日本商工会議所発行『石垣』の変貌に驚いた
私はコンサルタントとして基本的にどの業種にも対応できるが、核になるのは商業コンサルタントとしての部分だ。商業は基本的にBtoC。つまり、一般の消費者であり生活者である人々に、10円、100円からの単価でモノやサービスを売り、お客さんの身銭を頂戴して成り立つ世界だ。常に目の前の一人の人間が相手だから、「こうすれば喜んでくれるだろう、喜ばない時は相手がオカシイのだ」という考えでは商売が成り立たない。その意味で、約10年ぶりに掲載された『石垣』の変貌ぶりには感心させられた。
10月に出た新著『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)を手伝ってくれたライターさんが特集企画を編集部に持ち込んでくれて、それで久々の登場と相成ったわけだが、最初話を聞いたとき、私は正直、特にどうとも思わなかった。それは前回2011年に出版した『売れない時代はチラシで売れ』を読んだ『石垣』の編集部から取材が来た時の印象が残っていたからだ。
失礼を承知で個人的感想を言わせてもらえば、その時の『石垣』は変に格式ばっていて、内容も体裁も爺くさくて、お世辞にも「読者と向き合っている」とは感じられなかった。それが10年経つと見違えていた。表紙や誌面の感じも、目次に並ぶテーマも、新幹線グリーン車の車内誌と言われても疑わないくらい、おもしろくなっていた。
勝手な推測だけど、きっと『石垣』も、どこかの時点で発行部数減が止まらなくなって編集体制を一新したんじゃないかな。実際、今回お世話になった編集長は前回と別人だったもんね。ということは、編集方針も見直したんだと思う。会議所の職員だっていつまでも同じじゃない。20代とか30代とかの若手がどんどん入れ替わりで入ってくる。であれば内容も、御大クラスしか読まないような超越的な内容じゃなく、目の前のお客さんから具体的に学んだ事柄を取り上げていかないと。
その意味で、各地の商工会議所のトピックもきちんとカラーで丁寧に載せているのはすごくいいと思った。前回出た時は確か、こういうページはなかったからね。この変化も多分、「読者に学ぶ」という方針に変えたからで、アメリカのスーパーマーケット「スチューレオナルド」で学んだことをもとにしたサトーカメラの教え――「お客様はいつも正しい。お客様から学ぶこと」――を胸に刻む私としては、仲間を見つけたみたいで嬉しかった。
あるベーカリーショップ
味と品質が評価され、ある年から地域の学校に給食の食パンを卸すようになった。店では人数分をつくりきれないから工場を持って事業を拡大した――まではよかったが、どこで勉強したのか、社長はそのSC内の店では一切パンを焼かなくなり、工場でつくって持って来て棚に並べるだけにしてしまった。
こういうのを普通は「効率化」と言う。企業が規模拡大を図る際、あるいは業績向上を狙う際のテッパンの用語だ。だが、私に言わせれば効率化が有効なのはB to Bの世界だけ。B to Cの世界で効率化に走るとおかしなことになる。
案の定、店の売り上げは三分の一に落ち、同じSC内に別のベーカリーショップができたこともあって、私が指導に入った時には来年春に閉店することが決まっていた。コロナが始まってから学校給食の契約が全部大手パンメーカーに取られたあおりで工場のスタッフも解雇したから、なおさら先が見えなくなっていたんだ。
でも、個別訪問で店に行って話を聞きながら、お客さんの動きを見ていると、商品はいいんだよ。この社長の本質は経営者じゃない、職人だ。本物のパン職人だ。周りの経営者仲間のアドバイスを聞きすぎて道を誤ったけど、肝心の商品は死んでない。常連顧客の胃袋をちゃんとつかんでいる。
それを確信したから、私は言った。
「まずこの店。ここは閉店じゃなく移転にしましょう。工場は奥さんと二人で続けながら、工場の一角に開く「直売所」でパンを売る予定なんですよね。だったらここは“閉店”じゃない、その直売所への“移転”だ。
