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Jリーグ鹿島アントラーズのC.R.O、中田浩二さんに日々の仕事ぶりや鹿島アントラーズのクラブ経営手法について語っていただくシリーズ。最終回はスポンサー企業との関わりやクラブと中田さんご自身の未来について。冒頭に、今シーズンの優勝コメントもいだきました!
 
 

7シーズンぶりのリーグ優勝!

 
――2016年シーズン、優勝おめでとうございます。
 
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J1最多、8度目のリーグ制覇を達成!
ありがとうございます。今季のアントラーズは「Football Dream」というクラブスローガンのもと、2009年以来7年間遠ざかっていたリーグ優勝を“義務”と定めてシーズンに臨みました。順調なスタートから1stステージを優勝したものの、2ndステージでは思うように結果が残せず、我慢の時期が続きました。年間順位は3位だったものの、年間王者決定戦のチャンピオンシップでは一体感を取り戻し、クラブ一丸となって最高のパフォーマンスを見せることができました。ピッチで戦っているのはチームですが、優勝はアントラーズに関わるファミリー全員のものです。今後も国内最多タイトルホルダーであり続けられるよう、これからもピッチの外からチームを支え続けたいと考えています。
 
 

アジア市場を意識した営業展開

 
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――以前、スポンサーの方々と飲みに行く機会が増えたと言っていましたよね。実際の営業に行くこともあるんですか。
 
ええ。今年はカシマスタジアムのネーミングライツ(命名権)の販売に力を入れていますので、対象となる企業さんにセールスするときはついて行くことがありますよ。
 
――企業訪問のきっかけづくりとして、中田さんのネームバリューは利用価値がありそうですね。
 
そうありたいと考えています。実際に訪問すると喜んでいただけますし、アポイントも多少とりやすくなるみたいだから、少しはお役に立てているのではないかと。たとえ命名権のような大きな契約に至らなくても、スポンサーになってくれる可能性はあるわけですしね。
 
――命名権売却については、どういった企業に営業をかけるのでしょうか。
 
グローバル戦略を有する企業を対象としていますが、その中でもアジアの企業を意識していますね。サッカー界もグローバル化が進んでいるので、ヨーロッパのクラブなどは国外でサポーターを増やす戦略を展開しています。Jリーグにもアジア市場に目を向けているクラブがあります。アントラーズもアジアという高いポテンシャルを持つマーケットに積極的に働きかけていきたいと考えています。海外企業に命名権売却を狙っているのは、そういう意図もあってのことです。
 
――国内ではなく海外にも目を向けるとなると、営業するのも大変でしょうね。
 
国内外問わず、楽なセールスなんてありません。特に命名権については、安売りしない方針なんです。お話ししてきたように、カシマスタジアムは国内で最も付加価値の高いサッカー専用スタジアムとして運営している自負がありますからね。我々とのパートナーシップを通じて、企業さんに何らかのメリットをもたらすことができるはず。そういった自信がありますので、時間がかかっても、いい企業さんと長期的な関係を構築したいです。
 
 

スポンサー企業との横のつながりを密に

 
――クラブのスポンサーというと、試合のときピッチの周囲にある企業看板が思い浮かびます。ああした企業名の露出以外でスポンサーになるメリットは、どこにあるんでしょうか。
 
アントラーズはスポンサーの皆様との、横のつながりを重要視しています。ですから、クラブが軸となってスポンサーの皆様同士で交流を深めていただくイベントも実施しているんですよ。うまくご活用いただけば、新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
 
例えば、ホームタウンと何らかの形でコラボレーションしてもらえるように、企業とホームタウンを組み合わせることもありますね。サントリーさんのビールとホームタウンである鉾田市産のトマトジュースを組み合わせて「レッド愛」と名づけたカクテルをスタジアムの売店で販売したこともあります。
 
他にも、スポンサー企業の各担当者さんをお迎えする交流会を定期的に開催しています。代表的なところでは、シーズン前のキャンプにご招待して実施する、懇親会やゴルフコンペ。こういう場を通じて異業種交流をしていただくことで、スポンサー様同士が連携して新しいビジネスに発展する可能性も開けています。僕もゴルフをしますので、こうした交流会に参加することは多いですね。
 
 

