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企業が取り組む「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第6回 地方自治体のBCP(業務継続計画)も遅れている

 
 

自治体には
「SCP (Society Continuity Plan=社会継続計画)」 の考え方が必要だ

 
 災害が起きた時、知事あるいは県として重要なことは、どれだけ正確な情報を素早く集められるかだという。状況を把握するためには、各市町村から状況を報告させようとするのが一般的だが、そういう手法は災害の現場にとって大きな迷惑となる。救援で手一杯で、わざわざ電話をしたり書類などを作っている暇はないからだ。泉田知事は、災害が発生したら県の職員が現場に出かけていき、情報を集めることを決めていたという。
 復旧においても、阪神・淡路大震災の教訓から 「地元企業優先」 を打ち出した。阪神・淡路では復興に6兆円が投じられたが、それらの工事を受注したのはほとんどが県外の大企業だった。もともと神戸経済の器がそれほど大きくなかったことから、地元に大型案件を引き受けられる力を持った企業が少なかったのだ。
 新潟県では、復興資金が地元企業の支援、地元経済の再生につながることが重要と考えて、工事の発注は地元の企業を優先するようにしたという。
 復旧の支援も、地元の大手企業を優先した。中越地震の時には、小千谷市にある三洋電機の子会社である従業員2000人の三洋半導体製造の工場の事業再開を積極的に支援した。中越沖地震の時には、ピストンリングメーカーのリケン柏崎工場に、住民より先に水やガスを供給した。ガスはLPガスしか調達できなかったので、都市ガスに変換する装置を集めて提供したという。地元住民が多く勤めるこれらの工場の雇用がなくなってしまったら、地元は壊滅的な打撃を受けると考えたからだ。
 どんな事態が起きても、産官学の協力で地域社会全体が生き残る体制づくりが必要だ・・・・ こうした考え方から、泉田知事は、BCPというより 「SCP」(Society Continuity Plan=社会継続計画) という考え方が必要だと提唱しており、大いに頷ける。
 
 

自治体の危機管理対策もトップの決断で

 
 企業の場合、災害からの復旧が遅れれば基幹業務の停止に追い込まれ、取引先や顧客を失ったり、事業からの撤退を余儀なくされる恐れもある。BCPを策定する場合は、どのような外的脅威に対して、どの分野の、どのレベルまでの事業継続を確保するか、企業によって異なる。災害復旧レベルも各企業が自身で決定し、対応しなければならない。
 それに対し自治体は、BCPの取り組みが多少遅れたからといって存亡の危機に陥ることはない。「災害発生時には、HPや問い合わせ電話が不通になっても仕方がない」 と思って対策の必要性を考えない職員もいるだろう。BCPへの関心・意識が低いのも当然かもしれない。しかし、自治体でも急速にIT化が進み、いざというときに住民からのアクセスが殺到しその対応が必要となるいま、対応以前のガイドラインであり、業務継続の生命線となるBCPの策定は、自治体の運営に必要不可欠であることは間違いない。
 企業のBCPは、業種や規模などの違いで固有のものになりがちだが、基幹業務に共通部分が多い自治体にとっては、総務省のガイドラインに従えば、とりあえずの策定は可能かもしれない。とはいえ、システムを入れればお終いというわけにはいかない。企業に限らず、危機管理対策はトップが決断して導入をはかるものである。災害発生時にどんなサービスや業務の継続性を確保して対策に当たるのか、地域住民の生命、生活・財産をどう守るのかという観点から、トップが率先してBCPを策定し、新潟県のように、地元の実情に合った固有の対策を実施していってもらいたいものだ。
 
 
 
 
 

 プロフィール 

古俣愼吾 Shingo Komata

ジャーナリスト

 経 歴 

1945年、中国生まれ。新潟市出身。中央大学法学部卒業。広告代理店勤務の後フリーライターに転身。週刊誌、月刊誌等で事件、エンターテインメントものを取材・執筆。2000年頃からビジネス誌、IT関連雑誌等でビジネス関連、IT関連の記事を執筆。2006年から企業の事業継続計画(BCP)のテーマに取り組んでいる。

 
 
 

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