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映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて毎回ひとつのキーワードを投げかける。第1回は 『ガキ帝国』(81年) から、“コトバ”。
 
 
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『ガキ帝国』1981年 日本/プレイガイド
ジャーナル+ATG製作
ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
発売(税込¥3,990)
 喧嘩に明け暮れる若者を撮ってきた。受験塾やゲームやディズニーランドに明け暮れる若者では面白くないからだ。でも、手が出る喧嘩は好きじゃない。殺し合いなど、もっての外だ。ハリウッドはすぐに主人公の顔に “正義” マークを貼りつけ、拳銃で殺し合いさせる。問答無用に。アメリカは西部劇の昔から、銃で白黒をつけてきた。『ダーティ・ハリー』 も、悪党を追い詰め、とどめの一弾が残ってるかどうかも分からないままマグナム44を悪党の鼻先に突きつけ、「Go Ahead, Make My Day」 (先に抜けよ、自分で決めな) と、最後は悪党に自らの運命を選ばせるような、命の駆け引きをして迫った。相手が観念すると、ハリーは粋な文句を続ける、「身のほどを知れ」 と。
 
 日本映画は口喧嘩でいい。言い合うことは生きるためだ。でも、言い合いが途絶えてしまうと殴り合いになる。ハリーの挑発的ジョークなど吐く術もない餓鬼は 「オレの気持ち、わかってくれや」 とばかり、パチキ(頭突き) をかまして乱闘した。
 
 『ガキ帝国』 の終盤では、殺し合いに至り、反目する少年らは二人とも死んでしまう。あの不良少年たちは、ついぞ、“自分らしい言語” を持てなかった。背伸びした、あるいは “舌足らずのコトバ” しか知らなかったからだ。
 
 世の中に、いい言葉が枯れ果てて久しいが、嘘が商売の政治家なら金をばら撒くように、ゴマをする会社員なら中元歳暮を上司に贈るように、裏社会の大人に根回しして、大阪のキタからミナミまで勢力地図を拡げ、不良軍団のてっぺんに腕力でのし上がった少年 “明日のジョー” に、自由独立派の3人組の下っ端 “チャボ(故・松本竜介扮する)” は、兄貴分のリュウが傍にいることをいいことに、しゃしゃり出て、「オレの相手は誰じゃ!」 と虚勢を張る。すると、舌の減らない “ジョー” から 「オマエは、こいつ (リュウ) の、金魚のフンじゃ!」 と云いこなされる。
 
 チャボは二の句が継げない。それが的を得た “名言” だったし、売り文句を上回る買い文句も用意してなかったからだ。喧嘩にマグナム44など要らないが、そこは大阪人のチャボらしく “ボケ” て返せば、その場は切り抜けられたはずなのに。チャボは、マグナムの代わりに、フォークリフトに乗っかり、“ジョー” が待つベレットGTめがけて、大きな爪を向けて突入し “ジョー” を圧し潰し、子分に逆ギレされ、自分も殺されてしまう。自分らしいボケもツッコミも探さないまま、ハードルを越えようとして、破綻する。
 
 『ガキ帝国』 に一人だけいた、冷静な主人公。いつの時代にもいてほしい一匹狼の彼は、餓鬼の帝国で戯れる奴らと縁を切って街に戻ってくるや、新しく成り上がったハイエナ集団にからまれる。殴られ蹴られ、踏みつけられる。でも手は出さない。無言で耐える。ハイエナどもは狼をかみ殺せないまま消え去る。群れる者にそんな勇気はないし、無言の狼ほど強いものもない。おまけに、一人で大人になった狼は、無抵抗の勇気さえも心得ていたようだ・・・。
 
 *
 
 「喧嘩の映画」 を撮ってきた自分やからこそ、何かに挑む “ええ喧嘩” をしたい人を勇気づけるコラムが、書けるかもしれんと思っています。次回もよろしく。
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。県立奈良高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画『行く行くマイトガイ・性春の悶々』を製作、監督デ ビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降『みゆき』(83年)『晴れ、ときどき殺人』(84年)『二代目はクリスチャ ン』(85年) 『犬死にせしもの』(86年)『宇宙の法則』(90年)『突然炎のごとく』(94年)『岸和田少年愚連隊』(96年/ブルーリボン最優秀作品賞を受賞) 『のど自慢』(98年) 『ビッグ・ショー!ハワイに唄えば』(99年) 『ゲロッパ!』(03年) 『パッチギ!』(04年)では、05年度ブルーリボン最優秀作品賞他、多数の映画賞を総なめ獲得。『パッチ ギ!LOVE&PEACE』(07年) 『TO THE FUTURE』(08年) 『ヒーローショー』(10年)など、様々な社会派エンターテインメント作品を作り続けている。

 

☆・・・ 井筒監督の最新作 『黄金を抱いて翔べ』 が11月3日から封切り。
公式サイトはこちら ⇒ http://www.ougon-movie.jp/

 
 
 
 

 

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