B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

酸化・腐敗から食品を守れ!

glay-s1top.jpg
 
スキンパックが増えています。スキンパックとは、生鮮食品売り場で見られる真空包装の一種で、「トレイ等の上に食品を置いたまま特殊なフィルムをかぶせ、下方から空気を抜いて食品を密封する方法」のこと*1
 
現在主流の「単にトレイごとラップで包む」包装形態との違いは、まず、中に入っている食品――例えばお肉――の表面にフィルム(ラップ)が密着していて、間に空間がないこと。空間がないので食品のドリップ(汁)がにじみ出てこず、腐敗を抑えられます。
 
また、ほぼ完全な真空で酸素がないので、外の酸素に触れないようフィルムに酸素不透過性のものを使っておけば、酸化も抑えられます。
 
腐敗のほうは菌の仕業なので、滅菌包装しない限り元を断てませんが、冷蔵・冷凍で商品を低温状態に保てば菌の繁殖を抑えることはできます。加えて酸素に触れさせないことで酸化も抑えれば、賞味期限が格段に延びます。
 
 

隙間を許さない!

 
実は、普通の真空包装――いわゆる真空パック――では空気を完全に抜くことはできません。主な理由は、ある程度強い材質のフィルムでないと脱気に耐えないから。
 
強い=硬い=面追従性が相対的に低いフィルムで真空にしようとすると、場合によっては中身の辺縁部をつぶしてしまいます。つぶれても売れるならともかく、普通は消費者が買ってくれません。
 
だから、いわゆる真空パックは、例えば魚のフィレ半身やスライスしたスモークサーモンのように、辺縁部がもともと薄くて面追従性をそれほど必要としない食品か、辺縁部に空間が残ることを見越して品質保持期限を定めた食品かの、どちらかにしか使われません。少しお高めのソーセージ類は昔から真空パックですが、中をよく見ると隣との間に隙間があり、ゼラチンが固まっていたりします。あれは深絞り包装という真空パックの一種です。
 
スキンパックはあの隙間すら残さない包装形態です。強度と面追従性を両立できるフィルムが開発され、包装技術も進んだことで普及しました。80年代末にドイツで最初の技術が開発されたこともあり、ヨーロッパではすでに90年代から、店頭でカットしてもらって買う精肉以外はスキンパックで売られています。
 
 

驚異の賞味期限

 
日本でもここにきてスキンパックが増えてきたのには、いろいろな理由があるようです。
 
よく言われるのは、フードロス(食品ロス)問題の解決策としての動きです。
 
まだ食べられるのに消費されないまま廃棄される食品の量は、日本は2021年度時点で年間523万t。2015年の646万tからは着実に減っていますが、まだまだ多いです。スキンパックが一般化すれば、最も賞味期限が短く消費プランが狂いやすい食品である精肉や鮮魚が、今ほど捨てられなくなるはず。フードロスもかなり減ると思います。
 
では実際に、スキンパックでどれほど賞味期限が伸びるのか。
 
日本で最初に酸素不透過のスキンパック用ラップフィルムを開発した住友ベークライト社の専門サイト「おいしさスキン」の実験では、牛肉サーロインで一般のトレイ包装が賞味期限5日のところ、スキンパックは22日。豚肉ロースでは、一般のトレイ包装が6日のところ、スキンパックは26日です。これなら、「冷蔵庫にあるのを忘れていた」「外食続きで賞味期限を過ごしてしまった」などの理由で食べられなくなることは滅多にないでしょう。
 
 

鮮やかな赤は酸化のしるし

 
増えた理由で他によく言われるのは、消費者の慣れです。
 
2010年代半ばに熟成肉ブームが起き、肉も魚も、「新鮮であればあるほど良い」とも限らないことが一般に周知されました。日本で初めて食品売り場にスキンパックを導入したのはダイエーで、2020年5月に関東と近畿の全店舗でスキンパックの精肉と鮮魚を販売開始しましたが、開始一年後には肉の色味へのクレームがなくなったそうです。一年も経てばそりゃあ・・・とも思いますが、熟成肉を知ったことで、消費者の側で色や風合いなど食品の外見に対する見方の幅が広がり、理解が早まった可能性もありそうです。
 
では実際に、単にトレイごとラップで包む今のやり方とスキンパックとで肉の色はどう違うのか。
 
牛肉の場合、スキンパック包装された肉は紫を帯びた深い(暗い)赤色で、これが新鮮さの証明になっています。実は、一般に消費者が思っている「肉は鮮やかな赤色のものが新鮮」というのはまったくの思い込みで、鮮やかな赤はむしろ酸化が進んだ証拠。肉は赤の発色が暗ければ暗いほど、色素タンパク質のミオグロビンがオキシミオグロビン化(酸化)しておらず、新鮮なのです。鮮魚だとマグロなども同じです。つい目に心地よいほうを買いたくなりますが、知識は正しく持っておいて損はありません。
 
 

初期費用をどうとらえるか

 
スキンパックが増えてきた理由の最後は、供給側の事情です。
 
長らく先進国中最低を続けてきた賃金水準を見直す動きが出てきて、最低賃金(時給)に関しては、今年は全国加重平均で1004円にまでなりました*2。プラス43円の上げ幅は伸び率にして4.1%で、過去40年さかのぼってもこれだけ伸びた年はありません――。
 
ありません――、が、伸び率2.9%だった40年前の1983年(最低賃金411円)と比べて、今のほうが人が雇いやすいと感じている経営者は、たぶんいないと思います。賃金さえ上げれば働き手を確保できると考えるのは前時代的感覚です。これからは必要人員のほうを減らす発想に向かうしかないでしょう。
 
そう考えると、スキンパック包装を増やすことは店側からすれば、品出し頻度を下げ、陳列管理に余裕ができ、必要人員が減らせることを意味します。期限切れ前の値下げ(見切り販売)が減ることで機会損失が少なくなり、利益体質が改善します。廃棄コストがかからなくなることももちろんです。
 
そうなると、スキンパック導入の最大のハードルである初期投資、つまり包装機械が高価であることは、相対的に高いハードルではなくなります。今の感覚で検討するから高いと感じるわけで、これから日本はインフレですし、賃金上昇ペースが速まるにつれ設備投資効果は高まることを思えば、標準で300万円が目安とされる包装機械の費用は、さほど大きくはないのでは・・・。
 
なお、今年8月下旬に富士経済研究所が発表したプレスリリースは、2026年にスキンパック用フィルムが2022年比で66.7%増えると予測しました。
 
 
*1 ジャパン・プラス株式会社Webサイト内「豆知識」ページより
*2 バイト求人ネット内「全国加重平均の最低賃金の推移データ(1977年~2023年)」より
 
(ライター 横須賀次郎)
(2023.12.6)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事