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 ビジネスを行うにあたって、「人材」 という必要不可欠の要素があります。戦国武将の武田信玄が人材を 「人は城、人は石垣」 と称したように、優秀な人材の確保や、密接なコミュニケーションが、ビジネス成功の大前提です。特に海外では、言葉の問題をカバーするためや現地の情報などを把握するために、現地の人間の雇用や協力を必要とします。この時に彼らと日本方式で接してしまうと、後々手痛いしっぺ返しを食らう羽目になります。今回はオーストラリアで事業を展開するときの人事に関わる事柄について書いてみます。
 
 

求人・採用はオーストラリア式に

 
 最近日本でも 「年齢や性別などで雇用を判断してはいけない」 という法律が定められたようですが、オーストラリアは私がこの地に足を踏み入れた当時から、同じことが厳しく定められています。こちらではHR(ヒューマンリソース) と呼ばれる人事担当者が、候補者からの履歴書受け取りから面接、採用までの一切の業務を担当しています。日本も同様に人事担当者がいますが、大きな違いは、こちらでは大学、大学院等でHRを専攻し、人事法に精通していないと、人事担当者になれない点です。
 オーストラリアは移民で国が成り立っているので、表向きは肌の色や文化で差別をしていけないことになっています(実際には多々ありますけど)。面接時の対応で差別だと騒ぎ立て、最悪訴訟を起こす人たちもいます。そのためHRは、常にコロコロ方針が変わるオーストラリアの法律を常にアップデートしており、人事法という分野に関しては、弁護士と同様に法のエキスパートだと言えます。
 もっとも、型通りすべての企業にHRが常駐しているわけではありません。10人未満の中小企業は、大抵は代表や総務の人間が代行して面接を行っています。日本からオーストラリアに進出する企業も当面はこのスタイルを用いることになるでしょう。
 ただ、たとえば面接時に 「結婚しているのか」 「結婚したら仕事を辞めるのか」 「恋人はいるのか」 などなど、日本では話の流れで聞いてしまう質問はタブーです。こちらでは、それらは業務を行ううえで何ら関係のないプライベートな事柄になり、質問自体が法に触れることになります。また求人の募集条項でも、性別、年齢、それに国籍などの選別を明記してしまうと、これも法に触れる材料になります。
 「人事のエキスパートであるHRと同様の知識を持たなくてはいけない」 と述べるつもりはありませんが、最低限、会社を守るために現地の人事法を把握する必要はあるでしょう。
 
 

現地で良い人材を得たければ

 
 オーストラリアは被雇用者を守る法律が明確に定められているので、最低賃金が日本人の我々が考えているよりも高く設定されています。個人的には 「たいした仕事もしないのに、貰いすぎじゃないか」 と思わないわけでもありませんが、給与が上がらないと社会全体で金回りが悪くなり、日本のようなデフレのスパイラルに陥ってしまうので、給与のベースアップはある程度必要だとは思います。
 人間は見知らぬ場所に初めて足を踏み込んだ際には、自分の経験や、生まれ育った環境をベースにして比較対照を行うことによって状況を理解しようとします。オーストラリアに日本から進出された方々は、オーストラリアの最低賃金を知り、日本と同様な業務内容にも関わらず、なぜ日本以上の給与を支払わなくてはならないのか、疑問に思われることでしょう。それは仕方がないことですが、オーストラリアにはオーストラリアのルールがあり、市場の相場も存在します。それにも関わらず、現地企業並みの給与を提示しない日系企業が多く、残念なことに日系企業はこちらでは、「給与があまり良くないので働きたくない」 と敬遠する人が多いのも現状です。
 また、日本から2年ないし4年のスパンで派遣される駐在員の方々が現地法人の主要ポストを占めるので、現地採用の人間の将来的なポジションが限られてしまって就労意欲を失う場合もあり、従業員が離職する大きな理由のひとつにもなっています。
 
 

勤労意欲にも南北格差?

 
 みんながみんなではありませんが、全般的にオーストラリア人は日本人に比べ、勤労意欲がかなり低いと言えます。
 たとえば、出社時間が9時に定められていたとします。もし朝9時に商談が入っていた場合には、我々日本人は9時に商談が開始できるように、その前に出社し、商談に備えて準備をしますが、オーストラリア人はいつも通り9時に出社してきます。とうてい商談の準備ができていない状態で臨むことになりますが、来社する側もオンタイムに到着しない場合が多いので、ある意味これはこれで成り立っているのかもしれません。
 「会社は生活費を稼ぐ場」 と割り切っているオーストラリア人は、「残業をしてでも仕事を終わらせる」 意欲は少なく、「17時にはすでに社内にはいない」 なんてこともざらにあります。オーストラリアは基本的に祝日が日本ほど多くはありませんが、金、土、日と3連休になる時もあります。その3連休後の週明けは、風邪と称した病欠者が急増したりもします。
 また、こちらの人間は休暇を権利として考えているので、会社の事情などとは関係なく休暇を取ります。仕事を引き継いだり担当を決めたりといった不在中の準備を行なっていない人も多いので、仕事が複雑に絡み合ってしまい、混乱を極めたり、休暇を取った人間が戻るまでその仕事自体がストップすることもあります。
 
 これらは日本人の我々からすれば、「言語道断、仕事をナメている」 以外のなにものでもない行動に思えますが、これがオーストラリアの常識であり、文化なので、この部分で日本的な勤勉さを求めようとしても、彼らも容易に受け入れません。最悪は、気がつくと授業員が居なくなってしまう状況にもなりかねません。最終的に困るのは経営者自身です。
 
 
 
 日本人と異なる文化を持つオーストラリア人との共存はどのようにすれば良いのか。次回はその対策について書き進めていこうと思います。
 
 
 
  南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第16回 現地の雇用慣行を受け入れる
 

 執筆者プロフィール  

永井政光 Masamitsu Nagai

NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント

 経 歴 

高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。

 オフィシャルホームページ  

http://www.nmaust.com/

 ブログ  

http://ameblo.jp/nm-australia/

 
 
 
 
 

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