社会と交わって生きる以上
「淡々と」はありえない

今年も特別講師をします
それを聞いて、つい癖でいじっちゃった。「嘘つけ。淡々と生きたい人がなんで勝人塾に来てんだよ。どうせ心の中ではもう一儲け狙ってんだろう。バレてるよ!」ってね(笑)。
だって、そりゃそうだよ。世の中は人間の欲求をエネルギーにして動いているんだ。社会と交わって生きていれば人生は山あり谷ありだ。淡々となんてありえない。
それにさ、人に感謝? 出会いに感謝? 恥ずかしいことを言うなっての。そういうことを言いたがる人に限って本当は心から感謝できてないんだよね。自分ができてないから人に押し付けるんだよ。わかる――?
とまあ、おおむねこんなふうにいじった。本人は妙にありがたがってたけどね。
なってはイケナイもの
それは人格者だね
つまり、人格者と言われそうになったら意識的に拒否するぐらいのつもりでいろということだ。そうじゃないと自分を甘やかしてしまうし、程度の低い有象無象が周囲に集まってきて、場合によっては変なふうにまつりあげられて、なりたくない自分にさせられてしまうからね。
そりゃ、人格者になればちやほやされて気持ちいいさ。セレブだVIPだ人格者だと言われて、選ばれた1%だか? の上流社会と交わりたい気持ちはわからなくはない。でも、社会の大半は庶民で構成されているんだ。ビジネスは社会と、つまり庶民と向き合うもので、一部の立派な人間を相手にするものじゃない。私が「経営者こそ人格者になっちゃいけない」と思うのはそういうことだ。
新天地で農機具の商社
30年を経てつながった夢
藤原農機では何年か前からミャンマー人の従業員を雇っていて、彼が母国で農機具関連の事業を始めるというので、藤原農機もミャンマーに進出することになった。ミャンマーは農業国で、日本の農機具メーカーも大手はすでに行っているが、中小はまだ食い込めていない。そこで藤原農機が現地で商社的に機能し、大手ほどの資本力はないけれども技術は間違いない日本の中小メーカーの農機具を現地に広めるのだという。藤原さん自身も向こうに住むというから本気だ。
それでいろいろ話したんだが、やっぱり彼も、もともと好きで家業を継いだわけじゃなかったんだって。藤原さんは3代目で、先代は藤原さんがまだ大学生のときに亡くなっている。それまでは家業を継ぐなんて全然考えなかったそうだけど、先代の他界で選択の余地なく農機具販売の世界に入り、仕事を覚えて30年。自社を年商十数億円の企業に育てあげた。今や農機具販売のエキスパートだ。その彼が、「若い頃はまさか農機具を扱うなんて思わなかった」と言ったから、「じゃあ何になりたかったの?」と聞いたら――。
驚いた。学生の頃は商社マンになりたかったんだって。不思議だよねえ。特別好きじゃなかった世界に成り行きで入り、必要にせまられて覚えた仕事を頑張って、いつのまにか人よりうまくなり、30年経ったら、昔憧れていた職業と今の自分の得意がつながっていたんだ。
私は常に言っているよね。本当に好きなことを仕事にしたいとか、自分に一番向いている職業につきたいとか、若いうちからそんなことを考えるな。実社会は自分が考えているよりもずっと広い。だから自分の狭い視野で物事を考えずに、なんとなく自分に向いてそうで、やっていて嫌じゃない仕事を見つけたら、それを頑張って、人より得意になっておけ。人生はどこで何が展開してつながるかわからないから、って。
藤原さんの話を聞いて、この人がその実例だと思った。これから彼がどうなっていくか、未来のことはわからない。けど、きっと彼自身は悔いのない人生の一時期をミャンマーで過ごすだろうと思う。
35人以上の学生の人生に影響
講師を続けようと思った日
講演もセミナーもたくさんやってるけど、正直これが一番ツライ(笑)。だって、望んで聞きに来るんじゃない人間を相手に話すのはここだけだから。しかも彼らはアート系で、ビジネスとか経営には興味がない。さらに、向こうは毎年人が入れ替わるからずっと18か19歳だけど、こっちは同じ人間だから毎年年齢が離れていく。だから正直、「もういいかな」と毎年思っている。
そうしたら、今年は就職課の先生に言われました。私の講義で人生が拓けている生徒が毎年何人かいるんだって。どういうことかというと、大抵の生徒は、卒業年になって就職指導を始めても入学当初のまま地元での就職を希望するけど、私の講義で視野が広がって東京とか海外で勝負したいと言い出す生徒が、毎年必ず5人は現れるんだって。
言われると確かに、思い当たる生徒がいるんだよ。またそういうやつに限って、最初は教室の一番後ろで斜に構えてる。「どうせまた人との出会いとか親に感謝しろとか、素晴らしい人格者がキレイゴトを話すんだろ」みたいなことを思ってそうな顔で、寝ようとしている。そこで私が「親に感謝なんかするな! 親に感謝される人間になれ!」というようなことを話すと、エッ!? という顔に変わる。グーッと身を乗り出してくる。「この大人は違う」と思い始めたのがわかる。心に火が点くのがわかる――。
特別講師を引き受けて丸7年。毎年彼らの表現者本来の欲望に火を点け、7年×5人で35人。最低でも35人以上の若者の人生に、私の講義が影響を与えてきたと考えると、やっぱり嬉しいよね。だから来年も講師を続けるだろうな。頑張りますよ。
7月3日~7月31日までの勝人塾
経営者の悩みを即解決! 少人数制・公開コンサルティング形式の経営者のための勉強会「勝人塾」。2018年7月は下記日程で行います。当日参加、大歓迎!
7月4日にいがた勝人塾IN巻
7月24日とうほく勝人塾IN八戸
7月31日わかやま勝人塾IN紀伊田辺
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vol.20 ガラにもなく「人生って・・・」という話
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ株式会社・代表取締役専務/佐藤商貿(上海)有限公司・総経理/日本販売促進研究所・経営コンサルタント/作新学院大学・客員教授
経 歴
1964年栃木県宇都宮市生まれ。1988年、兄弟とともに家業のカメラ店をカメラ専門チェーン店に業態転換させ、商圏をあえて栃木県内に絞ることにより、大手に負けない経営の差別化を図った。以来、「想い出をキレイに一生残すために」というコンセプトを追求し続けて県内に18店舗を展開。同時におちこぼれ社員たちを再生させる手腕にも評価が高まり、全国から経営者や幹部リーダーたちが同社を視察に訪れている。2015年からはキャノン中国とコンサルティング契約を結び、現場の人材育成の指導にあたる。主な著書に『売れない時代はチラシで売れ』『エキサイティングに売れ』(以上同文館出版)『日本でいちばん楽しそうな社員たち』(アスコム)『一点集中で中小店は必ず勝てる』(商業界)『断トツに勝つ人の地域一番化戦略』(商業界)など。新刊の『モノが売れない時代の「繁盛」のつくり方』(同文舘出版)が好評発売中。
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