B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

NTT東日本の「未来の働き方」アンケート調査

 
glay-s1top.jpg
cba / PIXTA
先月初めのWeb記事*1で、NTT東日本が実施した「未来の働き方」に関する意識調査が報道されていた。調査対象は全国の高校・大学生575人。内訳は高校生175人、大学生400人である。いずれもテレワーク(リモートワーク)の働き方について知っている人たちだ。
 
調査によれば、自分に合う働き方を「テレワーク・オフィスワーク折衷」と回答した人が47.8%で最多。次が「テレワーク中心」で28.3%、最後が「オフィス中心」で23.8%である。記事は彼らについて、「オンライン授業を経験していることからテレワークへの抵抗感は低」く、テレワークのメリット「自分でコントロールできる時間が増える」もデメリット「意思疎通が不十分になる」も理解しているが、「リアルな空間も求めている」と分析していた。
 
6・3・3制の日本では高校は3年間、大学は4年間だ。つまり、今春新卒で各職場に入ってきた人材は、高卒者は高校生活の3分の2強を、大卒者も大学生活の2分の1強を感染防止のためオンラインで過ごした世代ということになる。記事は「オンライン授業を経験」と時間を“点”でとらえているが、実態に即せば「リモート授業ネイティブ」の世代が現れたということである。
 
 

ジャネーの法則と世間知ロス

 
これが何を意味するかと考えていたら、先月13日、明治大学政治経済学部教授の飯田泰之氏がYouTubeチャンネル「別冊!ニューソク通信」で同種の着眼の動画を配信した*2。動画の中で飯田氏は、2年半ぶりに教室で講義をしたら板書で腕が筋肉痛になったこと、学生たちもいわゆるキャンパスライフを2年半経験していないこと、その間に、通常であれば身に付く世間知が身に付かないでいること、その結果、今の大学3年生は高校6年生、高校3年生は中学6年生の感覚であることを報告した。
 
加えて飯田氏は「生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢に反比例する」という「ジャネーの法則」を引きつつ、10代の若者にとっての2年間は50代の10年間に相当するはずで、それをリモートで済まさざるを得なかった影響は彼らの人生に今後さまざまな形で現れる、迎え入れる社会の側も彼らのそういった特性を理解して包摂していかねばならない、と解説した。
 
 

リモート授業ネイティブ世代を雇用し、教育し、評価査定するということ

 
そして5月。各社で新人教育が始まった、と思う間もなくゴールデンウィークに突入し、連休が明けた今、続きを教えるつもりが何人かいなくなっている事態が一定の割合で予想される。
 
筆者は2018年の小欄で、この時期は会社が「こいつは有望だぞ!」とか「彼は失敗だったかな」とか思っているいっぽうで彼らのほうも「なんだこの会社!」とか「ここに来て良かった」と会社を評価する、双方にとって難しい時期であることを指摘しておいた*3
 
あれから4年。この間コロナ禍をきっかけにリモートワークが普及したが*4、まさかリモート授業がデフォルトの世代が登場するとは思わなかった。各社は今、「リモート授業ネイティブ世代に仕事を教える」という初めての課題に直面して四苦八苦しているのではないだろうか。
 
課題は差し当たって二つあるだろう。
 
一つ、「就労環境をリモートにせざるを得ない」。→→リモート化できない職種を除き、基本的には働き方もリモートをデフォルトにしたほうが、彼らは働きやすいかもしれない*5。去年や一昨年のリモートワーク関連の話はまだ既存社員の働き方の文脈上にあったが、今年以降数年は新入社員の、というよりむしろ人材の募集段階からの話に転じる。「うちはリモートワークメインですよ」とか「地方在住者も採用しますよ」と謳えない企業はハンデになるということだ。なお、この課題には「人材育成もリモートでやらざるを得ない」という課題が付随する。
 
二つ、「戦略人材と業務人材を区別することが求められる」。→→社運を左右するような業務につける人材とその他の人材とをこれまで以上に峻別して扱わないといけなくなるだろう。これは一つめの課題からの必然でもある。
 
今はまだ基準が曖昧なままだが、リモートがデフォルトになれば時間当たり生産性がこれまで以上に定量化・数値化される。「定量判断以外に基準を設けようがない」という実際的な側面と、「この機会に定量判断以外捨象してしまおう」という打算の側面の両方に合致するからだ。両側面からふるいにかけられてなお残る人材は、「リモート教育でも育つぐらい素性が良く」、「定量評価の恒常的プレッシャーに耐えるメンタルを持ち」、「やる気もパフォーマンスもセルフケアできる」人材であるだろう。なお、最初の条件の“素性”には自主学習の習慣および能力があることが含まれる。
 
