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初めての喫煙体験

 
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ケイーゴ・K / PIXTA
私事で恐縮だが、そしてこのテーマに関しては私事から始めないとフェアでないと思うから書くのだが、筆者は昔喫煙者だった。といっても月1箱程度の、まっとうな喫煙者からは「君のタバコはどうでもいいタバコだね」と微妙なニュアンスで評価されるレベルで、厳密に言えば1箱も残り2、3本で捨ててしまい、次に思い出して買って吸うまでに1ヶ月ぐらい空くという、まことにスモーカーの風上に置けない喫煙者だった。
 
そうなった理由は自分でわかっており、小学5年生の時に家の近くの建設資材置き場で横積みの大きな土管を探検して遊んでいて、近所の高校の不良たちの喫煙所になっていた1本にまぎれこみ、置いてある喫煙セットに好奇心から手を出した時の、世界が舞い上がるようなあの感覚が、その後、どの銘柄をどれだけ吸っても得られなかったからである。
 
なお、これも本稿の内容にからむので付記すると、筆者は非喫煙者家庭の出身である。初めてのその喫煙は見事に通りがかりの農婦によって学校に通報され、翌日の放課後先生から一喝され、夜は帰宅した父親に思い切り張り飛ばされた。
 
それでもタバコの雰囲気への憧れは残り、中学時代には地元の新聞社発行のタウン誌の路上タバコ特集号を本屋で見つけて持ち帰り、熱心に読んだのを覚えている。いわく、「タバコは実は砂糖で味付けがしてあり、CASTER(キャスター)とPeace(ピース)はバニラ、hi-lite(ハイライト)はラム酒、SevenStar(セブンスター)はスパイス、HOPE(ホープ)は蜂蜜、 CHERRY(チェリー)はドライフルーツ、わかばはヨモギ・・・(※記憶ママ)」。そのときの雑学が成人してからの銘柄遍歴の指針になったことは言うまでもない。
 
 

禁煙運動は現代の魔女狩りか否か

 
今年1月24日、改正健康増進法(受動喫煙防止法)が一部施行され、国と自治体は受動喫煙の防止に努めることが責務になった。7月には学校・病院・児童福祉施設と行政機関庁舎の敷地内が禁煙になる(屋外で受動喫煙防止措置がとられた喫煙所は可)。そして来年4月には同法が全面施行され、個人宅やホテルの客室等以外、あらゆる公共の――「多数の者が利用する」――場所が原則屋内禁煙になる。「喫煙者受難時代」の始まりだ。
 
――と、書いただけで禁煙派から容赦ない批判が殺到するのがこのテーマの難しさだ。いわく、「すでに喫煙率は18%まで減っているのに(JT発表資料)、それを言うなら圧倒的多数の非喫煙者こそ今までずっと受難時代だったのだ。よくそんなことが言えるな!」、あるいは「喫煙のせいで年1兆4902億円の超過医療費が発生している(国立保険医療科学院資料)。人さまに迷惑をかけるな!」と。
 
そしてまた、二言目はともかく一言目は科学的客観的に否定できないから難しい。公平に見て喫煙者は喫煙を止める方向に向かったほうがいいことは間違いない。本人のためにも公徳心としても明確にそのほうが正しい。ダライ・ラマ14世は「すべての物事は相対的なのです」と語ったが、喫煙の健康リスク=非喫煙者にとっての健康被害に関しては、両者痛み分けにならないのである。どちらかがどちらかに対し一方的に正しい立場に“立ててしまう”のだ。
 
思うに、諸外国に比べて日本が喫煙に対して寛容なのは、この種の「自分が一方的に正しくなれる問題」を前にあえてそこに立つことへのためらいと戸惑いがあるのではないか。
 
その意味で禁煙推進派の人たちは喫煙擁護派の反発を予想しつつあえてその立場に立った人たちであり、どちらの「派」にも立たない大多数の人たちは、「命の問題なのに何も行動しないという選択はありえない」という彼らの主張も、賛同を求める声が時に強制的になることも、理解しなければいけないと思う。
 
また、喫煙擁護派は禁煙ファシズムなどとレッテルを貼って彼らの言動を封じる無理筋は止めたほうがいい。そのほうが「派」に立たない大多数の人たちの共感を得られる。そして来年4月からは法改正の内容――「喫煙は屋外か専用室で」――に粛々と準じるべきだろう。公共の場で喫煙する人は非喫煙者に対し、受動喫煙で年1万5000人が死亡しているという統計的事実の責を負っている(前述の国立保険医療科学院資料、また【NATROMのブログ】「受動喫煙による死亡者数はどうやって計算しているのか」も参照)。
 
 

飲食店と客はどう対処する?

