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「ご注文はQRコードからどうぞ」

 
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阿部モノ / PIXTA
最近、飲食店に行くと、「ご注文は卓上のQRコードから」のお店がめっきり増えました。テーブル席でもカウンターでも同じです。先日は三軒茶屋で入った餃子居酒屋がその方式をとっており、飲食店でスマホを眺める習慣がない筆者は食事外出だったのでスマホを携帯しておらず、同行者の世話になりました。
 
お店の名誉のため言い添えると、その店のスタッフは、ピークタイム直前の忙しい時間帯にもかかわらず「当店のご利用は初めてですか?」から始まり、口頭で頼んでもらってもOKなこと、不明点があれば呼んでほしいことを言い添えてから、「こちらもご覧ください」と紙のメニューを示して席を去っていきました*1
 
「QRコードから注文」方式――以降、QRコードセルフオーダー――の特徴は、注文を客が自分のスマホから行うこと。この方式を批判する向きの多くは、注文取りは本来店側の業務なのに、客に作業を転嫁するばかりか、客のスマホの通信料とバッテリーを当てにしている――タダ乗りしている――点を指摘します。同じセルフオーダーでも「卓上タブレットから注文」方式は端末費用も通信電力も店側が負担するので、問題ないようです。
 
 

店側の必要性は

 
QRコードセルフオーダーの普及度合を消費者の利用経験率で見てみます。ホットペッパーグルメ外食総研の調査では、利用経験率は昨年夏時点で67.5%。同じ調査で2021年は26%、2024年は57.1%ですから、年当たり伸び率10%前後を維持しています*2。今年夏に同様の調査をすれば、もっと利用率が伸びているでしょう。
 
なぜ好調が続くのか。必要性とメリットの2つの側面から探ってみます。
 
まず必要性から見ると、好調の背景には人手不足がありそうです。帝国データバンクの調査によれば、長らく外食産業の現場を支えてきた非正社員(アルバイト・パート)の不足を感じている飲食店は、昨年春時点で65.3%に上ります。
 
ただ、一昨年は74.8%、さらにその前は85.2%でしたから、不足感は-10ポイント前後のペースで年々薄らいでおり*3、もしかしたら、QRコードセルフオーダーの普及と逆相関しているかもしれません。
 
昨年10月から先月末にかけて全国で新しい最低賃金法が発効し、時給が大幅に上がったことからも*4、店側はこれまで以上に省人化に積極的になるはずです。QRコードセルフオーダーの必要性は、当面薄れることはなさそうです。
 
 

店側のメリットは

 
次にメリットに関しては、
◇注文取り(決済機能付きなら会計も)の時間・手間を省ける
 ┗A,効率を上げて売上を伸ばす
 ┗B,減った手間・時間で接客を濃くする
◇少ない人数で​店を​回せる
 ┗人件費を抑え利益確保
◇未熟なホールスタッフでもある程度の戦力になる
 ┗欠員リスクの最小化
といった点が​大きいとされています。
 
他には、「ピークタイムでもオーダーの聞き取りミス・厨房への伝達ミスをほぼなくせる」「紙メニューに比べて料理のレイアウトや見せ方を工夫しやすい」「料理ごとの売行きデータをメニュー改廃の判断に使える」といった点があげられています。アプリをインストールさせるタイプのQRコードセルフオーダーであれば、「ショップカードのデジタル化によりクーポンを確実に配れて集客力がアップする」といったメリットもあるようです。
 
 

客側の必要性、メリット、ストレスは

 
以上は店視点からですが、客視点からの必要性やメリットはどうでしょうか。
 
ろうあ者や外国人など、発話コミュニケーションが苦手な人にはもちろん大きな恩恵があるとして、そうでない人には、総じてマイペースで飲食を楽しめるようになる点がメリットにあげられています(例;注文を取りに来られて焦ることなくメニューを検討できる。スタッフが忙しくて席に呼べないときもスムーズに/申し訳なく思わず注文できる。履歴から注文内容が確認できて安心。など)。また、グループ客からは、席のタブレットから注文する方式と違い、タブレットを順に回したり、誰かが代表して注文を取りまとめてオーダーしたりしなくてよい点が好評なようです。
 