スタジアムを中心に地域に活力を

 
――この連載では、チーム強化以外の部分でクラブが様々な活動をしていることを聞いてきました。今後は、どのような青写真を描いているんでしょうか。
 
スタジアムを中心に鹿行地域を活性化していくクラブになることでしょうね。アントラーズがいることで、地域に人が集まってくるような存在感を持つ。そのためにはスタジアムにもっと多くの付加価値をつけて、地域を賑わせていくにはどうすればいいのか、これからも考えていかなければならない。例えばスタジアムの近くに娯楽施設やショッピングモールを併設するなんてことがあっても、良いと思います。
 
――壮大な目標へ近づくために、今後も地道な努力を続けるんですね。いっぽう、アントラーズはチーム強化の面でも、チームのスタイルがさほど変わることがなく継続性がありますよね。
 
現在の石井正忠監督より前は、継続してブラジル人がチームを率いていましたからね。石井監督はアントラーズでのコーチ歴が長く、歴代のブラジル人監督と仕事をしてきたので、これまでと遜色なく指揮が執れる。これも継続性のある強化の賜物ですね。それに、今のコーチ陣はOBの大岩剛や柳沢敦ら、クラブのDNAを受け継いだ人材です。彼らが強化に関わることで、チームコンセプトも常に一貫性が維持されている。
 
Jリーグが始まって以降、J2に一度も降格していないクラブはアントラーズと横浜F・マリノスだけです。アントラーズが降格せずにいられているのは、ホームタウンの地域性を熟知し、それを踏まえた運営手法を試行錯誤しながら考えてきた成果だと思います。もちろん、チームが強くなることは重要です。でも、地域性のハンデを乗り越えて将来的にクラブの価値を増していくことを常に考えているからこそ、今があるわけです。
 
――継続性のあるチーム強化をしていくこと。そして、それを支える運営側はクラブが発展していくためのアイデアを生み出し続ける。アントラーズがJリーグで最もタイトル数の多いクラブである要因は、こういう所にあるんでしょうね。
 
 

引退後の仕事もやりがいはたくさんある

 
――中田さんご自身は、引退してから仕事の中身がガラリと変わりました。どういうところにやりがいを見出しているんですか。
 
例えばリーグ優勝するとか、日本代表として大きな大会に望むとか、そうしたことを成し遂げる機会はなくなりました。でも、勝負の世界から離れたという感覚はありません。まだまだ会社員としては手探り状態ではありますけど、様々な局面に対して自分の頭をクリアにして最適と思われるジャッジをしていく――。そうした経験を積み重ねていることにすごく充実感があるし、自分のできることの幅が広がっていることも感じます。
 
やっぱり、クラブ経営も人生も同じで、地道な経験の積み重ねが大事なんでしょうね。僕は学生時代、サッカー一筋で努力をしてきて、プロになれました。さらに努力を続けたことで日本代表にもなれた。会社員として積み重ねていくプロセスも、あの頃と同じだと思うんです。プロにだっていきなりなれたわけじゃないですからね。そのときごとに必要なことをしてきたし、乗り越えるべき壁を乗り越えてきた。
 
僕はまだまだ、会社員としては新人です。だから、いろいろなことを吸収して様々な経験を積んでいくことが、目標としているクラブ経営者であり、Jリーグチェアマンへの道につながっているのだと思います。
 
 
 
中田浩二が語る、常勝軍団の育て方
vol.6(最終回) 継続性がクラブを成長へ導く
 
(優勝コメント以外の取材は2016年9月に行いました)
 
 

 著者プロフィール  

中田 浩二 Nakata Koji

株式会社鹿島アントラーズFC C.R.O

 経 歴  

1979年7月生まれ。滋賀県大津市出身。1998年、帝京高校から鹿島アントラーズに加入。数々のタイトル獲得に貢献した。2005年にフランスのマルセイユに移籍。2006年からはスイスのバーゼルで活躍し、2008年に鹿島に復帰する。2014年に現役を引退。日本代表では1999年の FIFAワールドユース選手権で準優勝、黄金世代の1人として注目を浴びる。2000年シドニーオリンピックU23代表、2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップでも代表選手として大会に臨んだ。J1リーグ通算 266試合33得点、国際Aマッチ57試合2得点。現在は鹿島のC.R.Oとして多方面で活躍している。著書に『中田浩二の「個の力」を賢く見抜く観戦術―サッカーが11倍楽しくなる!』(ワニブックスPLUS新書)がある。

 鹿島アントラーズオフィシャルサイト 

http://www.so-net.ne.jp/antlers/

 ツイッター 

https://twitter.com/nakata_cro?lang=ja

 
 
(2016.12.9)
 
 

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