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空き家対策特別措置法が変えるもの
~地方拠点強化税制との相乗効果に期待~

 

◆空き家を相続する? 放棄する? それとも活用する?

 
 これを後押しするように、相続人が空き家を相続する場合の負担が軽くなる動きもある。相続税法は平成25年の税法改正で大幅に制度が変更されたが、実際には平成26年と平成27年の2年に分けて、2項目ずつ改正された。この中で「親が老人ホームに入居していたため、親の自宅が空き家である」というケースでも、以前は小規模宅地等の課税特例が受けられなかったが、改正により特例が受けられることに変更された。
 
 また、手持ちの不動産を賃貸して収益を生み出す「大家業」に乗り出すサラリーマン大家も増えている。アパートやマンションを建築するには億単位の融資を受ける必要があり、経営の成否が立地条件に左右される部分も多いが、いっぽうで戸建賃貸経営を考えるならば、1棟の住宅を1000万円台で建築することもできる。アパート、マンションに比べて戸建賃貸は立地条件に左右されずに入居者を集められ、ファミリー層が主な入居者である場合が多いため、定着率が高いなどのメリットもある。戸建て賃貸経営には、今後ますます注目が集まるだろう。
 
 

◆空き家問題の解決をビジネスチャンスに

 
 政府が「空き家の活用」を後押しする流れの中で、早くも空き家の活用をビジネスチャンスととらえ、税理士業界や不動産業界が動き出している。
 家賃収入は「不労所得」では決してなく、大家として成功するには、物件そのものの管理、設備投資、空室率をできるだけ低く保つこと、節税など様々な努力を行わなければならない。法人を設立し、管理委託・サブリースなどを行えば節税ができると言われるが、経営者の立場になったことがないサラリーマン大家には法人設立のハードルが高い場合もある。1つには、これらの点のコンサルティング業務を引き受ける税理士事務所が増えているのだ。
 
 また不動産業界においては、2014年11月、三井住友トラスト不動産、ALSOK、積水ハウスの3社が、共同での空き家活用提案事業をスタートさせたことを発表。三井住友トラスト不動産が空き家所有者の相談窓口となり、必要に応じて綜合警備保障会社であるALSOKの空き家管理サービス、積水ハウスの空き家活用サポートを紹介する。
 一般社団法人移住・住みかえ支援機構Japan Trans-housing Institute(JTI)は、機構が認めた外部の耐久・耐震性基準を満たし、長期にわたるメンテナンス体制を備えた新築住宅を、「かせるストック」(正式名称:移住・住みかえ支援適合住宅)として認定する制度を設けている。
 
 大家業がスタートすると、入居者の管理、物件の管理、納税管理、事業承継などあらゆる場面で不動産管理会社や税理士事務所との関係が続くことになる。業界側から見れば、早期に大家との信頼関係をつくり上げることで、今目の前にある契約だけでなく、将来のビジネスチャンスも手に入れられる可能性が高い。
 
 

◆政府はなぜ「空き家の活用」を重視するのか?

 
 内閣官房は「地域再生法の一部を改正する法律案」を発表し、平成27年度税制改正大綱においても、地方にある企業の地方での本社機能の拡充、あるいは東京から地方へ移転する企業などを応援するための制度を実施するとしている。趣旨としては「人口の東京への過度な集中を是正するためには、地方の企業において雇用の場を確保し、人材を定着させることが必要。」とある。
 
 ただし、「税制改正により税金が安くなる」という理由のみでは、企業が地方に移転するメリットは多くない。企業がその地域に移転し、収益を上げられる環境が必要だ。小売業、サービス業等、その地域で顧客となる人がいてこそ収益が上がる業種や、製造業、建築業など、その地域で働く人材がいてこそ運営できる業種も多い。企業のみを地方に移転させるのではなく、地方の人口を増加させることが急務なのだ。
 実際に厚生労働省は地域雇用開発促進法に基づき、人材の地方移動支援を推し進めており、UIJターンなどにより地方で働くことを希望する人のために東京都・大阪府のハローワークに「地方就職支援コーナー」を設けるなどの取り組みも行っている。
 
 地方へ移住したい人々にとっては、その地域で働く場があることに加えて、住まいが確保できること、さらに地域のコミュニティに溶け込むことができることも重要な問題となる。空き家が移住希望者の住まいとして利用されるだけでなく、地方自治体等が空き家をコミュニティサロンとして、新規入居者と古くからの住民の交流の場として活用する動きもある。
 
 今は単なる空き家として放置されている物件が、適切なケアにより住空間、コミュニティスペースに生まれ変わり、地方の活性化に一役も二役も買う日が近づいているのだ。
 
 
 

(ライター 河野陽炎)

 
 
 
 

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