B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

値上げで再生、日本経済
~「高貴な値上げ」を妙手とせよ~

 

◆「いい値上げ」を超える「高貴な値上げ」

 
 「いい値上げ」であれば、クレバーな消費者にも受け入れてもらえるが、企業の中にはそれを超える「高貴な値上げ」とも呼ぶべきプライスアップを行う動きも見られるようになってきた。
 代表的な例が段ボール大手のレンゴーだ。段ボール製造のコストは主な原材料である古紙の価格や補助原材料であるコーンスターチ(糊として使用)の価格、原油価格などが大半を占める。アベノミクスの影響によりこういった原材料コストが急増したため、同社では2013年10月、「一定の品質を保つために必須」として値上げを敢行した。
 
 外的な状況が変化する中、企業努力で吸収できる範囲には限りがある。無理に価格を維持すれば製品の品質に影響が出るとの判断によるものだ。ただ、値上げを自社のコスト増ととらえる取引先には受け入れてもらえず、当初は販売量が下落。2013年3月期には129億円あった連結純利益が2014年3月期には37億円にまで落ち込んだ。
 
 それでもレンゴーは、段ボールでは国内市場でシェア28%(2013年)を占める最大手として決断に踏み切った。落ち込みを引き起こした値上げについても、「先陣を切って値上げを行うことはトップ企業としてのノブレス・オブリージョ(高貴な義務)」と位置づける。
 
 その後、同社では取引先と粘り強く交渉を重ね、値上げに対する理解を得て売上を回復。2016年3月期の決算では連結純利益が前期比75%増の100億円になるとの見通しを発表している。
 
 

◆日本再生は「高貴な値上げ」を合い言葉に

 
 アベノミクスによる好景気がうたわれる中、多くの家庭にとって値上げのニュースは依然として歓迎されざる話題である。その最大の理由は円安などの経済的恩恵が一部企業にとどまっており、商品や部材を納入する川下の企業には波及していないためだ。人の身体にたとえるなら、体幹は少し温まったものの血流が滞っているため手足の先は冷え切ったままの状態――慢性的な冷え性に苦しむ状態である。末端まで温めるには「血液=お金」を循環させねばならないが、そのためには産業の川下にいる企業が値上げを断行することで本来の健全な利益率を回復する必要がある。
 
 ただ値上げに対する否定的な空気がコンセンサスとなっている日本の経済界では、断行するには勇気と一定期間の販売減に耐えうる「体力」が要る。川下産業にも存在するレンゴーのような大手が「高貴な値上げ」を進めてくれれば、中小企業は後に続きやすい。
 
 各業界のトップ企業はぜひ、値上げを検討する際には「ノブレス・オブリージョ」という考え方を意識の中において、プライスアップの先陣を切ることの意義を見つめ直して欲しい。その積み重ねが、日本経済の冷え性につながっていく。各社が個としての利益を求めるべしとする資本主義のファンダメンタルな前提にはない全体主義的な考え方だが、業界全体、ひいては日本の経済界全体を俯瞰して一種のCSR(企業の社会的責任)の一環ととらえれば、記者会見でも堂々と胸を張れるはずだ。
 
 ものの値段が上がるインフレ下では、「今買わなければ、後にはもっと値上がりしてしまう」という心理から購買意欲が高まり、経済が好循環する。ただしそれは「今買う」ためのお金を多くの人が手にしていることが前提だ。その前提をつくるためには、川下産業のトップ企業が取引先に値上げを告げる勇気を持つことが不可欠である。
 
 
(ライター 谷垣吉彦)
 
 
 
 

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事