もっと自らをアウトプットすべきだ、と。理由は、「スタイル」が明確な人ほど、他人から見てわかりやすい、つまり個性ある一人の人間として理解されやすいからです。
 自分をアピールするのが得意じゃない日本人は、特に見た目や言動で他人を見定めることに慣れた欧米の人たちにとって、「正体がつかめない」「印象に残らない」存在になりがちです。ビジネスを中心にグローバルなものの見方が広がっている今、控え目なキャラクターが原因で本来の能力がきちんと評価されないとしたら、その人はとても大きな損をしていることになります。もったいないですよね?
 
 グローバルな舞台に出ていく日本人は、もっともっと「わかりやすい人」になっていい。わかりやすさに近づくには、自分の「スタイル」を臆することなく、全身で表現すること。これが最善にして唯一の方法であるはずです。
 
 

優れた「スタイル」は仕事に役立つ

 
 自分の「スタイル」を表現しようという私の提案に、こんな疑問を持つ人もいるでしょう。「スタイル」が自分への評価に関わるとしても、仕事で成果を出すことのほうが、社会の評価を得るための優先順位は断然上ではないか。待ったなしの重要案件でネコの手も借りたいような時に、見た目など構っていられないではないか、と。
 
 確かに、仕事よりも「スタイル」を優先するようでは本末転倒です。しかし、長年CAの世界を見てきた私にとっては、「スタイル」もまた仕事に不可欠の要素にほかなりません。CAが働く機上の現場では、洗練された外見や身のこなし、お客様への配慮が行き届いた言葉づかいなどを、常に高いレベルで求められるからです。
 同じことは、接遇やサービス業以外にも当てはまります。たとえば、あなたが今から会議に出ることを想像してみましょう。参加者に配る資料が揃わなくて焦っている状態なら、自分をどう見せるかまで気が回らないのも仕方ありません。いっぽうこれとは対照的に、資料もプロジェクトの理解も準備万端だとしたらどうでしょうか。あなたは会議室に向かう前に、これから行うプレゼンに織り交ぜる効果的なジョークを考案するかもしれないし、鏡の前で髪やネクタイを入念に整えるかもしれません。
 
 もうおわかりだと思います。二つのケースの前者になくて後者にあるもの、それは「余裕」です。どんな仕事でも、事前の準備がしっかりと出来ていて、なおかつもっといい結果を出そうという「余裕」さえ持てれば、あなたは自分なりの「スタイル」を存分に生かすことができます。
 さっきの例でも、「余裕」を持って会議に臨んだあなたは、これまでの経験や勉強で身に付けた「スタイル」を武器に、大いに自分をアピールできるでしょう。TPOをわきまえた清潔な服装、議論を深める幅広い知識、他の参加者からもアイデアを引き出す柔軟性・・・などなど。ただ資料を棒読みした場合と、どちらが周囲から評価されるかは明らかです。
 
 

多忙な中でも「余裕」を保つために

 
 さて、ここまで考察を進めたところで、一つ大事な問題が残っていることに気付くでしょう。忙しい毎日の中で、私たちはどうすれば「余裕」を保てるのでしょうか?
 まず押さえておきたいのは、大学を出て間もない新入社員に向かって、「余裕」を持て、「スタイル」を生かせと勧めるのは無理があるということ。誰でも社会に出て職業に就いたら、脇目も振らずに努力しないと前進できない時期があるものです。そうして仕事を覚える間は、自分の「スタイル」などを意識するより、先輩のいいところをどんどん見習うべきでしょう。
 
 この連載を読んでくださっている皆さんは、そうした修業時代よりも一歩先の中堅の立場か、いつか経営者になることを目指している(あるいは、今すでに経営者である)人たちが中心だろうと想像します。新人の頃とは違うステージに立っていても、忙しさは変わらないどころか、さらに拍車がかかっているかもしれません。ですが、そんな皆さんにこそ、「余裕」を持って仕事に取り組んでいただきたいのです。
 
 果たして、どうすればいいのか? 私からの解答は、この次の最終回で。一つの仕事、同じ職場だけにとどまらず、人生という大きな枠組みの中で、この問題を考えてみたいと思います。そして、連載のタイトルにもなっている「クオリティ」について、最後のまとめを行うつもりです。請うご期待!
 
 
 
 
"クオリティ"から始めよう ~元トップCAの信頼をつかむコミュニケーションメソッド~
vol.5 あえて「わかりやすい人」になろう

 執筆者プロフィール 

里岡美津奈 Mitsuna Satooka
人財育成コンサルタント

 経 歴 

1965年生まれ。愛知県岡崎市出身。1986年に全日本空輸(ANA)に客室乗務員として入社。以来24年間、国内線および国際線に乗務し、うち15年は国賓クラスの特別機を担当。その接遇技術と実績が評価され、「ANAで最も優れたキャビンアテンダント」と呼ばれるように。2010年の退職後はパーソナルクオリティコンサルタントとして活躍。国内外のVIPを多数接遇した経験からくる独自のコミュニケーション論や能力開発メソッドが注目されている。

 フェイスブック 

https://www.facebook.com/mitsuna.satooka

 
 
 
 

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