B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 
 
良質な映画は観た人の心を豊かにしてくれるもの。それは日々のリフレッシュや、仕事や人間関係の悩みを解決するヒントにもつながって、思いがけない形で人生を支えてくれるはずです。あなたの貴重な時間を有意義なインプットのひとときにするため、新作から名作まで幅広く知る映画ライターが“とっておきの一本”をご紹介します。
 
 
 
私が子どもの頃、アクションスターの頂点といえば、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローンでした。彼らの映画は1980年代から90年代にかけて、鍛え抜かれた肉体が放つ圧倒的な力強さ、悪をくじく正義感、そしてユニークな個性で、観客の心を思いきり高揚させてくれたように思います。ならば、現代において彼らに代わる存在は誰でしょう?私の頭には、すぐに2人の顔が浮かびます。1人は“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソン。そしてもう1人は、今回ご紹介する映画の主演、ジェイソン・ステイサムです。
 
glay-s1top.jpg
英国生まれのステイサムは、非常に面白い経歴の持ち主です。若き日の彼は、路上で香水やジュエリーなどを言葉巧みに販売していたとか。いわゆる露天商というやつですね。そうした経験を通じてストリートの表裏を見つめ、そこに集うさまざまな人々を観察し、生きた文化や言葉遣いを吸収していったのでしょう。加えて、サッカーや格闘技をたしなむなどスポーツ万能の彼は、水泳の飛込選手として英国代表チームに所属していたこともあり、そこで空中における身体操作の技術を徹底的に磨きました。さらに選手引退後は、ファッションモデルとしてさまざまな広告に登場――つまり、多くの俳優の卵が演技学校で学んでいた頃、彼は実社会で多彩な経験を重ね、“ステイサム”という無二の価値を築き上げたわけです。傭兵、刑事、小悪党、運び屋、養蜂家、建設作業員など、多種多様な役柄をリアルに演じられるのも、きっとそうした経歴があるからでしょう。
 
 

*謎めいた男が反撃に出る時

 
glay-s1top.jpg
そんな彼が最新作『シェルター』で演じるのは、スコットランド沖の孤島にある灯台でたった一人暮らす男、メイソンです。今回もどんな役柄にも染まれるさすがの存在感で、登場した瞬間から、そのたたずまいには本物の灯台守と思わせるほどのリアリティがあります。しかし、後からわかるのは、どうやらこの灯台はずいぶん前に閉鎖され、今では稼働していないらしいということ。ならば、彼は一体何者なのか?なぜあんな場所にひっそりと隠れ住んでいるのでしょう?
 
事態は、週に一度、叔父と共に生活物資を届けに来る少女ジェシーが、嵐の海で溺れかけ、傷を負ったことから動き始めます。彼女を救出し、治療に必要な物資を調達するため町へ向かったメイソン。そこで、他人がスマートフォンで撮影していた映像に一瞬だけ写り込んだことをきっかけに、英国の情報機関MI6の監視網に探知され、すぐさま武装部隊が送り込まれてきます。まさに絶体絶命のピンチ!しかし、いち早く異変に気付いた彼は、島の随所に仕かけたトラップを次々と作動させ、驚くべき身のこなしで敵をなぎ倒していきます。実は彼は、かつて政府によって鍛え抜かれた最強の元特殊部隊員。人道上の理由から上司の命令に背いたことで命を狙われ、以来、この地に潜伏していたのです。
 
 

*自分の頭で考え、決断をくだす

 
glay-s1top.jpg
無駄口は一切たたかず、口元を“へ”の字に結び、やるべきことを黙々とこなす。そして、いざ敵と向き合えば、ずば抜けた強さで相手を制圧する。つまるところ、本作はいつものステイサム映画とほぼ同じ構造ではあるのですが、それでも面白いものは面白い!ステイサムは同じタイプの役柄に繰り返し向き合う中で雑味をそぎ落とし、自らの魅力を研ぎ澄ませてきました。そうして磨かれた職人技があるからこそ、観客が待ち望む“いつもの強さ”を、毎回高い水準で見せ切ることができるのでしょう。
 
それと同時に、孤高のアウトローだった主人公の“変わりゆく姿”も極めて魅力的です。彼は長らく、自らの力にふたをするように、閉ざされた世界だけで生きてきました。しかし、少女との出会いによって心に火をともし、今まさに自分の足で安全圏の外へと踏み出そうとします。そこで垣間見せる不安や戸惑い。その全てを振り切り、いざ“攻め”に転じる覚悟と決断力。組織の命令に従っていた過去から解き放たれ、自らの頭で考え、行動しようとする生き生きとした人間像が、そこには立ち現れています。
 
さらに興味深いのは、物語の構造が無駄なくシンプルであるからこそ、メイソンが限界を突破していく姿が、観客の胸にダイレクトに響くところです。組織の論理や周囲の思惑に流されることなく、しっかりと己の信念を貫く。組織で働く以上、方針や指示を尊重することは欠かせません。しかし、想定外の事態や正解のない局面で最後にものをいうのは、自ら考えて決断する力です。自らが持つ専門性を何のために、誰のために生かすのか――メイソンの姿は、そんな仕事の原点を思い起こさせてくれます。
 
かつて、高倉健さんの映画を見終えた観客は、みんな肩で風を切るように映画館を後にした、という話があります。本来は作り物である映画が、現実の身ぶりや気持ちにまで影響を及ぼす。私は、映画が持つそんな力が好きです。同じことは、本作にも言えるかもしれません。傷だらけになりながら少女を守り、サムライのごときストイックさで事をなす主人公の姿を見ていると、こちらまで背筋が伸び、前へ進む力が湧いてきます。真夏の疲れが抜けきらず、“もうひと踏ん張り”が必要なこの季節。ステイサムが見せる渾身のアクションから、心と体に活力をもらいたいものです。
 
 
glay-s1top.jpg
『シェルター』
出演:ジェイソン・ステイサム、ボディ・レイ・ブレスナック、ビル・ナイ、ナオミ・アッキー、ハリエット・ウォルター、ダニエル・メイズ 監督:リック・ローマン・ウォー 脚本:ウォード・パリー
配給:キノフィルムズ
全国公開中
 
マイケル・メイソン(ジェイソン・ステイサム)は、スコットランド沖の孤島にある灯台で、外界と隔絶した隠遁生活を送っていた。ところが、週に一度、生活物資を届けに来る少女ジェシーを嵐の海から救ったことで、その静かな日々は一変する。政府の“抹殺リスト”に登録された元特殊部隊員の彼は、MI6の急襲部隊や刺客に追われる身となり、ジェシーを守りながら逃避行を繰り広げる。幾多の危機を乗り越える中、2人は父娘のような絆を育んでいく。
©2026 Fire Hawk Productions Limited. All Rights Reserved.

 
glay-s1top.jpg
牛津 厚信 / Ushizu Atsunobu
1977年、長崎県生まれ。明治大学政治経済学部を卒業後、映画専門放送局への勤務を経て、映画ライターに転身。現在は、映画.com、CINEMORE、EYESCREAMなどでレビューやコラムの執筆に携わるほか、劇場パンフレットへの寄稿や映画人へのインタビューなども手がける。好きな映画は『ショーシャンクの空に』。




 
 

関連記事