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学生から社会人まで、多くの人を啓発してきた教育学者の齋藤孝さん。その 「齋藤メソッド」 は具体的かつ論理的、思わず 「はっ!」 とする気付きが満載です。齋藤教授が語る、仕事品質底上げのための集中講座。連載第2回は、学ぶ感覚を身に付けるやり方を教わります。
 
 

「しないほうがツライ」快感の自動回路

 
 実は、学びは習慣性のものである。例の一つが活字中毒だ。60歳代以上の人たちが何百人も集まった講演会で、「休刊日で新聞が来ない日はイライラしますか」 と聞くと、来場者の九割以上が 「イライラする」 と答える。活字を通じて毎朝何かを学ぶのが当たり前の世代にとって、「朝刊がない」 状況は、端的にツライのである。
 
 学びを習慣にするには、脳に快感の自動回路をつくるといい。活字中毒の人にとって、朝起きれば新しい新聞が届いていてホッとするのも、朝食を食べながらつい手に取って読んでしまうのも、自動回路の中の事柄である。「つい」 というのがポイントだ。「つい」 は自然で、無理がない。私は、多くの人に毎朝 「つい」 活字を読ませてしまう日本ならではの新聞宅配の制度は、私たちが学びを習慣化するうえで大きな役割を果たしていると考えている。
 
 本についてはどうか。「普段、本を同時に何冊読みますか」 と様々な人に聞くと、「1冊ずつ」 という答えが結構多い。しかし、全部読みきってから次に行く気持ちだと、案外1冊も読みきれないものだ。一番たくさん本を読めるのは、5冊以上並行して読む読み方である。そういう人は、テレビを見ながら読む本、通勤電車で読む本、トイレに入っているときに読む本というふうに、場面や気分で本を読み分けている。私自身は、普段から30冊ぐらい並行して読んでいる。中には読み終わらない本も出てくるが、それはそれでかまわない。楽しいから学ぶ=読むのであって、自然な形で生活に取り入れればいいのである。
 
 

声に出そう! ワクワクしよう!

 
 学びの自動回路ができあがったら、“ワクワク” 感を加えよう。そのために、「声に出す」 というメソッドをお勧めしたい。何かを知ったときに 「そうだったんだ、え~っ!?」 とか、「すごい、すごすぎるよ○○!」 というふうに、わざとテンションを上げて、○○にいろいろな対象を入れて言ってみるのである。たとえば夏目漱石であれば、「すごい、すごすぎるよ漱石!」 と口に出して言ってみる。そして 「漱石のすごいところは三つある! 一、人間心理の奥底を表現した! 二、人間のエゴを追究した! 三、則天去私の境地に至った!」 などと適当に例を挙げて、しかもそれを人に話しまくるのである。誰かに会うたびに 「すごいよこれ!」 と言っていると、本当にドキドキ、ワクワクしてくる。「おれ、学んでる!」 という快感が育ってくるのだ。
 
 私は仕事の関係でアートディレクターの佐藤可士和さんとお付き合いがある。佐藤さんはセブン- イレブンや楽天など名立たる企業のロゴデザインを手がけた、ブランディングの天才である。だから私は 「すごい、すごすぎるよ佐藤可士和!」 と様々な人に話す。「えっ、実はツタヤもユニクロも、ぜ、全部そうなのか! すごすぎる!」 と話しつのるうちにワクワクしてきて、「いったいどういう仕事なんだ? もっと知りたい!」 と自然に思うようになる。
 
 これこそが学びの “芽” だ。大人こそ、感覚的に“ワクワク”しながら学べるメソッドが必須なのだ。若さはそれ自体で沸き立っているものだから、若者は何をどう学んでも楽しいし、人生も本人も魅力的でいられる。しかし大人はそうはいかない。逆に言えば、学びと “ワクワク” 感を極められるのは大人の特権なのである。
 
 

天敵「飽きる」と対峙する

 
 しかし学びにも天敵はある。「飽きる」 という感情だ。作業が単調だったり裁量が狭かったりで仕事に飽きてしまう危険は、どんな職種にもあるだろう。そんなときは 「技を究める」 という対処をお勧めする。つまり職人気質である。江戸時代の職人の仕事ぶりや暮らしを描いた本を見ると、桶職人は一生風呂桶をつくっている。まさに一生の業、生業(なりわい) だ。技術への自信と、「いつも結構いいものをつくってますよ」 という誇りが、彼らを飽きから守っている。
 
 現代でも、たとえばファーストフード店の店員は、ベテランになると、フライドポテトを掬って素早く袋に入れる仕事で、一掬いでピッタリ100gとか98gとか、何回やってもほとんど誤差なく掬えるようになるそうである。もはや 「フライドポテトを袋に入れる職人」 だ。技が感覚的で直感的だと、それを究める行為には生理的快感が伴うのも良い点だ。
 どんな仕事も、その世界の奥はどこまでも深い。漢字の語源や由来の研究で無二の存在として知られる白川静さんは、「漢字の世界だけで一生尽きない。飽きるなんて考えられない」 と、その著書に書いている。
 
 これと正反対の、ピカソのような例もある。ピカソはキュビズムをはじめ、あらゆる絵画技法を試した大画家だが、彼のやり方は、いわば 「どんどん飽きる」 というものだった。ものすごい勢いで飽き続けて、そのたびに新しい技にチャレンジしたのだ。仕事も勉強も、「もう飽きた!」「もう飽きた!」「もう飽きた!」 の連続で学びの新鮮さを保てるのなら、それも 「飽きる」 と対峙する一つのスタイルだろう。
 
 
 
 

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