第8回 ラテラルシンキングを日常に応用するコツ その3「セレンディピティ」
まずは謎かけから。
ある24時間営業のファーストフード店では、 強盗の被害が絶えずに困っていました。かといって、防犯装置を取り付けたり警備会社と契約したりすると赤字になります。ところが、あることに気付いて実践するようになってから、お金をかけずに防犯に成功しました。
いったい、何をしたのでしょうか?
*ヒント*
ラテラルシンキングには「その地域からは撤退した」という答えもありますが、幸いなことに営業は続けています。
セレンディピティのもとはこじつけ
セレンディピティとは、何かを探している時に偶然に別の価値あるものを見つけること。簡単に言えば、偶然を偶然としてスルーしないことです。なぜ、スルーしてしまうかと言えば、自分には関係ないという思い込みがあるからです。だからセレンディピティを得たいならその思い込みを取って、偶然であれ常に自分が抱えている問題に関連させ、何でもかんでもこじつけてしまうことです。
他人から「それ違うよ」とか、「単なる思い込みじゃない?」と言われても気にしない。むしろ他人が「それ違うでしょ!」と言ったらラッキーです。「それは素晴らしい」と言われた発想は、誰かが見つけてしまうかもしれませんから。
もう1つのもと「トラブル」
ニュートンはリンゴが落ちるところを見て重力を発見しました。有名なこの話、より詳しくは、たまたま落ちたリンゴがあった、その空間に重ねて、遙か遠くに月が浮いていたものですから、ニュートンは「月は落ちないのに、リンゴが落ちたのはなぜか?」と考えたというのです。地上のリンゴも天体の月も同じ方程式でくくれるかもしれないという閃き。それは「天体は神様の世界のもの」が常識の時代に、地上の法則を持ち込むという、大胆な発想の転換でした。セレンディピティとは、こうしたこじつけで、まったくかまわないのです。
ニュートンのように何でもない日常からセレンディピティを使えるのは一部の天才だけです。では、普通の人がセレンディピティを使うためには、いったい何をきっかけにすればいいのでしょうか。
その、きっかけとは、トラブルです。
意外でしたか? 確かに、トラブルというとマイナスのイメージがありますよね。でも、幸か不幸かセレンディピティはトラブルによって、生まれます。逆に言えば、順調な人であればあるほどセレンディピティから遠ざかります。むしろ、ピンチに陥ればセレンディピティが助けてくれるのです。
セレンディピティを活かして上場企業
安田氏は29歳の時に勤めていた会社が倒産してしまったため、質流れ品や倒産処分品を買ってきて売るバッタ屋、今で言うディスカウントストアの走りの店を開業します。その際、店先に出す看板に4文字しか入れられないという理由で、お店を「泥棒市場」とネーミングしました。
人を雇うにもお金がないものですから、1人で仕入れて商品を陳列します。手間をかけられないため、商品が入荷した時の段ボール箱に穴を空けて中身を見えるようにして、手書きのPOPを貼り付けた。これなら陳列棚も不要ですからね。
作業は深夜におよぶこともしばしば。当時は夜遅くまで開いている店はほとんどありませんから、明かりが付いている店を開店していると勘違いした客がやってくる。店内は手が回らないため段ボール陳列が、ジャングルのような迷路状態に。しかも何がどこに置いてあるのかすら、わからない。まるで宝探しのよう。当時の若者たちにとって、夜遊びのドライブがてらに探検できる絶好のお店になったのです。
この例には、マーケティングでいうところの対象を絞り、コンセプトを明確にして・・・というセオリーは一切ありません。もし、勤め先が倒産しなかったら? 安田氏にそこそこお金があって従業員を雇えて、深夜にまで作業がおよばなかったら? 段ボールから取り出してキチンと陳列していたら。来客があっても閉店時間だからと断っていたら? ・・・つまり、ドン・キホーテはセレンディピティを活かせばこそ上場企業になり得たのです。
偶然を偶然としてスルーせずに、誰もやったことのないことに挑戦すれば得られる魚も大きいわけです。すでに存在するものを真似した場合、失敗の確率は減りますが、その分、大きな魚をとらえるのは難しいということでしょうね。
【ファーストフード店が強盗に遭わなくなる方法】答え
制服で来店した警官には無料でドリンクを提供した。
米国映画には、パトロールを終えた警察官がドーナツショップで談笑しているシーンをよく見かけます。この話、映画だけの都市伝説じゃないのか、現実にあるのかと米国のブログを調べたら、ドーナツどころかコンビニやハンバーガーショップでも無料もしくは割引をしている店がありました。ただし、地域性があって、全てではなさそうです。それに、いくら店側が無料だといっても、お金を払う警官も多いとのこと。日本では馴染みにくいかもしれませんね。仮に警官にだけ特別サービスするのはよくないと感じる人は、抽象化(詳しくは前回の連載を)をすればいいのです。要するに目的は防犯です。例えば「警察の方は制服のままでご遠慮なく」と入り口にPOPを貼るという応用もあります。
このようにラテラルシンキングを説明してくると、「ウチには制約があってうまくいかない」とおっしゃる方もいます。でも、実を言うと、制約があればこそ発想が生まれるものなのです。
そこで、次回は「自由と制約」を紹介します。
木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」
第8回 ラテラルシンキングを日常に応用するコツ その3「セレンディピティ」
第8回 ラテラルシンキングを日常に応用するコツ その3「セレンディピティ」
執筆者プロフィール
木村尚義(Kimura Naoyoshi)
創客営業研究所代表・企業研修コンサルタント
経 歴
日本一ラテラルシンキング(水平思考)関連書を執筆している著者。1962年生まれ。流通経済大学卒業後、ソフトハウスを経てOA機器販社に入社。不採算店舗の再建を任され、逆転の発想を駆使して売り上げを5倍に改善する。その後、IT教育会社に転職、研修講師としてのスキルを磨く。自身が30年以上研究している、既成概念にとらわれずにアイデアを発想する思考法を企業に提供し好評を得ている。また、銀行、商社、通信会社、保険会社、自治体などに「発想法研修」を提供している。遊ぶだけで頭がよくなる強制発想ゲーム「フラッシュ@ブレイン」の考案者。著書に、『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』(あさ出版)、『ひらめく人の思考術 物語で身につくラテラル・シンキング』(早川書房)など多数。
オフィシャルホームページ
http://www.soeiken.net/(2016.12.21)
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