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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
「若い頃は、撮影現場で勝手にイライラしてしまうことがあった」と語る渡辺さん。だが、年を経て仕事に対する向き合い方にも変化が出てきたという渡辺さんに、詳しく話をうかがった。
 

“良い加減”を模索する

 
この仕事をしていると、天才的な才能を持った人に出会うことがあるんです。それは監督だったり、スタッフだったり共演者だったりします。そういった人と一緒に仕事をすると、次に新しい現場で撮影が始まったときに「あの監督だったらこういう風にしてくれたのに」と落差を感じてしまうことがあったんですよ。勝手に比べて、ないものねだりをしていたんです。
 
自分の至らなさに気付いたのは数年経ってからです。勝手にイライラしていただけで、良いことは一つもなかったと気付きました。与えられた環境で、自分のできる最大限を提供することが大事なんですよね。そのうえで気を付けているのが、周囲に気を遣わせないこと。よく「黙っていると怖い」と言われてしまうんですよ。
 
最近は、現場で最年長となることも増えてきました。その中で、「いっけいさん不機嫌じゃないだろうか?」と気を遣わせないようにしないといけないなと思っています。例えば、僕が立っているだけで椅子を持って来てくれるスタッフもいるんですよ。「座りたかったら自分で椅子のところまで行くよ!」と思うんですが(笑)。そういった気遣いを断るときは、必ずジョークを挟むようにしています。ただ断るだけだと怖いかもしれないですからね。
 
60代に入り、これからも年を重ねる中でそうした試行錯誤は増えていくんだろうなと思います。僕は、今後も長く仕事を続けていきたい。「いつ死んでもいい」というロックな生き方に憧れはあるものの、そういう人間ではなかったようです。だから、“良い加減”で仕事を続けていきたいと思っています。
 
投げやりな“いい加減”ではなく、“良い加減”を模索していきたいんです。例えば、昔は本番で100%納得できる演技ができないと気が済みませんでした。監督がOKと言っても、自分の中で80%だと感じたら「もう一回やらせてください」と言ってしまうこともあったんです。でも、今は「70%の力を出せたら良いよね」と思っていますし、監督がOKと言ったらOKなんだと納得しています。
 
そういう心持ちで取り組んでみると、気がとても楽になりました。緊張で力が入ってしまうことも減った気がします。ときには、より自然な演技になっていることもあるかもしれません。今後は“期待しない”をテーマに、自分の良い加減を探していきたいですね。
 
 
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori/ヘアメイク 園部タミ子/スタイリスト 部坂尚吾(江東衣裳))
スーツ 42万3500円
チーフ 1万1000円(ともにTHE CLOAKROOM/THE CLOAKROOM TOKYO 03-6263-9976)
タイ 3万6300円(ISAIA/ISAIA Napoli 東京ミッドタウン 03-6447-0624)
時計 165万円(VACHERON CONSTANTIN Vintage/Private Eyes 03-3940-0707)
シューシャイン 2000円(千葉スペシャル/千葉スペシャル 丸の内店)
 
 
渡辺いっけい(わたなべ いっけい)
1962年生まれ 愛知県出身
 
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1983年、劇団☆新感線に参加。1985年からは状況劇場にて経験を積んだ。1992年、NHKの連続テレビ小説『ひらり』にて人気を博し、以降、映画やドラマ、舞台など場を問わず活躍している。7月6日からTHEATER MILANO-Zaにて上演される舞台『泣くロミオと怒るジュリエット2025』ではローレンス役にて出演予定。

舞台『泣くロミオと怒るジュリエット2025』
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_romeo_juliet.html
 
 
 
(取材:2025年3月)