一瞥して感じる通り、これはもうほとんど「経営者」の謂いだ。将来経営者になっていくような人材を普段の管理であぶり出せるようになれば業務人材のまま戦略人材の扱いを受けるラッキーの目はなくなる。雇用する側もされる側も「彼は(自分は)戦略人材タイプか業務人材タイプか」を真面目に考えたほうがお互いにとって良いということである。
 
 

リカレント教育と副業・兼業

 
誤解のないよう付け加えると、ここでのタイプ分けは決定論的なそれではない。「充分に流動化した労働市場*6」と「ジョブディスクリプションに基づくジョブ型雇用及び就労の一般化*7」を前提とする、戦略人材と業務人材を各人が各時期の適性や事情に応じて行ったり来たりできる形のタイプ分けである。
 
ここに至り、さらに二つの必然的なりゆきが見えてくる。
 
一つはリカレント教育だ。人生100年時代を迎え、本邦の雇用は昨年春から「70歳定年制」に向けてシフトした。2022年現在、「希望すれば全員が70歳まで働ける形を整備すること」が法的に全企業の〈努力義務〉になっている。また、2025年春からは、「希望すれば全員が65歳まで働ける形を整備すること」が同じく全企業の〈義務〉になる*8
 
普通に考えて、今から10年後かそこらには「希望すれば全員が70歳まで~」が〈義務〉に格上げされることは既定路線だろう。そうなってくると、労働者一人の生涯キャリアを一社でまかなう(雇用しきる)ことも、戦略人材として処遇し続けることも、実質不可能(不採算)になってくる。リカレント教育を経た職種間移動が一般化し、かつ、キャリアの最後は戦略人材から業務人材へ退くこと――それに伴い処遇も下がること――も当たり前にならないと、おそらく企業社会が立ち行かない*9
 
もう一つは副業・兼業の一般化である。これは「ジョブ型雇用や定量的評価査定により社内労働市場における自身の価値が画然とした結果」としてそうなる面と、「戦略人材適性の自覚と職種移動によるスキルの広範化の結果」としてそうなる面の両方から作用するだろう。前者を外在的・消極的作用、後者を内在的・積極的作用と呼んで対比することもできそうだ。
 
そしてこの両者の間で、週休三日制や残業規制や金銭解決ルール付き解雇の自由化等々といったミニマムなトピックが、都度注目を浴びる。リモート授業ネイティブ世代の就労観が今後これらのトピックをどう揺さぶるかについても、引き続き見ていきたい。
 
 
 
*1 今週の「ざっくり知っておきたいIT業界データ」(ASCII.jp 2022年04月04日)
*2 コロナ禍で失われた2年間―ゆとり世代、ロスジェネ、若者にとっては取り返しのつかない2年だった!?
*3 「タイプ分析」で終わらないために ~採用後の人材育成についての一考察~(2018.4.4)
*4 コロナ禍によって、ではないことについては一昨年3月の小欄「リモートワークのこれから~新型コロナウイルスが第一波。第二波は?~」を参照されたい。
*5 このことをめぐっては斎藤環氏の論考「人は人と出会うべきなのか」(note2020年5月30日)が示唆に富む。教育する側は氏の言う「臨場性の暴力」への耐性がリモート授業ネイティブ世代は低い可能性を考慮する必要があるだろう。
*6 この点については山崎元氏の論考――「岸田首相に教えたい「労働者の賃金を上げる方法」物価高でも今の日本には円高より円安がいい」(東洋経済オンライン2022/04/09)も参照されたい。
*7 この点については2018年8月の小欄「続・働き方改革でいかに働くか~労働市場の再構築を~」も参照されたい。
*8 この件に関しては昨年4月の小欄「70歳就業法に関するアーカイブ~論の起点としての施行前夜の記録~」も参照されたい。
*9 この点に関しては注8でも引用した名古屋商科大学経営大学院教授・植田統氏の「「70歳定年」で30~40代の昇進が絶望的な理由 年功序列の「日本株式会社」は変われないのか」も参考になる。
 
(ライター 筒井秀礼)
(2022.5.11)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事