 
では、企業や店はどう対処すればよいか。受動喫煙が特に問題になるのは飲食店だが、完全施行されて屋内禁煙になっても実際にはさほどマイナスの影響はないのではないか。入口の外や屋外バルコニー、あるいは店内の専用室ではマナーを守れば喫煙できるわけで、そこに行くのが面倒という程度の理由で来店頻度が減る喫煙客は、少なくとも常連客にはいないだろうからだ。右手にタバコ、左手に酒のスタイルで飲食したい客は多少足が遠のくかもしれないが、その人たちも時代の空気にならって徐々に新しいスタイルに慣れてくると思う。
 
ただしこれは、店が路上喫煙禁止区域に立地して“いなければ”の話だ。客が喫煙時に路上に逃げられず、費用やスペースの面から店内に喫煙専用室を設けることもできない店は、客が喫煙をあきらめてくれるか、よく成功例で取り上げられる「串カツ田中」のように完全禁煙によって客層が入れ替わるまでは、屋内禁煙にともなう影響をある程度覚悟しなくてはならないだろう。
 
個人店はさしあたって「店先路上喫煙」の可否が鍵になる――この想定で、例えば東京都を見てみよう。
 
屋外の公共空間(道路や公園等)における喫煙に関しては各自治体が条例を定めている。最も厳しいのが千代田区・新宿区で、区内全域で全面禁煙。次いで港区・世田谷区は区指定の喫煙場所以外は全面禁煙。比較的ゆるいのが葛飾区や北区で、区内全域で歩きタバコとポイ捨てを禁止するがマナーを守った路上喫煙はOK。そして最も多いのが、品川区や文京区のような、歩きタバコとポイ捨てを禁止しつつ、人が多く集まる区指定の場所・地域は路上喫煙も禁止にするパターンだ。市町村では、例えば武蔵野市は条例には定めずマナーに訴える形で、品川区と同じパターンを喫煙者に求めている(武蔵野市サイト)。
 
他、喫煙専用室の設置に対する助成に関しては厚生労働省のサイトを示しておこう。東京都については助成関連以外も国の考えと違う点がいくつかあるので、都の福祉保健局サイトから確認してほしい。従業員を使わない店が禁煙・喫煙を選べる「都指定特定飲食提供施設」として営業を続けるための手続きや、場合によっては喫煙目的施設として営業していく際の条件など、より細かい問い合わせに対応しているはずだ。
 
 

ほんの2年前までは

 
最後に蛇足ながら、筆者も本来「喫煙者は対応を!」などと偉そうなことが言える身ではないことを告白して公平性の担保を。
 
先の国産各銘柄と外国産のメジャー銘柄を遍歴した後、筆者が最後に落ち着いたのは青のhi-liteの両切りだった。hi-liteに両切りはないのだがフィルターを取って吸っていたのである。それも最初の雑学で「先端の燃焼部から1.5cmぐらい根本のほうで蒸されて出る色の薄い煙がタバコのアロマの本体」と知っていたので、先に呼吸と別にスーッと口で吸い、燃焼部に外気を迎え入れて高温になったタバコの胴から染み出てくるアロマ煙を、口角から出てくる白い煙と一緒に、ゆっくり、鼻から深呼吸して吸った。そうやってhi-liteの両切りを2本チェーンスモークすると、舞い上がるほどでなくても頭がほわーんとしたからだ。ようは禁煙推進派が総毛立つようなエグイ吸い方をしていたのである。
 
ちなみにこの吸い方は空気が動いていると無理なので、屋外や、屋内でもエアコンが回っている場所ではあまり喫煙せず、もっぱら自宅で味わうのが常だった。加えて冒頭の頻度だから、たまに外でタバコを出すと「吸う人だったの!?」と驚かれた。ほんの2年前までのことである。
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2019.2.6)
 
 

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