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◆大変です、誰も靴を履いていません!

 
 2020年、東京で56年ぶりとなる夏季オリンピックが開かれる。五輪開催に向け、東京都は今年2014年度から本格的に予算を計上、国や民間でも五輪の準備を始める機関や企業が一気に増加するものと見られる。2014年はまさに、五輪経済元年といえる。
 
 大きな期待を集めているかに思える東京五輪だが、経済界の見方には冷めたものが多い。大手調査機関やシンクタンクの経済効果試算も大きく分かれ、最大では大和証券の150兆円などという景気のいい数字が見られるものの、全体のトーンは 「控え目」 にとどまる。
 試算の分かれ目は明らかだ。競技場の整備など 「直接効果」 については計算しやすいため、ほぼブレはない。いっぽう、波及効果が中心となる 「付帯効果」 は、心理的な盛り上がりや今後の工夫によっても大きく変わってくるため、希望的にとらえるか、悲観的にとらえるか、さじ加減で兆単位のブレが出てくるのだ。
 
 この状況は、ビジネスの現場でしばしば使われる寓話 「誰も靴を履いていない国にやってきた営業マン」 の話になぞらえられそうだ。つまり、経済界ではまだ 「大変です、誰も靴なんて履いていません!」 と叫んでいる人が多いが、「大チャンスです! まだ誰も靴を持っていません!」 と考えられれば、東京五輪が持つ利用価値の大きさに気付くことができる。
 
 

◆過小評価されている五輪の経済効果

 
 東京五輪はその名の通り、東京都内で開かれる。全長約3000kmにおよぶ日本列島の限られた地域で行われるものであり、地方には 「関係ないこと」 との冷めたムードも漂う。帝国データバンクが昨年10月に栃木県内の企業を対象に行った調査でも、「プラスの影響がある」 との回答34.2%を 「影響はない」 とする回答44.7%が上回った。高度成長期のまっただ中にあった56年前と異なり、すでに世界経済の上位に位置する今、経済的な期待感が高揚しないのは、ある意味当然のことかもしれない。
 
 だが、世界の関心が集まる五輪の経済効果は、今でも決して小さなものではない。東京都の試算によると、競技施設や宿泊施設などの設備建設、運営費用、観客の消費、新たなテレビや関連グッズ購入などの家庭の消費といった新規需要は、1.2兆円と見込まれている。さらにこういった需要を満たすために生まれる 「生産誘致効果」 は2.9兆円とされる。強気の試算を発表しているみずほ総合研究所の数字も、こういった 「直接効果」 については他機関とほぼ変わらない。「確実な数字」 として3兆円規模の効果が期待できるイベントは希少だ。
 
 また、各国の過去のデータをひもとくと、海外からの観光客が増加する効果は、五輪開催後も長期にわたり持続することが見て取れる。スペイン(バルセロナ・1992年)、オーストラリア(シドニー・2000年)、ギリシャ(アテネ・2004年)、中国(北京・2008年)、英国(ロンドン・2012年)は、いずれも開催決定後、あるいは開催後、長期にわたって観光客数の大幅かつ持続的な増加が見られている。
 
 

◆無限に拡大できる付帯効果

 
 観光客数の増加は、五輪開催のイメージアップ効果により生まれるものだ。近代的で安全という都市機能の情報に加え、「楽しそう」「はつらつとしている」 といった、五輪ムードが醸し出す魅力が、観光客予備群の心をとらえる効果は大きい。
 
 景気もまさにそんな 「気」 により動く部分が意外に大きく、スポーツの盛り上がりが経済を押し上げる例は少なくない。プロ野球で人気球団の読売ジャイアンツや阪神タイガースの優勝した年は日銀短観が大きく改善するが、それ以外のチームが優勝した年では悪化する、との分析もある。
 
 競技場の建設など、すでに大枠が決まっている動きの直接効果に比べ、付帯効果はこういった 「心理的な盛り上がり」 をはらむことで大きく変動する。官民の取り組みによって効果が極大化すれば、“はだしの東京五輪経済” に靴を履かせることが可能なのだ。そのためには、官が五輪向けの予算を本格的に組み始める今年度から、6年間をかけて盛り上がるための魅力的な企画を立てることが鍵となる。 
 
 
 

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