B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
「ローレンスは全然立派じゃないのでやりやすい」と笑いながら語ってくれた渡辺さん。さまざまな作品を経験する中で、“偉くない人”を演じるときは気楽だと気付いたのだと言う。
 

観客の期待に真摯に応えたい

 
シェイクスピアによって描かれているロレンス神父は、フランクな性格ではあるものの、とても立派な人です。でも、鄭さんのアレンジしたローレンスは全然立派じゃない(笑)。僕は勝手に、黒澤明監督の映画『醉いどれ天使』で志村喬さんが演じた下町の医者役をイメージしています。初演で段田さんが着ていた汚れた衣裳を見て、そのイメージが湧きました。
 
そういった役のほうがやりやすいなと感じています。時代劇でも、お城に通うような偉いお侍さんではなく、下町で暮らす役のほうが気楽ですね。会社員の役、刑事の役などさまざまな役柄を経験してきましたが、組織のトップよりも部下のほうが演じていて気持ちを汲み取りやすいです。
 
今回のローレンスも、気負うことなく楽しんで演じたいですね。初演はコロナ禍の時期で、大阪公演は中止され、東京公演もすべてはできなかったと聞いています。だから、初演のチケットを買っていたのに観られなかった方が、今回観にいらっしゃるかもしれません。当時観られなかった悔しさが当然あるでしょうし、その方たちの期待値は相当高いのでは? と思います。
 
僕は初演のメンバーではないけれど、そういった期待に応えられるよう稽古を重ねていきたい。非常におもしろい作品なのでぜひ多くの方に観ていただきたいですね。柄本時生君や八嶋智人君が女性を演じているのも見どころの一つです。良い男優が女性を演じるとこんなにも魅力的なのかと驚きます。八嶋君なんて、本当に“おばちゃん”そのもの。時生君は完全なヒロイン。泣き虫ロミオ役の桐山照史君の繊細な愛情表現は、きっと観ている人の心を鷲掴みにするでしょう。必見の舞台です。
 
 
映画やドラマなどでも活躍しつつ、長年舞台作品への出演を続けている渡辺さん。「体が資本だから無理のない範囲で頑張っている」と話す渡辺さんに、仕事への取り組み方をお聞きした。
 

遊んでいる感覚を大切に

 
年齢とともに、体はどうしても衰えます。それを意識して鍛える人と、そうでない人では明確に差が出ますからね。舞台役者として活動したい以上は、どこかで踏ん張って体を鍛えておかないといけません。ただ、自分の性格はよくわかっています。そんなにたくさんは頑張れないんですよ。
 
だから無理のない範囲で、ちょっとだけ頑張るというスタンスで生活しています。ジムに通っていても、きついメニューだと三日坊主になってしまいそうなので、あえてゆるいメニューにするなど、自分の性格に合わせた工夫をしているんです。
 
そうして長年舞台活動を続けているのは、純粋に舞台に立つのが好きだからです。この気持ちは、小学校で学芸会をやっていた頃から変わりませんね。当時は役者になろうなんて夢にも思っていませんでした。でも、高校の文化祭のときに舞台袖からステージを見て「役者になったら毎日がこういう生活なんだな」と初めて役者を仕事として意識したんですよ。
 
そのときの感覚を変わらず持っているので、僕にとって舞台は、プロとして真摯に演じる場であるのと同時に楽しく遊ぶ場所でもあるんです。役者は、遊んでいる感覚を大事にしなければいけない仕事でもあります。だからこそ、ずっと続けられているのかもしれません。僕にとって、いかに楽しく仕事をするのかが重要なんですよ。
 
もちろん、ただ楽しむだけではダメです。仕事を続けるには、役を与えてもらわないといけません。配役を考えたときに、頭の中で選択肢として渡辺いっけいが浮かび続けてもらうために、しっかりと取り組んでいかなければいけないと思っています。
 
若い頃は、「こういった役はやりたくない」などの考えがあったような気がします。でも、今は何事もやってみなければわからないし、おもしろくなるかどうかは自分のコンディション次第なんじゃないかと思っているんです。どの作品にもおもしろくなる可能性があるし、その逆の可能性もあります。最近は、それがどうなるかは自分次第だと考えるようになってきました。