B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

 

精神論ではなくパターン分析を

 
 去年の11月に、『ケアレスミスをなくす50の方法』(ブックマン社) という本を出したら、予想以上に受験生に売れた。
 実際、受験生の多くは、勉強ができるようになると志望校のレベルを上げることもあって、すべり止め校以外は、いわゆる実力相応校を受ける。すると、受験生の実力が伯仲しているため、当日のコンディションで合否が決まることになるが、それ以上に怖いのはケアレスミスだ。ミスをする受験生が多いので、ミスさえしなければ実力相応校は受かる計算になるし、実際、ミスをしなければ、偏差値換算で10上がるという試算もあるそうだ。私自身、受験勉強は強かったが、それは頭が良かったからというより、ミスが少なかったという点も大きい。(もちろん、受験テクニックにも長けていたつもりだが。)
 
 この本のコンセプトは、「気を付けろ」 「しっかり見直そう」 「問題文を丁寧に読もう」 などという抽象的なアドバイスではミスはなくならないということだ。そこで、何十人かの私の通信教育の東大生スタッフに、これまでに経験したり、指導したりした、ケアレスミスのパターンを50集めさせて、その具体的な対策を用意させた。要するに、よくあるミスのパターンを知り、その対策を身に着けていれば、ミスが確実に減らせるという考え方である。
 
 これは、ビジネスマンにもあてはまると信じている。
 
 

足らなかったのは何へのケア?

 
 実は、私は一時期、失敗学の考え方に非常に傾倒し、その提唱者である東大名誉教授の畑村洋太郎先生と、10年以上前に、『東大で徹底検証!!失敗を絶対、成功に変える技術』 という共著を出したことがある。
 畑村先生の考え方は明確で、 「失敗は成功の素ではない。失敗から学んだり、同じ失敗を繰り返さないように努めない限り、失敗は失敗の素にしかならない」 というものだった。そこで、これまでにあった失敗をデータベース化して、その分析や対策を行ったものを知識として身につける重要性を説いている。これを畑村先生は、「失敗博物館」 と呼んでいる。
 
 私の、今回のケアレスミス対策の本も、この発想の影響を大きく受けていると言っていい。失敗の知識を身につけることが最大の失敗対策だというのは、その対談の当時から、私の信念になっているし、私も失敗をしないほうではないが、二度と同じ失敗をしないように心がけているし、それはうまくいっていると自負している。
 
 ビジネスの世界では、ケアレスミスをしない人間というのは、細心であると同時に失敗から学べる人だということを意味しているのである。誰でも、新入社員、若手社員のうちは、ミスはする。しかし、失敗から学べて、同じミスをしない人は、経験を重ねるうちにミスが目に見えて少なくなる。ケアレスというのは、「その場への注意を怠っている」 のと同時に、「これまでの失敗への注意を怠っている」 という意味でもあるのだ。
 
 

自分と他人のミスについての態度

 
 受験の世界でケアレスミスが命取りになるように、ビジネスの世界だって、ケアレスミスはバカにできない。うっかり得意先を怒らせたばかりに取り返しがつかなくなることもある。
 ケアレスミスがない人間になるためには、ミスがないように気を張り詰めること以上に、これまでのミスを見つめ直すことが必要だ。自分が社会人になって以来、どんなミスをしたか? それはどうすれば防げたか? それを一度、じっくりと思い返せる限り、思い返して書き出してみる。それがケアレスミスをなくしていく第一歩なのだ。要するに、自分の失敗博物館を作るのだ。
 
 もちろん、可能なら、その博物館は、いろいろなところから情報をとっていくに越したことはない。たとえば先輩から、どんなミスに気を付けたらよいかを聞いてみる。同僚や後輩の失敗にもきちんとチェックを入れて、そのミスをバカにしたり、叱ったりするのではなく、そこから学び、自分はしないように心がける。このように仕事の態度を変えてみることが、重要な失敗対策である。
 
 
 ビジネスパーソンたる者、ケアレスミスというのは注意の程度の問題ではなく、ミスについての知識や態度の問題なのだと発想をあらためて、ケアレスミスのない人間に変わっていくべし。
 
 
 
 
 心理学で仕事に強くなる ~和田秀樹のビジネス脳コトハジメ~
vol.7 ケアレスミスのない人になる

 執筆者プロフィール  

和田秀樹 Hideki Wada

臨床心理学者

 経 歴  

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科を経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。2007年、劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞。2012年、第二回作品『「わたし」の人生』公開。主な著書に『マザコン男は買いである』(祥伝社新書)、『「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣』(大和書房)、『人生の軌道修正』(新潮新書)、『定年後の勉強法』(ちくま新書)、『痛快!心理学 入門編、実践編』(集英社文庫)、『心と向き合う 臨床心理学』(朝日新聞社)、『最強の子育て思考法』(創英社/三省堂書店)、『大人のための勉強法』(PHP新書)、『自己愛の構造』(講談社選書メチエ)、『悩み方の作法』『脳科学より心理学』(ディスカバー21携書)など多数。

 オフィシャルホームページ 

http://www.hidekiwada.com

 
 
 

 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事