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 オーストラリア国内でビジネスを行うための選択肢。今回は今の日本ならではの力技として、「現地企業の買収」について見てみましょう。
 
 

円高の今だからこそ、逆転の発想を!

 
 近年歯止めが効かない円高は、日本経済を苦しめています。ご存じの通り、資源が乏しい日本は、石油や鉄鉱石などの原材料の他に食料も輸入によって賄わなければなりません。国民の生活を成り立たせるには、これらの原材料を加工し、製品として海外に輸出して利益を上げる必要があります。
 円高になると、輸出先での製品の値段が跳ね上がってしまい、製品が売れなくなってしまいます。これが、これまで輸出産業を国の経済の基盤としていた日本経済が打撃を受けている理由のひとつです。
 
 ただ、輸出産業を中心にダメージを受けている日本企業ですが、手をこまねいているばかりではありません。
 豪ドルは外国為替市場で比較的安定している通貨ですが、以前は100円前後だった日本円との為替レートが、近年は80円前後まで円高が進んでいます。実は、この円高を利用して、日本企業のオーストラリア優良企業への買収が相次いでいるのです。
 日系企業によるオーストラリア企業の大型買収として、2009年、日本製紙業界第2位の日本製紙がオーストラリア製紙業界第3位のオーストラリアン・ペーパーを360億円で買収した例があります。また飲食料品業界もオーストラリア企業の買収に意欲的で、2009年に大手飲料メーカーのキリンが100%出資して、現地食品メーカーのライオンネイサンを完全子会社にしました。その他にも、三菱商事が水処理関連事業(上下水、海水淡水化、再生水、企業排水処理)のユナイテッド・ユーリティーズ社を買収。ITメーカーの富士通も、テルストラの子会社であるKAZの買収を発表しました。
 これらの背景には、円高によるメリットの他に、オーストラリア市場の規模は世界的に見てそれほど大きくはないものの、成長性、利益率、安定性が高いことが挙げられます。日本国内での成長が鈍化し、需要が見込めなくなった今、日本企業はビジネスチャンスを海外に求めざるを得ないという事情も、状況を後押ししています。
 
 

現地企業買収のメリット

 
 日本人の感覚からすれば、「苦労して立ち上げた会社を他人の手に委ねる」 ことに非常に抵抗を感じると思います。買収する側からすれば、「経営不振の企業を救ってやる」 という意味合いが強く、また買収される側も気持ちが下向きになり、「身売りされた」 という負のイメージを持ってしまうことが否めません。
 オーストラリアでも、こんな感情が全くないとは言いませんが、彼らはドライに買収を受け入れるケースが多いです。また経営不振などに程遠く、十分な利益を上げている企業でも、それ相応の対価を支払われるのであれば、株式を売却してしまう経営陣も少なくありません。またオーストラリアはスモールビジネスが盛んな国で、上記のような大型買収ではなく、中小企業でも手が届く金額でならビジネスの売買も盛んです。
 企業買収のメリットは、会社をイチから立ち上げる場合に比べて準備期間が短くて済み、買収後はすぐにでも営業を開始できる点につきます。加えて、我々日本人がオーストラリアに進出する場合の最大の問題点である 「就労ビザの取得」 をクリアーできる可能性もあります。
 
 すでに現地で営業を開始し、収益を上げている会社を買収するわけなので、事業者としてではなく会社からビザをスポンサーしてもらう形を取ることにより、最大のネックであるビザの問題を解決できるのです。また、不慣れなオーストラリア市場に必ずしも最初から自力で参戦する必要はないことを考えれば、このほうがよりビジネスを成功させられるかもしれません。
 
 

買収する際の注意点

 
 ここまで現地企業を買収するメリットを述べてきましたが、当然リスクも存在します。
 まず考えられるのは、買収する企業との煩雑な交渉です。日本人の交渉下手は今に始まったことではありません。口の上手いオーストラリア人に押し切られてしまい、マーケットを上回る金額を掴まされてしまう可能性も否定できません。事前にマーケットの調査を十分に行い、企業価格を調べ上げ、マーケットを理解することが必要です。
 また、中小企業は悪意のない会計上の不備や借金などを持っている可能性もありますので、企業側が提出する資料が適切かどうか見極め、調査する必要性があります。実際に企業を買収してみたが思いのほか高い買い物だったと、後々気が付くこともありますからね。
 その他にも、企業買収は、既存の従業員もそのまま引き継ぐことになりますが、会社にとって必要な人材を残しつつ、余剰人員の解雇を推し進めなくてはならない場合も考えられます。その場合、オーストラリアは労働組合が強く、雇用が日本よりも格段に厳しく保護されることを知っておいてください。
 人員の解雇にあたっては、慎重に事を進める必要があります。労働基準法や契約に基づいて行われないと、訴訟の可能性もあります。
 また、会社にとって必要で残った人材に対しても、自己主張が強いオーストラリア人をコントロールしていくこと自体がリスクかもしれません。不慣れな土地で、まだオーストラリア人の文化や仕事に対する考え方を理解する前に現地人を雇用するのは、想像以上に難しいことです。
 
 企業買収は、全て順調に物事が進めば、労せずにオーストラリア市場に進出できますが、反面、買収時の交渉の難しさ、買収後の従業員への対応などを考えると、海外進出初心者にはお勧めできない選択かもしれません。
 
 
 なお、今回述べたケースはあくまでも一例であり、事業者や各企業によって事情は異なります。「この業種だから絶対にこの会社形態でなくてはだめ!」 ということはありません。進出に関しては、私たちコンサルタントのような専門家とよく話し合い、経営方針に沿ったベストな選択をされてください。
 
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第20回 現地企業を買収して進出する選択肢
 

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

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