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人間の活動を支えるテクノロジー

 
正月の風物詩となっている箱根駅伝。東京オリンピックイヤーでもある今年2020年は、青山学院大学が2年ぶりに総合優勝を果たした。その際、青山学院の選手たちが履いていたことでも話題となったのが、ナイキ社製の最新型シューズである。このシューズを履いたランナーは男女ともにマラソンの世界記録を更新し、2019年の陸上界を席巻した。
 
しかし、国際陸上競技連盟(IAAF)の判断により、このナイキ製シューズの使用が禁止されるかもしれないとして報じられている。人間の持つ能力が最大限まで発揮できるよう研究され、進化するテクノロジーがもたらす恩恵も、人間本来の身体能力を競うスポーツにおいては、利用の是非について議論は尽きないだろう。
 
一方、オリンピックとともに開催されるパラリンピックの陸上競技では、かつて“ブレードランナー”の異名で脚光を浴びた両足義足の陸上選手、オスカー・ピストリウスが装着していたカーボンファイバー製の義足が、当時の最先端技術として注目された。これは、障害というハンデをテクノロジーで補うことで、義足のパラリンピック選手も健常者のオリンピック選手に匹敵するほどの能力を発揮できると示された好例であると言えよう。
 
また、“車いすの物理学者”として有名な故スティーブン・ホーキング博士は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患いながらも、量子宇宙論などの研究で数々の功績をあげたことで知られている。ホーキング博士は電動車いすを用いたり、コンピューターの合成音声で会話やスピーチを行ったりして、研究活動や意思伝達を可能にしていた。
 
最近では、従来よりも高度な義手・義足の開発や、センサーで光を電気信号に変換して電極で視神経を刺激する人工網膜の研究なども行われている。こうしたテクノロジーによって身体的なハンデを補うことにより、高齢者や障害者も現役世代や健常者と同じように生活や仕事ができるようになることが示されている。
 
そこで、今回は人間の動作や活動を補ったり、拡張したりなど、テクノロジーを積極的に活用することによる働き方について考えてみたい。
 
 

遠隔操作によるアバター(分身)ロボット

 
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遠隔操作に加え自律稼働も可能なアバターロボット「ugo」
人間の動作を補ったり、身体能力を強化したりするテクノロジーで言えば、パワードスーツやパワーアシストスーツなどと呼ばれる強化外骨格、いわゆる“人が着るロボット”がよく知られている。このスーツによって足や腰にかかる負担を補うことで、一般的な人間の筋力の何倍もの力を発揮できるため、重い荷物を運ぶ仕事や介護などの分野での活躍が見込まれている。
 
また、人間の身体能力を拡張するテクノロジーでは、人の手による遠隔操作のロボットやドローンなどが例としてあげられるだろう。今回はその中でも、Mira Robotics株式会社(ミラロボティクス)が開発したアバターロボット「ugo(ユーゴー)」に着目した。
 
ugoは2本のアームと高さ調整によって、さまざまな業務を行うことができる。さらにAIによる学習機能も持ち、同じ稼働条件下であれば自動モードも可能で、従来のアバターロボットとAIによる自律稼働ロボットの両方の利点を持つという。現在は、このugoを活用したオフィスビルや商業施設の警備・清掃・点検などの、ビルメンテナンスサービスの提供を予定しているとのことである。
 
さらに、Mira Roboticsの代表取締役CEOである松井健氏によれば、将来的にugoが“新しい作業を学習”したり、“新しい場所の地図を登録”したりする機能を搭載する予定だという。これにより半自動化を進め、1人のオペレーターが複数台のロボットを同時に監督できるような運用方法を見込んでいる。
 
半自動化を実現するためのテクノロジーとしては、画像認識や物体認識、ロボットアームの制御、SLAM、リアルタイム処理のエッジコンピューティングなどに力を入れていくとしている。また、オフィスや商業施設だけでなく、公共施設やプラント、最終的には各家庭への導入も予定しているそうだ。今後はより幅広い分野での活躍が期待できるだろう。
 
 

テクノロジーは人の可能性を生む

 
近年ではブレイン・マシン・インターフェース(BMI)という脳波によってロボットをコントロールする技術も開発されている。2018年には内閣府の政策によって創設された革新的研究開発推進プログラム、通称ImPACTのもとで行われた実験で、人が両腕を使いながら、並行して脳でロボットアームを操作する手法を世界で初めて実現した。この研究成果は、アメリカの科学誌「Science Robotics」に掲載された。
 
人が考えるだけでロボットを制御できるとなれば、実験のように3本目の腕として身体能力を拡張するだけでなく、ugoのようなアバターロボットの制御システムとして用いることで、よりフレキシブルな活動が可能となるだろう。さらには、先述のホーキング博士のように重度の障害を抱えている人でも、不自由なく仕事を行えるようになるはずだ。それに、生身の人間では活動が難しい場所での作業など、人の仕事の幅はまだまだ広がり続けるに違いない。
 
以前、本誌で連載した「人生100年時代におけるシニアのセカンドキャリア vol.2」において、一般社団法人高齢社会共創センターのセンター長を務める、東京大学名誉教授の秋山弘子氏は「将来的にシニアの仕事もAIなどのテクノロジーで補完できると考えています」とし、また「最近はAIの進化が雇用を減らすのではないかと危惧する声も聞かれます。しかし、高齢者にとってはむしろ有益なのです」と述べている。
 
この連載でも繰り返し述べてきたように、テクノロジーは活用次第である。テクノロジーの進化は、人の雇用機会を奪うよりも、むしろ人の新たな仕事の可能性を生み出しているのではないだろうか。それこそ、活用次第ではこれまで人間では不可能だとされてきたことも可能になるだろう。
 
一昔前、それこそ昭和の時代であれば夢のような話だったかもしれない。しかし、今は2020年、令和の時代となり、まるでSF映画に出てくるような技術も普及の一歩手前まで来ている。これからは年齢や性別、身体的ハンデに左右されることなく、誰もがより良い働き方ができる未来を期待したい。
 
 
■Mira Robotics株式会社
https://mirarobotics.io
 
良いも悪いも活用次第!? AIで“変える”日本の仕事
vol.3 テクノロジーが支える人間の仕事
(2020.1.29)

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