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商流ファイナンスへの期待
~中小企業、金融機関が共に成長できる時代へ~

 
 
 では、金融機関側にとって情報収集と分析、融資先への提案といった負担ばかりが増していくのかというと、決してそうではない。
 たとえば、企業にとって受発注段階での資金ニーズは高い。金融機関にとっても受発注段階で融資を行うことは、取り引きの早い段階で顧客を獲得できるチャンスだ。いっぽうで、この時点での融資は不良債権発生のリスクが高いというジレンマがある。しかし、情報化の進んだ現代、その取り引きに関わる企業の経営状態や取引内容をネットワーク上でモニタリングし、不良債権発生のリスクを抑えることが可能になった。つまり、金融機関は新規融資のチャンスを拡大することができ、企業は必要なタイミングで融資を受けられるという、企業と金融機関が共に成長していける環境は整っているのだ。
 
 融資を受ける企業側も、内部留保に頼る資金繰りを脱却し、きめこまやかな融資を受けられる環境へとシフトすることで、守りの経営姿勢から、成長・発展を目指して攻める経営姿勢へと変わることができる。
 
 

◆未来の商流ファイナンスを担う「でんさいネット」

 
 IT化が進んだ現代だからこそ成立するサービスとして、2013年2月には「電子記録債券」がスタートした。電子債権記録機関の記録原簿に電子記録を行うことで、その効力が発生する仕組みのため、手形の作成や交付等に印紙代をはじめとするコストがかからず、取引の安全性も保たれる。登録者数は平成25年末で30万社を超えた。
 
 「でんさい」は、分割しての譲渡・割引を行うことが可能であり、資金繰りに悩む中小企業には強い味方となり得る。また従来の手形と似た割引や譲渡もでき、でんさいを担保とするABLも登場している。
 
 

◆中小企業のIT化を金融機関との連携で実現する

 
 平成24年9月、独立行政法人情報処理推進機構と日本商工会議所が発表した「中小企業等のIT活用に関する実態調査」では、中小企業のIT活用は自社内、あるいは本社・支社・拠点間での活用にとどまりがちで、取引先・販売先との関係においてIT化が進んでいないことが示されている。しかし自社内で会計・労務・税務などの手続きを円滑化するためのIT化だけではなく、対外的な電子商取引を導入し、でんさいネットを利用して業務を効率化・簡素化することは、中小企業の経営者や社員が本来の業務に向かい合う時間と力を増加させると共に、資金繰りの向上という効果をもたらしてくれる。
 
 また、同調査によるとIT化をさらに進展するために中小企業側が望むことのなかで、特に要望が多かったのは、「IT購入資金が確保できること(38.2%)」「売上増などの攻めの効果が確認できること(41.7%)」、その他にもIT化に関する知識が得られる研修等の機会の増加、社外で相談できる人の確保などがある。ここに、IT化資金の融資などの金融機関のビジネスチャンスが潜んではいないだろうか。
 
 中小企業側は金融機関に自社の実態を知られることを嫌う場合がある。電子商取引の活用によって、企業の経営情報を金融機関側に知られることへの恐れがあるかもしれない。しかし、土地や建物など担保とできる資産が少なく、内部留保の額も少額な個人・小規模企業ほど、金融機関に情報開示を行い、資金が必要となるタイミングを積極的に知らせ、きめ細かな融資を受けていくことで、経営基盤を強化できるのだ。
 
 
 1970年代に巻き起こった情報化の波は現代へと波及し、IT化の促進により、きめ細やかな商流ファイナンスを実現できる環境を生み出した。企業と金融機関の双方が手を携えて成長するための手段として、商流ファイナンスがますます普及・発展していくことに期待したい。
 
 
(ライター 河野陽炎)
 
 
 
 

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