あと、今出している数十種の菓子パンは全部止め! 一日約100人ぐらいお客が来ている。うち60人ぐらいが食パンを買っている。一斤250円の無添加食パンを、知っている人は迷わずスーッと買って行く。おいしいからですよ。あなたの食パンは地域で評判なんだ。価格競争で大手に負けるまで学校給食が買い続けたのがその証拠じゃないか。
従業員はもういない。嫁と二人でできる範囲で続けなきゃいけない。だったらなおさらこの無添加食パンだ。食パンを一日200本つくって売ろう。この食パンに絞れば二人でもできる。そうしたら250円×200本で1日5万円。×25日営業で125万円だ。儲けが約80万円。月80万円あればやっていけるだろう?」
社長は「充分です! それだけあれば充分です!」と感動して聞いてくれた。そして質問してきた。
「でも、いいんですか? 今流行っているこのメロンパンとかクリームパンとか、生食パンをやらないで。」
「もういい! 生食パンなんかもってのほかだ。流行りモノには手を出すな!――もちろん、この無添加食パンをきちんとやりながら、お金や時間が余ってくれば期間限定でメロンパンやクリームパンをやるのはいい。それまでは無添加食パン一筋だ。
そしてこの店では来年の春までの約半年、頑張って声がけしてLINE公式の会員を増やして、「春から無添加食パンの工場直売所オープン」の情報を繰り返し送ろう。目標会員数は2000人超え。常連客が一日100人来るんだから頑張ればできる。
そして移転後は、無添加食パンの焼き上がりの時間も含めて、店の情報をきちんと送ろう。そうやって、今いるお客さんに新店の工場直売所に来てもらおう。
ということは、いいかい、これからの日々は閉店作業じゃないよ。次に向かう仕込みの日々だよ!」
ここまで話すと社長の顔が一気に明るくなった。“道が見えた”瞬間だった。
この指導を聞いて、「アイテムを絞った。効率化だ」と思うのは違う。このケースで私が教えたことは「合理化」だ。この社長は効率化を図って道を間違えた。そうじゃなく目の前のお客さんから学ぶ気でいれば、「理」は必ず見えたはずだ。何をすれば良いかがわかったはずなんだ。
「無理筋は通らない」とよく言われるのは、そもそも「理」が“無い”から通らないんだよ。お客さんに学んであなたの店の「理」を見つけようよ。“有理”な商売をしていこうよ。そうすれば必ず道は通るよ!
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vol.62 目の前のお客さんに学ぼう。そして「理」を見付けよう
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ株式会社・代表取締役副社長/日本販売促進研究所・商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司・チーフコンサルタント/作新学院大学・客員教授/宇都宮メディアアーツ専門学校・特別講師
経 歴
1964年栃木県宇都宮市生まれ。1988年、兄弟とともに家業のカメラ店をカメラ専門チェーン店に業態転換させ、商圏をあえて栃木県内に絞ることにより、大手に負けない経営の差別化を図った。以来、「想い出をキレイに一生残すために」というコンセプトを追求し続けて県内に18店舗を展開。同時におちこぼれ社員たちを再生させる手腕にも評価が高まり、全国から経営者や幹部リーダーたちが同社を視察に訪れている。2015年からはキャノン中国とコンサルティング契約を結び、現場の人材育成の指導にあたる。主な著書に『売れない時代はチラシで売れ』『エキサイティングに売れ』(以上同文館出版)『日本でいちばん楽しそうな社員たち』(アスコム)『一点集中で中小店は必ず勝てる』(商業界)『断トツに勝つ人の地域一番化戦略』(商業界)『モノが売れない時代の「繁盛」のつくり方』(同文舘出版)など。新刊の『地域繁盛店がリアル×ネットで“全国繁盛店”になる方法』(同文舘出版)が好評発売中。
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