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宅配便取扱個数が50億個超え

 
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phonlamaiphoto / PIXTA
そろそろ年末進行に入りかけた先月6日。筆者はコロナ禍を機に始めた釣り用のリールをamazonで購入した。初級者向け“コスパ最強リール”として名高いシマノのFXシリーズ(C3000)である。戸配してもらうのは気が引ける値段と大きさだったので近所のヤマトの営業所で受け取ることにして、いつもながらうっかり触れさせられそうになる「お急ぎ便を試す」のバナーを慎重に回避して通常配送で注文すると、4~5日後の到着予定を案内された。――すると3日後だったか、「予定通り届けられない恐れがある。その際は送料がかかっている場合は送料を返還する」旨の通知が来た。
 
戸配ではなく営業所受け取りにしたのは前の晩に「すまんみんな。悪いと思っているけどマジで許して。amazonブラックフライデーや楽天スーパーセールで配送がもうごちゃごちゃで」というTwitter投稿を見たせいだったかもしれない*1。結局11日午前に「営業所にて受取可能」の通知が来て予定の期限内に無事商品を受け取ったわけだが、発送は通常のタイミングでされたにもかかわらず「予定通り着かないかも」と途中で弱音を聞いたのは、2006年からamazonを利用してきて以来、初めての経験だった。
 
国土交通省の昨年夏発表の資料によると令和3年度(2021年度)の宅配便取扱個数は前年度から1億1676万個増え、49億5323万個*2。2022年度はついに50億個を超えただろう。放置すれば2030年には7.5~10.2兆円の経済損失を引き起こすとされる「物流危機」をめぐってはドライバー不足がつとに指摘されているが、純粋に荷物の総数の問題でもある。
 
Eコマースの伸長を鑑みれば宅配便の取扱個数はまだまだ増える。経産省のまとめでは2021年度の消費者向けEC物販の市場規模は13兆2865億円。前年度比プラス8.61%の伸びである*3。いっぽうで、中心市街への集住(コンパクトシティー化)が進まない過疎地域や、離島や山間部を擁する自治体では買い物難民の救済策が必要だ。そこで期待されているのがドローンである。
 
 

レベル4解禁を受け急ピッチで進むドローンビジネス

 
先月5日、改正航空法の施行によりドローンのレベル4飛行(有人地帯における補助者なし目視外飛行)が解禁された。「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議」が定めた「空の産業革命ロードマップ2022」では、今年2023年度からの社会実装として「物流・医療」(生活物資・医薬品等)の項に「ドローン物流の課題の整理、物流サービスの実装を促進」を明記している*4
 
そう思って『LNEWS』の「ドローンに関するニュース一覧」のページを見ると、物流系、通信インフラ系、情報システム系から航空会社に保険会社に自治体まで、さまざまな関係先がレベル4を見据えた動きを急ピッチで進めている*5。昨年後半から本コラム執筆時点である12月21日までの間でいくつかトピックを抽出してみる(カッコ内は筆者の注釈)。
 
◆ANAほか/ドローン物流の安全・安心な飛行ルート開拓(ドローンの運航ルート開拓の判断支援)
◆KDDIとJAL/レベル4解禁へ、「1対多運航」ドローン運行で協業
◆セイノー、エアロネクスト/安中市と新スマート物流構築で連携(ラストワンマイルにドローンを組み込み、地上輸送とドローン配送を連結、融合。買い物代行や災害時支援、医薬品配送等を行う仕組みをつくる)
◆ドローン輸送/鳥取で官民連携の実証実験、一級河川上を飛行(災害発生による道路寸断を想定した医薬品・防災用品空路輸送の実証実験)
◆JAL/離島地域のドローン社会実装モデルを検証、2023年事業化へ(災害時対応や不安定な海上物流に課題を持つ離島地域においてドローン空輸で既存物流を補助)
◆損保ジャパン/ドローンのレベル4飛行に対応した保険提供開始
 
詳細については後注リンク先から各記事を閲覧してほしいが、見出しからだけでも、一般の人が「レベル4飛行」がもたらすものを理解するためのキーワードが見つかる。保険会社の「保険提供開始」の話からは、「なるほど、保険サービスも確かに必要だな」と思わせられるし、「安全・安心な飛行ルート」というキーワードからは、空には障害物がないといってもどこでも飛べるわけではなく、遠隔操作ないし自律飛行中の通信品質を担保できる空域および飛行経路を、管制側あるいは機体側で判断・設定できなければならないことに思い至らされる。そのための技術は? 手法は? 法体系および運用体制の細かな整備は? 詰めるべき課題は多い*6
 
また、「1対多運航」のキーワードからは5G通信の特長である多数同時接続を自然に連想するが、現状は産業用ドローンといえども電波のカバレッジ(カバーエリア)の問題で4G/LTEがメインで使われており、「1対多運航」を実現するためのインフラ面が不足しているようだ。物流危機の解消にドローンを役立てるなら、スタンドアローン型の5G通信エリアがもっと普及して多数同時接続が一般的にならないと難しいのではないか*7
 
 

宅配ドローンの前提となった非技術面での変化

 
本コラムはテーマを物流に限定するのでドローンビジネスの構成要素全体はカバーしないし、もとより筆者にその能力もない。が、関連の各領域における先端的議論の背景で、こと宅配に関しては、ドローン配送の前提となる非技術面での変化が過去3年間で急速に進んだことを思い合わせずにいられない。
 
その変化とは何か。「置き配」の定着だ*8。鍵付きのポストに書籍やCDを投函されるならともかく、玄関先や庭先にボール箱や包みのまま荷物を置いて宅配完了とする文化は、コロナ禍で“非接触”が推奨されるまでは私たちの日常にないものだった。
 
宅配が地上を離れ空に浮上し、それを支える通信技術もまた地上の制約を逃れ衛星や無人飛行体の無線局(高高度プラットホーム局:HAPS)を志向しはじめている現状を思うとき*9、「地球の重力に魂を縛られた人々」という『機動戦士ガンダム』シリーズのシャアの名台詞を連想してしまう。ドローンはあれをアンチテーゼとして進化するのか。筆者のリールは地上どころか、地球の重力に引かれて海抜下にまで魂を縛られに行く物なのだが。
 
 
 
*1 @_596_(午後0:28 · 2022年12月5日)
*2 令和3年度 宅配便取扱実績について(国土交通省・令和4年8月10日)
*3 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省 2022年8月12日)
*4 「空の産業革命に向けたロードマップ2022」(首相官邸)
*5 ドローンに関するニュース一覧(物流ニュースのLNEWS)
*6 第152回運輸政策コロキウム ~ワシントンレポートXVI(一般社団法人運輸総合研究所 2022/10/11)
*7 企業でのモバイル活用、5Gを尻目に4Gが注目を浴びる理由(日経クロステック 2022.8.1)
  ドローンの通信技術の展望(PwC 2022-04-07)
  カバレッジマップ(nPerf.com)
*8 2022年「置き配」利用率が6割を突破、19年比で2.3倍に増加(value press 2022年12月12日)
*9 5G evolution & 6Gに向けたNTN技術の研究(NTT技術ジャーナル 2021.9)
  目視外飛行するドローンをつなぐ無線技術(IEICE Fundamentals Review Vol.15, No.3)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2023.1.4)
 
 

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