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少子化時代の教育産業とは
~受験シーズンに考えるニーズの変化~

 
 

◆多様化する学びの場に必要な支援とは?

 
 文部科学省は、高等学校教育改革の取組として「中高一貫教育校、総合学科、単位制高校など、特色ある学校・学科等の設置促進」を掲げてきた。統計によると、高等学校等の数は平成2年の5518校をピークとして徐々に減少し、平成22年には5116校となった。しかし、単位制高校、中高一貫教育校など特色ある学校の数は増加し、通信制高校も生徒数が増えている。
 
 学校で学ぶと学費の負担が生じる。文科省「学校基本調査」によると公立通信制高校で学ぶ20歳から29歳の生徒の割合は30%以上を占めるが、私立通信制高校では15歳から19歳の割合が90%近く、20代の生徒は6%に過ぎない。何らかの事情で「20代になってから学びたい」という思いがある人は、10代の生徒と違って児童手当の支給はなく、所得税法上の特定扶養親族に該当しなくなる人もいる。そのため、学費の高い私立通信制高校に改めて入学することは、家庭としての経済的負担が重くなるのだ。ところで、前項で触れた「教育資金の一括贈与」が非課税となる条件には、「受贈者が30歳未満」とある。祖父母からの一括贈与が行われることで、私立通信制高校に入学する生徒は増えるだろう。
 
 また2014年10月、下村文部科学大臣はフリースクールへの支援を検討することを発表し、11月24日には文部科学省主催の「全国フリースクール等フォーラム」が開催された。フリースクールの運営は現在、生徒の親が納める授業料等で賄われており、国からフリースクールへの経済的支援が行われることにより、生徒の家庭の経済的負担が軽減される。先述した「人生の三大支出」の一つの負担が軽くなれば、アベノミクスが掲げる消費の拡大にも少なからず寄与するだろう。
 
 

◆高認出願者データから読み取るニーズ

 
 さらに、高等学校卒業程度認定試験(略称:高認、旧:大検)は、全日制高校に在学している生徒も校長の許可を得て受験することが可能となった。病気等で出席日数が足りず単位を取得できなかった生徒も、高認合格と在学中の高校で取得した単位を併せて高校卒業ができるようになったのだ。「大検を受験するなら退学」「受験しないなら留年」という選択肢しかなかった時代と比べ、家庭の経済的負担は軽くなり、生徒にとっての選択肢も広がったと言える。
 
 文部科学省は、高認試験を「様々な理由で、高等学校を卒業できなかった者等の学習成果を適切に評価し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験」としている。実際に「最終学歴別出願状況」によると、平成26年度には「高校中退」が49.5%と一番高い割合を占めている。(平成16年度、最後の「大検」として行われた年の「高校中退」の割合は56.1%と、さらに高かった。)全日制高校に在学したまま出願する人は毎年2000人から3000人程度を維持している。「中学校卒業」の出願者が全体に占める割合は平成17年度に10.5%だったが、平成21年度に11.6%、平成26年度は13.0%と上昇しており、外国における9年の課程を修了した人を含む「その他」も1000人から1500人程度を推移していることから、様々な事情を抱える出願者に、高認試験が活用されていることがわかる。
 
 私立学校と並ぶ教育産業の最右翼である塾や予備校は、子供や家庭の様々なニーズに応じた教育を打ち出すことで、生徒数の減少を食い止めようとしている。たとえば大手受験予備校として知られる「駿台予備校」は小学生から現役高校生・高卒生までを対象とした個別教育センターを設けるとともに、「駿台国際教育センター」にて帰国子女を対象とする教育サービスを行っている。「河合塾」も、「河合塾コスモコース」という高卒認定試験に合格したうえで大学受験を目指す生徒のためのコースや帰国子女向けのコースを設け、幅広い層の生徒を獲得しようとしている。
 
 

◆少子化時代に切り開く教育産業の未来とは

 
 人間に教育が与えられることの意味は、古くはヘレン・ケラーとサリバン先生の物語で、最近では『ブレイキング・ナイト ホームレスだった私がハーバードに入るまで』(CCCメディアハウス)、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)でも取り上げられている。教育格差を固定する要素に甘んじず、行政の施策や教育産業の変化をうまく捉えて教育を受けることで、子供はより多くの可能性の中から、自分の未来を選択できるようになるのだ。
 
 「学ぶ」ことに貪欲になれる子供たちは、学生生活を終え社会人となってからも、飽くなき知識欲に突き動かされるだろう。そのような子供たちが、やがて親の経済力に頼るだけではなく、自力で費用を賄ってでも学ぶ、という行動に出る時期が来る。また、自分自身が学びに貪欲な人ほど、子や孫に対して教育を与えることを重要と考えるだろう。教育産業界は「今、学ぶ意欲を持つ子供を数多く育てる」ことが、彼らの子や孫の代に新たなニーズを生み出すのだという長期的な展望を持つべき時期なのだ。
 
 

(ライター 河野陽炎)

 
 
 

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