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能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第4回 仮設住宅における生活と健康の注意点

ノウハウ 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第5回 被災者や被災地への支援のあり方 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
2024年1月1日に能登半島地震が発生。同地域で中小企業や個人事業主として会社を運営する経営者の中には、避難所で避難生活を送っている方もいるだろう。また、組織としてボランティア活動に乗り出している会社もあるかもしれない。そうした中、被災地ではどのような支援が必要で、被災者はどんな注意をするべきなのか。防災専門家で元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授の古本尚樹氏が、熊本地震や東日本大震災被災地・被災者調査を踏まえて留意点などを解説。5回目は被災者や被災地への支援のあり方について。
 
 

必要な支援は日ごと変化

 
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著者が執筆しているのは、発災から約3ヶ月経たところだが、支援すべき物やサービスは1週ごと、むしろ日ごと変化していることに気付くのではないか。発災直後の応急期を経て、被災1週間くらいにおいて、被災者は極度の緊張感の中にあり、関心の高いことは自らへ直結する内容である。
 
例えば、給水の場所、物資、燃料がどこで手に入るか(営業しているガソリンスタンドの情報など)、また、自宅などが安全か、その自宅や救援物資を持っていく道路は通行可能か、など各自の生命や資産に直結する内容が多いはずだ。1週間程度が経つと、これまでの事例では「洗濯がしたい」「風呂に入りたい」というニーズが増加する。着の身着のまま避難している被災者が多いので、着替えがない場合がほとんどだ。下着などの物資がこの期間はないに近いので、洗濯へのニーズは高い。また、水不足の時期でもあり、浴室利用のニーズは高い。“水”の存在が生活に欠かせないと痛感する。
 
発災から2週間程度にかけては、提供される物資やサービスの“質”に関する要望が出てくる傾向が強い。例えば、食事の内容を変えてほしいとか、若い人向けのみならず高齢者でも食べやすい食事(質の問題へ指摘)、さらには暖かい食事を等である。また、避難所の環境に関することも増える。多様な背景を抱えた被災者が混在するので「うるさい」とか「徘徊している」などの指摘も増える。また、備品の盗難などもある。一方で発災から約2週間程度からは、自治体への要望やクレームも増加傾向にある。住環境など支援のことや、将来的な家計に関わること、従事している仕事に関して支援など、“お金”によりリンクしたことが増えて、被災者のストレスもかかってくる時期も相まって、苦情が増加する。
 
発災から約3週間経った時期は、被災者の疲労がピークに達してくる時期なので、そのストレスをいかに緩和できるかが、重要な支援になってくる。今、自治体や国など行政サイドと、民間の双方が動いていて保健・医療など多様な支援が展開されている。直接被災者と接することは少ないが、道路の復旧など建設業者等も重要な役割を果たしていることを忘れてはならない。
 
 

ボランティア活動と義援金について

 
被災者の自宅におけるがれき処理など、個別に対応するボランティア活動の多くは、これからの予定だ。ボランティアをしたいと願う人は多いだろうし、それへのニーズも高い。しかし、受け入れ側の状態において整うことが前提になるのは、言うまでもない。
 
孤立集落になっていたような地域では、支援が手薄な状況があるので、こうした地域へのボランティアの活用は積極的に行うべきだが、そのエリアまでボランティアが安全に赴けるかという課題もある。ちなみに、「熊本地震被災住民における健康と生活について~被災地での調査から~古本尚樹. 地震ジャーナル67pp.30-37.2019」では、ボランティア活動と被災者の健康には統計学的には関係があるとされ、つまりボランティアの支援が被災者の健康における良し悪しにも影響している。今やボランティアへのニーズは単純な作業にとどまらず、被災者のニーズの細かい部分にも対応して、それは災害関連死を防ぐことにもつながっているのだ。
 
今、私たちが被災者や被災地に一番貢献できる支援は、義援金である。受け入れ側に負担をかけず、支援する側も手軽に貢献できる。また、ふるさと納税を活用するのも有効である。被災自治体のふるさと納税を代行する形で、友好都市等他自治体が行っている場合もあるので、これならば混乱している被災自治体に負担が少ない。この義援金に関してだが、最終的には配分に関しての委員会が組織され、金額や配分先の詳細が決められる。また、寄付に関して国内のみならず、海外とりわけ台湾の日本に対する寄付金や支援は特筆すべきであろう。東日本大震災でもそうであったが、億単位の寄付金をわずか数週間で日本に、しかも民間ベースでもしてくれることに、心から感謝するし、日本国民が台湾に対して強く心に刻むことだろう。
 
今や、支援は官民合わせて行うのが普通になった。むしろ民間によるニーズは高く、それへの期待も大きい。日本における社会的課題、例えば高齢社会や各家族化、都市部とそれ以外の地域における人口分化、家計に関する課題などは災害を契機にして、より状況を悪化させる特定の階層がある。福祉に関するサービスは、高齢者や障がいのある者を中心に、多くの支援が必要となるが、施設の職員自体が少なく(成り手不足)、スキルの向上などもままならない福祉が、さらに状況を難しくしている側面がある。
 
ただでさえ、福祉分野では職員の賃金等待遇が低いこと、その割に重労働であり、職員の虐待などの課題も山積している中で、災害の発生で、支援の必要が多々あっても、送り込めない元々の理由がある。そこをボランティア等が隙間を埋める形で貢献できる場面はあるが、この福祉や介護の分野は、特定の訓練や経験がないと、対象が要介護認定者などである場合、十分なニーズに対応ができない。
 
今後の課題としてボランティア自体の専門分野を持たせ、スペシャリストを養成することも検討すべきではないか。単純作業の貢献も重要である。その一方で、細分化されたニーズ、高度化した対応への備えのため、ボランティアにより高度な知見と経験を積ませた上で、派遣できるような仕組みが必要だと思う。
 
能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が解説
第5回 被災者や被災地への支援のあり方
(2024.4.3)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

防災専門家
元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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