いっぽうで、ストレスについても見てみましょう。冒頭紹介した“タダ乗り”指摘の他、ベンダーの解説からは見えてこない客側の本音をヤフコメから拾いました*5。各下段は店側の回避策です。整理すると、
 
[1]メニューが小さい、一覧できない、注釈に気付けない
 ┗スマホ画面の視認性・操作性を過大評価しない
[2]通信が遅い、途切れる、注文が通ったか不安
 ┗余裕と冗長性を持った通信環境を整える
[3]セキュリティ面で不安
 ┗紙メニューを併用する
[4]店内が荒れ傾向、店員の質が下がった
 ┗セルフ化の意味を勘違いしない
[5]売りたいメニューのゴリ押しや「友だち登録」の強制をされると不愉快
 ┗店都合を前に出し過ぎないよう注意する
 
以上に分類できます。画面の大きさという絶対的制約がある以上、1の解決は難しそうです。メニューにカスタムが発生せず、メニュー数が少ない業態であれば回避できるでしょう。2に関しては中継器の増設や、データ容量に余裕を持たせた契約を結ぶ、安定性に優れたシステムを選ぶ、などは当然の対策として、客のスマホの性能にも左右されるのが悩ましいところ。3に関しては紙メニューでのアナログ注文も残すことで回避可能です。システム故障時の保険にもなります。
 
4と5は顧客心理の問題ですが、ここはもう、自戒を怠らないことしかないでしょう。最初にあげた店側のメリット3つ(AとBのバランス含む)をどうとらえるかで、自戒の程度、質を担保できます。特に4は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が言うように、セルフ化は自動化とは違います*6。業務が消えてなくなったわけではなく、あくまで客への転嫁であることを、忘れてはならないでしょう。
 
 

ポジティブな目的に応用している例

 
「人手不足に対応しなければならないから」「人件費を下げなければならないから」といった消極的な理由を離れて、客との関係づくりやスタッフの成長といったポジティブな目的に応用できる例としては、ダイニー社の「モバイルオーダー」にある「推しエール機能」が出色だと思います。機能紹介文にはこうあります。
 
「接客やサービス力が高いスタッフへ、お客さまがモバイルオーダー上で投げ銭を贈るシステム。送られるとキッチンで伝票が印刷されるので、お客さまにお礼を伝えに行くなど会話のきっかけに。」
一見するとチップですが、何かきっかけがないと他人にからみづらい日本人らしい奥床しさは、スタッフの側も一緒だということかもしれません。きっかけに恵まれないばっかりにリアルの対人コミュニケーション適性に目覚めていない人の割合は、飲み会文化の退潮と交友関係の蛸壺化圧力にさらされている今の若年世代では、多いと思います。その人たちが“推し”を受けて「アタシって/ボクって/オレってそうなんだ・・・」と自身の潜在適性に気付くスイッチとして、推しエール機能は良くできていると思います*7
 
低価格帯チェーン店やフードコートを目指すのでない限り、客との接点は濃いほうが楽しいですものね。
 
 
 
*1 ちなみにおいしくて活気があっていい店でした。また行くと思います。
*2 外食店での利用経験率、セルフオーダー(自身のスマホ利用)67.5%、 テイクアウト時のモバイルオーダー(事前注文や決済)50.4%。セルフオーダーが2021年調査(26.0%)から2回連続で増加 外食店利用時の注文ツールの利用実態・意向調査(2025年8月実施)
*3 人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)
*4 今回の上げ幅は1978年に最低賃金の目安制度が始まって以来最大となる全国加重平均66円。参照;「労働法改正に関するコラム 最低賃金の改定(令和7年10月1日より順次適用)」(ST-WORKS 2025.10.01)
*5 飲食店のスマホ注文は「紙のメニュー」に戻すべき?見つめ直される「店員」の価値や長所(ヤフーニュース スマホライフPLUS 2025/12/19)
*6 AI失業論の技術的限界はここだ! 海老原嗣生氏 No.200(政経プラットフォーム)03:43~
*7 参照;顧客インタビュー株式会社スミス「半年で推しエール(投げ銭)獲得金額は、ダイニー導入店舗でNo.1の計74万円に!お店のファンを何よりも大切にする「焼鳥スミス」の理想像を実現した、ダイニー活用方法とは?」(ダイニーサービス紹介サイト)
 
(ライター 横須賀次郎)
(2026.4.1)
 
 
 

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