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ビジネス 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」 vol.10 楽しい体験を提供する 佐藤勝人の「儲けてみっぺ」 商業経営コンサルタント/サトーカメラ代表取締役副社長

ビジネス
 
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社内勉強会は現場×本部×経営者の本音バトル
今年の「サトカメエキサイティング」より
皆さんこんにちは。佐藤勝人です。いやー、寒いですね。2月初めが1年で一番寒いですもんね。でも、実はこの回が出る2月10日は、私は南国・宮崎にいます。商売繁盛を願う全国各地の経営者の皆さんと一緒につくる勉強会「勝人塾」の宮崎篇。宮崎は暖かいといいな~。人が温かいのは確実だし、会場も、皆さんの熱気で盛り上がるのは間違いないけどね! そして気付いてみれば、この連載も回を重ねて今回で10回目だ。読者の皆さん、いつも応援ありがとう。まだまだ続くので、これからもヨロシク!
 
 

ヤフーと一休はどっちの買収か

 
「会社が従業員と向き合う姿勢を持てば、従業員もお客さんと向き合うようになる」という話を前回しました。それとも少しからむけど、今回は企業買収のニュースから始めよう。
 
昨年12月15日、ネット検索大手のヤフージャパンが、高級ホテル・旅館の予約サイト大手の一休を買収することが発表されました。それぞれの業界で最大手の企業同士だから注目度も高かった。私も一報を聞いて「へー!」と思いました。と同時に、「この買収はどっちのタイプかな?」とも。
 
私は毎年、勝人塾の皆さんと一緒に、流通先進国アメリカに視察旅行に行っています。そんなこともあってアメリカの小売業者の買収事例をいくつか知っていて、直接現場の話を聞いたこともある。例えばザッポス。顧客のどんな無理難題にも“神対応”でこたえて熱狂的なファンがついていた、靴のオンライン販売の会社です。ここにアマゾンが目をつけて、ザッポスはかなり抵抗してがんばったけど、2009年にとうとう買収に応じた。私、その後が気になってしばらく見ていたんです。最初は私も、アマゾンはネット通販業者として1段上を目指すためにザッポスの優れた部分を吸収するつもりで買収したと思っていました。でも実態は――そんなキレイな狙いじゃなかった。
 
要はさ、アマゾンとしては、ザッポスみたいな商売をされると困っちゃうわけだよ。ザッポスは1999年の創業以来、顧客のためにコストをかけて、人手もちゃんとさいて、手厚いサービスで評価を高めた結果、2008年には売上高が10億ドルまで伸びていた。いっぽうのアマゾンは正反対の、とことんまで省力化したローコストオペレーションで利益を確保するビジネスモデルだ。だからそれ以上ザッポスが大きくならないうちに買収して、人材を引き抜いてアマゾンの人間をどんどん入れて、数年がかりで支配下に入れていった。
 
私は買収されてからのザッポスに何回か行って元々の社員に話を聞いたけど、変わったって言ってたもんね。「大きな声では言えないが、昔は自分たちのサービスに誇りを持っていたけど、今は無理だ。いろいろ規定がうるさくて現場の裁量で柔軟に動けない。お客さんのほうを向いた対応ができない」って。「昔は本当に靴が好きな社員が集まってみんなで楽しく働いてたけど、違ってきた」ってね。
 
その社員の個人的見解がたまたまそうだっただけという可能性はもちろんある。しかし、事実上、アマゾンは自社のやり方を最も業界標準にしやすい立場だ。そんな立場の企業がライバル会社を買収して5年から10年ぐらいかけてつぶしていくケースは欧米ではよくある。
 
それに比べると日本は、企業が発展するための買収しかまだ知らないと思う。生き馬の目を抜くような本当の意味の資本主義が日本に入ってきたのは、たかだか戦後になってからだからね。
 
ただ、各業界で大手の独占がもっと進んで圧倒的になってくれば、欧米型の企業買収が日本でも起こってくるだろう。すでにそのタイプの買収が始まった業界もある。敵は芽のうちにつぶすのが強者の戦略で、仮にそれがひとヤマ当てたいだけのベンチャーだったら、彼らは大手のおメガネにかなって買収されれば万歳なんだから、売っちゃうよね。自分たちのサービスがどれ程素晴らしく、どれだけお客さんに愛されてるかに気付いていなければね。
 
ヤフーと一休のケースはどっちのタイプかなというのはそういう意味です。日本はこれまで“ゆずりあい”の精神で発展してきたけど、今後、他の民族や文化が入ってきたらそうはいかないでしょう。自分たちは何を売っているのか。何がお客さんに喜ばれているのか。自覚して守るべきは守る。中小の事業者にこそ求められてくることだと思います。
 
 

範疇を越える楽しさ

 
アマゾンの悪口を言ったばっかりだけど(笑)、こんな話も聞いたよ。去年の11月だったかな、アマゾンが本社のあるシアトルで「amazon books」というリアル書店をオープンしたそうだ。しかも店に置く点数は通常の書店の4分の1もいかない5000から6000点。「ネット販売で全米のリアル書店を廃業させた当のアマゾンがなんでまた?」と思ったし、5000ぽっちしか置かないのも不思議だったけど、コンセプトはちょっと感心した。
 
というのは、どうやらこの店、アマゾンのユーザーレビューで星が4つ以上ついた本を集めて売る店のようなんです。ご存じの通り、アマゾンのレビューの星は本の内容への評価で、売れ行きの指標ではない。日本で同類のことをやろうとするとすぐ「売れ筋トップ5000」を集める発想になるけど、さすが消費先進国アメリカだ。
 
本でも映画でも、売れているからいいかって言ったら、そうじゃないでしょう。去年一番興行成績が良かった映画はディズニーの、何でしたっけ、雪の女王がどうとか? そりゃ悪いとは言わんけどさ、いいとも思わない。もっと本当にいい映画、感動する映画が他にいっぱいあるじゃない。興行成績は伴わなくてもさ。これからの時代の「豊かさ」って、そういう部分をいかに評価できるかなんじゃないかな。
 
アマゾンのリアル書店が当たるかどうかはわからない。店主が目利きして置く本を決める書店はあったがネットによる集合知が決める書店はなかったという意味で、まったく新しい試みだからね。でも、「売れてる」ということと「評価されてる」ということの区別が前提にあるとしたら、ちょっとのぞいてみたい気がするよね。
 
私も本は好きでよく読むし、本屋さんに行くのも好きです。リアル書店はさ、自分の目的の本の横に「ん?」っていう、なんとなくおもしろそうな本が見つかるのがいいんだよ。いろんなテーマのいろんなタイトルの本が目に入ってきて意外な発想につながることもある。どの商品分野でも、目的買いだけしていると既存の自分の範疇を出られません。
 
範疇というのは越える瞬間が楽しいんだ。楽しい体験をお客さんに提供する。それが我々商業者の原点だと思います。

 著者プロフィール  

佐藤 勝人 Katsuhito Sato

サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長

 経 歴  

栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万?1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

 オフィシャルサイト 

https://jspl.co.jp/

 オフィシャルフェイスブック 

https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts

 サトーカメラオフィシャルサイト 

http://satocame.com/

 YouTube公式チャンネル 

https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)

https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)

 
(2016.2.10)

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