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企業が取り組むべき「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第2回 なぜ進まない? 中小企業へのBCP導入

 
 
 まず、経営トップの危機管理意識が低いということについて。かつて、日本には 「水と安全はタダ」 という言葉があった。これまで企業の日常の業務の中では、あまりリスクに遭遇する機会が少なく、リスク対策を行いにくい土壌があったことは確かである。
 BCP発祥の国イギリスは、長年アイルランド紛争や爆弾テロの危険性に悩まされてきた。2005年にもロンドンで大規模な爆弾テロがあったばかりで、大企業だけでなく、中小企業や街の商店にもBCPに対する意識が広まっている。自らイギリスでBCP関連のビジネスに関わり、イギリスの事情に詳しいニュートンコンサルティング(株)社長の副島一也氏も、日本人の危機管理意識の低さを指摘する一人だ。
 
 「ロンドンでは、危険物があるということでいきなり地下鉄が封鎖されるといったことは日常茶飯事です。シティのお客様のところに行くと、このビルに爆破予告があったという話もよく耳にしました。自分をどうやって守るかという意味で、危機管理意識が非常に高い。とくに金融機関に対してはFSA(英国金融庁)の厳しい規制があり、定期的にBCPの監査も行われます。中小の企業でも、金融機関は必ずバックオフィスを持ち、いざというときには、社員の3~4割が移動して業務が続けられるスペースを確保しています。日本でもバックオフィスを持つ企業はありますが、たいていはシステムのバックアップだけで、従業員が代替業務を行えるスペースはほとんど持っていないというのが現状です」
 
 

「景気が悪いから」 との理由を前に
BCPの必要性が説得力を殺がれているが・・・・・・

 
 日本では、企業を脅かすもっとも重大なリスクは地震だと認識されている。ところが、その地震にしても、経営者は、100年に1回しか起こらない、起きたら起きたで仕方がないと考えている。起きるかどうかわからないものにカネはかけられない、そんなものに投資をするなら、もっと利益が期待できるものにまわした方がいいと考えている。これでは、いくら担当部署の長がBCPの必要性を叫んでも、経営者の頭の中でBCPの優先順位が上がることはないだろう。100年に1回の地震なら会社がつぶれても仕方がないと考えているかもしれないが、それによって影響を受けるステークホルダーはたまったものではない。
 欧米ではここ10年、BCPは結果的に利益を生むという認識のもとで経営戦略の中に取り込み、多額の投資を行ってきた。しかし、日本では危機意識が薄い上にBCPが利益を生むという認識が育っていない。経営トップは、BCPを導入することが自分たちを守り、結果的に利益につながるのだという認識に立って、戦略的な位置づけを考えてほしい。それには、BCPに1億円の投資をしたら、災害時に50億円の損害が出るところを5億円の被害ですますことができたといった具体的な事例を示すことが必要だろう。前回述べた、「9.11」のメリルリンチや、新潟中越地震の教訓などをよく検証してもらいたいものだ。
 しかし、何と言っても、BCPの導入が進まないもっとも大きな理由は、リーマンショック以降の金融危機と景気低迷の影響であろう。いまの経済状況では本来の業務が最優先。事業の立て直しや資金の調達など、目の前の状況解決で手いっぱいの状態だ。コストの抑制でBCPへの投資はほとんどカットされ、経営課題の中では一番低いところに位置づけられている。森氏は、本来ならば、2009年が日本のBCP元年になるはずだったという。
 
 「ここ数年、BCPに対する関心が高まり、BCPへ投資しようという企業も増えてきました。しかし、2008年にJ-SOX対応が法令化されたので、まずJ-SOX、その後にBCPの策定を予定していた企業が多かったのです。J-SOXの対応が終わり、予算が確保できたのでどのように始めたらいいかといった具体的な問い合わせが来るようになり、いざBCPというときに金融危機が発生し、無期限に延期される結果になってしまったのです。」
 
 今のような経済状態では、どのようにBCPの必要性を叫ぼうと、「景気が悪いので」という言葉に一蹴されてしまう。しかし、日本に圧倒的に多く存在する中小企業は大企業に比べて経営体質が脆弱なのだから、リスクを回避し、リスクに遭遇しても被害を最小限にする仕組みを身につけておくべきだ。初期投資は少なくていいから、まず、できるところから手をつける。そして、徐々にステップアップしていくことが大事なのではないだろうか。
 
 
 
 

 プロフィール 

古俣愼吾 Shingo Komata

ジャーナリスト

 経 歴 

1945年、中国生まれ。新潟市出身。中央大学法学部卒業。広告代理店勤務の後フリーライターに転身。週刊誌、月刊誌等で事件、エンターテインメントものを取材・執筆。2000年頃からビジネス誌、IT関連雑誌等でビジネス関連、IT関連の記事を執筆。2006年から企業の事業継続計画(BCP)のテーマに取り組んでいる。

 
 

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