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職場の沙汰も印象次第?!

 
 さて、前回は春ということで新しい職場への適応の話をしたが、今のご時世、「適応」 できるだけではなかなか生き延びていけない。人に勝てる、差をつけるレベルでないとサバイバルできないのが、今の競争社会の厳しいところだ。
 新入社の場合は、初出勤ということになるが、転職であれ、異動であれ、その職場に新たに入ってきた際に、上手にスタートダッシュで差をつけたり、目立ったりすることは、このサバイバルには意外に重要になる。
 
 というのは、人間のコミュニケーションや評価に第一印象が与える影響はかなり大きい。現代の認知科学の考え方では、人間の判断というのは、感情や印象的判断でいい方向にも、悪い方向にもかなり歪められるとされている。好きな相手の発言や仕事ぶりは、必要以上に優秀に見えるが、嫌いな相手のそれについては、欠点を探してしまうものなのだ。見所があると思われるほうが、自分の仕事や言動への評価も高まるし、第一、自分の仕事ぶりが注目されることになる。
 
 ということで今回は、新しい職場でスタートダッシュで差をつける好印象の作り方を考えてみたい。
 
 

「当たり前」と「アピール」のW作戦

 
 一つ目に大切なのは、“当たり前の好感度” である。
 就職面接対策などで、好感度を増すためのトレーニングやあいさつの仕方などを学んだ人は少なくないだろう。ところが、実際に職場に来てみると、気後れしたり、恥ずかしがったりで、笑顔を見せたり、声を出したりしてあいさつができない人が多い。
 わざとらしいと思われるかもしれないが、第一声で 「おはようございます」 の一言が朗らかな声で言えたら、そういうことだけでも第一印象が変わる。何かを教えてもらったり、してもらった際にも、「ありがとう」 と笑顔で言えるかどうかで、やはり印象は大きく違うだろう。こういう当たり前のことができるかどうかが、上司や同僚の認知の枠組みを変えていくのだ。
 
 二つ目は、熱心さや誠実さの “アピール” だ。新しい職場では、わからないことが次々と出てくるだろう。そういう際に、素直に上司に聞いていく姿勢が意外に好感度を上げる。わからないことをそのままにしておくのでなく、ちゃんと聞いて、できるようになろうとする姿勢が熱心さや誠実さに映ることは珍しくない。多くの場合、上司が嫌がるのは、わからないのにわかったふりをされて、後でミスをすることのほうだ。
 
 実は、上司のほうも、新入社員にわからないことを教えるのは、多くの場合気分がいい。優越意識をくすぐるうえに、自分が尊敬されたり、重視されているという感覚を得られるからだ。心理学の用語では 「自己愛が満たされる」 というが、この自己愛が満たされているときが人間には至福のときなのだとされる。そして、自己愛を満たしてくれる人間を多くの場合は、好きになったり、好感を持ったりする。(上司が忙しすぎて、あれこれと質問されるのがうざく感じるときは確かにあるようだが。)
 
 

愛を持って、愛される質問を

 
 自己愛の理論で考えると、上司であれ、同僚であれ、相手のことをなるべく好きになったほうがいい。さらに、好意を持っていることをはっきり示したほうがいい。自分が好かれていると思うと、自己愛が満たされるから、相手のことを好きになるというのが、精神分析的な人間関係のセオリーだ。男女関係でも、ストーカーのようなことでない限り、相手から好きだと言われるとなんとなく嬉しいはずだ。
 
 ただ、質問には、エチケットあるいはテクニックのようなものがある。なんでも根掘り葉掘り思いついたまま質問するというのでは、熱意は表わすことができても、誠実さや優秀さのアピールにはならない。自分は何がわかっていないのかを自省して、きちんと要旨がまとまった形で具体的な質問をするように心がけたい。何が聞きたいのかがわからないと相手も答えにくいが、まとまりのない質問でなく、的を射た質問は、さらなる好感を生む。
 
 いずれにせよ、ビジネスパーソンたる者、新しい職場でスタートダッシュを容易にするのは、自分の能力以上に、好感度だということを心しておくべし。
 
 
 
 
 心理学で仕事に強くなる ~和田秀樹のビジネス脳コトハジメ~
vol.5 スタートの「好印象」で差をつける

 執筆者プロフィール  

和田秀樹 Hideki Wada

臨床心理学者

 経 歴  

1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科を経て、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。2007年、劇映画初監督作品『受験のシンデレラ』でモナコ国際映画祭最優秀作品賞受賞。2012年、第二回作品『「わたし」の人生』公開。主な著書に『マザコン男は買いである』(祥伝社新書)、『「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣』(大和書房)、『人生の軌道修正』(新潮新書)、『定年後の勉強法』(ちくま新書)、『痛快!心理学 入門編、実践編』(集英社文庫)、『心と向き合う 臨床心理学』(朝日新聞社)、『最強の子育て思考法』(創英社/三省堂書店)、『大人のための勉強法』(PHP新書)、『自己愛の構造』(講談社選書メチエ)、『悩み方の作法』『脳科学より心理学』(ディスカバー21携書)など多数。

 オフィシャルホームページ 

http://www.hidekiwada.com

 
 
 
 

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