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コラム ドクターの手帖から vol.1 がん治療の現在とセカンドオピニオン ドクターの手帖から  メディポリスがん粒子線治療研究センター長/医師

コラム
 
「粒子線治療」をご存じだろうか。抗がん剤・手術・放射線治療に加えて認知されつつある最新のがん治療だ。いわゆる先端治療では、患者も自ら情報を集め、医師と一緒になって治療戦略を考え、覚悟を決めて治療に入る例が多い。粒子線治療の第一人者である菱川良夫医師が、医師と患者の“共闘”の中からポジティブなドラマを語る。
 
 

がんは自分で治療法を選べる時代に

 
 今回は、がん治療の現在とセカンドオピニオンについてお話ししましょう。
 私は現在、鹿児島県指宿市にあるセンターで、がんの粒子線治療に取り組んでいます。粒子線治療と聞いて、すぐにぴんと来る人がどれくらいいるでしょうか。どんな治療法かを説明する前に、がんにまつわる医療の歴史を大まかに辿っておきます。
 
 がんという病気は、体のどこかに発生して、周囲の組織や臓器に広がっていくのが特徴です。そのため、できてしまったがんを見つけたら、その部分を取り除くことで、体への悪影響を食い止めることができます。つまり手術ですね。
 がんの手術の歴史はとても古く、西洋では紀元前から行われていたようです。悪いものは取ってしまえ、という考えは単純ですが理にかなっています。しかし、昔の手術は、それはそれは大変だったらしい。その証拠に、200年ほど前まで、外科医の助手を務めるのは、みんなレスラーのような屈強な人たちだったといいます。そうです、体内のがんを手術で除去するには、腹や胸などを切開しなければいけません。まだ麻酔がなかった時代、手術には想像を絶する痛みがともなうため、患者の両手両足を動かないように押さえつけておく必要があったのです。
 
 その後、麻酔技術の発達によって、手術は急速に身近なものとなりました。そして同時に、「がん治療の一番手は手術」という認識も一般に広まりました。
 今でも、がんになったら手術するしかない、と考えている人は多いと思います。もちろん、ケースによっては、手術はがん治療の有効な手段です。しかし、唯一の手段ではありません。今日の医療では、がんに罹った方にいくつかの選択肢が用意され、患者さんそれぞれが、自分の生き方に合った治療法を選ぶことができます。粒子線治療もまた、その選択肢に加わった新しいがん治療の技術なのです。
 
 

飛躍的に精度が向上した放射線治療

 
 がん治療に手術と並ぶ新しい潮流が生まれたのは、20世紀も終盤のことでした。きっかけは、体の中が「見える」ようになったこと。CT(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(核磁気共鳴映像法)を用いた検査によって、病気の原因が体内のどこにあるのか、高い精度で特定することが可能になったのです。
 見えるようになったことで、可能性を大きく広げたのが放射線治療でした。がん細胞があると思われる箇所にX線やガンマ線を照射する放射線治療は以前から行われていましたが、見えない病巣に命中させるのが難しいという課題を抱えていました。それが、MRI技術などの登場により、しっかりと狙いを定めることができるようになったわけです。
 
 放射線治療にはいくつかのバリエーションがあり、私たちが推進する粒子線治療もこの中に含まれます。従来のX線・ガンマ線による放射線治療は、がん病巣に対して様々な方向から何度も放射線を当てる必要があり、多い場合には10方向にも及びます。これに対し、粒子線治療では縦・横の2方向、あるいは斜めを加えた3方向からの照射だけで済み、がん細胞以外の正常な組織への影響も少ないという優位性があります。
 
 ただし、X線治療が基本的に保険適用を認められているのに対し、粒子線治療は適用外です。つまり患者さんに高額の費用がかかりますが、私はこのことを特にマイナスだとは思いません。──なぜでしょうか?
 
 

セカンドオピニオンは患者側の権利

 
 私は、粒子線治療や今後の実用化が期待されるiPS細胞技術など、これからの新しい医療は、患者さん自身がなるべく費用を負担する形で普及させていくべきと考えています。現在39兆円にも達している国の医療費をこれ以上増大させてはならないという問題意識も当然ありますが、それだけが理由ではありません。医療にもそれ相応のお金がかかることを一人ひとりが認識し、医療保険などの手段で将来の病気に備えつつ、普段から健康の維持に努める意識をもっと育てる必要があると思うのです。言い換えるなら、医療を国や医師に任せっきりにしないで、自分のこととして真剣に考えてほしいということです。
 
 こうした考えに立って、私は医療を受ける皆さんには、セカンドオピニオンを求めるよう強く勧めています。ご存知の方も多いでしょうが、セカンドオピニオンとは、患者さんやその家族が、医師の診断や治療法が適切かどうかを確かめるために、他の医師から聞く「第2の意見」を指します。
 
 セカンドオピニオンは患者さんの権利です。国の医療に関する規則に定められていますし、「第2の」医師を紹介した場合には診療報酬が支払われる制度もスタートしています。にも関わらず、主治医への遠慮からでしょうか、この権利の行使を躊躇する患者さんが少なくありません。
 
 しかし、考えてみてください。がんのような重い病気でも、今は手術だけでなく、放射線治療など有効な治療法がいくつもあるのです。どの方法があなたにとってベストなのか、複数の専門家の意見を吟味したほうが、より納得のいく判断が下せるのではないでしょうか。
 重ねて言います。セカンドオピニオンは患者さんの権利。他の誰でもない、あなた自身のためなのです。遠慮なく相談してください。
 
 
 
 
 ドクターの手帖から
vol.1 がん治療の現在とセカンドオピニオン 

 執筆者プロフィール  

菱川良夫 Yoshio Hishikawa

メディポリスがん粒子線治療研究センター長/医師

 経 歴  

1974年、神戸大学医学部卒業。医学博士。放射線科専門医としてキャリアを積み、90年にヨーロッパ放射線治療学会小線源治療賞を受賞。2001年から2010年3月まで兵庫県立粒子線医療センター院長を務め、2010年4月から現職。神戸大学客員教授、鹿児島大学客員教授、順天堂大学客員教授を兼任。粒子線治療の第一人者として普及啓発活動に力を注いでいる。著書に『「がんは治る!」時代が来た』

 オフィシャルホームページ 

http://www.medipolis-ptrc.org

 フェイスブック 

http://www.facebook.com/yoshio.hishikawa

 ブログ 

http://ameblo.jp/ptrc

 
(2014.5.14)
 
 
 

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