「ご注文はQRコードからどうぞ」
お店の名誉のため言い添えると、その店のスタッフは、ピークタイム直前の忙しい時間帯にもかかわらず「当店のご利用は初めてですか?」から始まり、口頭で頼んでもらってもOKなこと、不明点があれば呼んでほしいことを言い添えてから、「こちらもご覧ください」と紙のメニューを示して席を去っていきました*1。
「QRコードから注文」方式――以降、QRコードセルフオーダー――の特徴は、注文を客が自分のスマホから行うこと。この方式を批判する向きの多くは、注文取りは本来店側の業務なのに、客に作業を転嫁するばかりか、客のスマホの通信料とバッテリーを当てにしている――タダ乗りしている――点を指摘します。同じセルフオーダーでも「卓上タブレットから注文」方式は端末費用も通信電力も店側が負担するので、問題ないようです。
店側の必要性は
なぜ好調が続くのか。必要性とメリットの2つの側面から探ってみます。
まず必要性から見ると、好調の背景には人手不足がありそうです。帝国データバンクの調査によれば、長らく外食産業の現場を支えてきた非正社員(アルバイト・パート)の不足を感じている飲食店は、昨年春時点で65.3%に上ります。
ただ、一昨年は74.8%、さらにその前は85.2%でしたから、不足感は-10ポイント前後のペースで年々薄らいでおり*3、もしかしたら、QRコードセルフオーダーの普及と逆相関しているかもしれません。
昨年10月から先月末にかけて全国で新しい最低賃金法が発効し、時給が大幅に上がったことからも*4、店側はこれまで以上に省人化に積極的になるはずです。QRコードセルフオーダーの必要性は、当面薄れることはなさそうです。
店側のメリットは
◇注文取り(決済機能付きなら会計も)の時間・手間を省ける
┗A,効率を上げて売上を伸ばす
┗B,減った手間・時間で接客を濃くする
◇少ない人数で店を回せる
┗人件費を抑え利益確保
◇未熟なホールスタッフでもある程度の戦力になる
┗欠員リスクの最小化
といった点が大きいとされています。
他には、「ピークタイムでもオーダーの聞き取りミス・厨房への伝達ミスをほぼなくせる」「紙メニューに比べて料理のレイアウトや見せ方を工夫しやすい」「料理ごとの売行きデータをメニュー改廃の判断に使える」といった点があげられています。アプリをインストールさせるタイプのQRコードセルフオーダーであれば、「ショップカードのデジタル化によりクーポンを確実に配れて集客力がアップする」といったメリットもあるようです。
客側の必要性、メリット、ストレスは
ろうあ者や外国人など、発話コミュニケーションが苦手な人にはもちろん大きな恩恵があるとして、そうでない人には、総じてマイペースで飲食を楽しめるようになる点がメリットにあげられています(例;注文を取りに来られて焦ることなくメニューを検討できる。スタッフが忙しくて席に呼べないときもスムーズに/申し訳なく思わず注文できる。履歴から注文内容が確認できて安心。など)。また、グループ客からは、席のタブレットから注文する方式と違い、タブレットを順に回したり、誰かが代表して注文を取りまとめてオーダーしたりしなくてよい点が好評なようです。
いっぽうで、ストレスについても見てみましょう。冒頭紹介した“タダ乗り”指摘の他、ベンダーの解説からは見えてこない客側の本音をヤフコメから拾いました*5。各下段は店側の回避策です。整理すると、
[1]メニューが小さい、一覧できない、注釈に気付けない
┗スマホ画面の視認性・操作性を過大評価しない
[2]通信が遅い、途切れる、注文が通ったか不安
┗余裕と冗長性を持った通信環境を整える
[3]セキュリティ面で不安
┗紙メニューを併用する
[4]店内が荒れ傾向、店員の質が下がった
┗セルフ化の意味を勘違いしない
[5]売りたいメニューのゴリ押しや「友だち登録」の強制をされると不愉快
┗店都合を前に出し過ぎないよう注意する
以上に分類できます。画面の大きさという絶対的制約がある以上、1の解決は難しそうです。メニューにカスタムが発生せず、メニュー数が少ない業態であれば回避できるでしょう。2に関しては中継器の増設や、データ容量に余裕を持たせた契約を結ぶ、安定性に優れたシステムを選ぶ、などは当然の対策として、客のスマホの性能にも左右されるのが悩ましいところ。3に関しては紙メニューでのアナログ注文も残すことで回避可能です。システム故障時の保険にもなります。
4と5は顧客心理の問題ですが、ここはもう、自戒を怠らないことしかないでしょう。最初にあげた店側のメリット3つ(AとBのバランス含む)をどうとらえるかで、自戒の程度、質を担保できます。特に4は、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が言うように、セルフ化は自動化とは違います*6。業務が消えてなくなったわけではなく、あくまで客への転嫁であることを、忘れてはならないでしょう。
ポジティブな目的に応用している例
低価格帯チェーン店やフードコートを目指すのでない限り、客との接点は濃いほうが楽しいですものね。
*2 外食店での利用経験率、セルフオーダー(自身のスマホ利用)67.5%、 テイクアウト時のモバイルオーダー(事前注文や決済)50.4%。セルフオーダーが2021年調査(26.0%)から2回連続で増加 外食店利用時の注文ツールの利用実態・意向調査(2025年8月実施)
*3 人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)
*4 今回の上げ幅は1978年に最低賃金の目安制度が始まって以来最大となる全国加重平均66円。参照;「労働法改正に関するコラム 最低賃金の改定(令和7年10月1日より順次適用)」(ST-WORKS 2025.10.01)
*5 飲食店のスマホ注文は「紙のメニュー」に戻すべき?見つめ直される「店員」の価値や長所(ヤフーニュース スマホライフPLUS 2025/12/19)
*6 AI失業論の技術的限界はここだ! 海老原嗣生氏 No.200(政経プラットフォーム)03:43~
*7 参照;顧客インタビュー株式会社スミス「半年で推しエール(投げ銭)獲得金額は、ダイニー導入店舗でNo.1の計74万円に!お店のファンを何よりも大切にする「焼鳥スミス」の理想像を実現した、ダイニー活用方法とは?」(ダイニーサービス紹介サイト)
(2026.4.1)
