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4K、リニアは何するものぞ?
~涸れ井戸でビジネスをしないために~

 
 
 他方、現在世界のテレビ出荷台数の8割以上を占める中国では、4Kでなければ売れないという状況下、徹底的な安値攻勢が始まっている。同国の新進メーカーXiaomi(シャオミ)が50型の4Kテレビを6万5000円程度で販売し始めており、一気呵成に値崩れする様相は明らかだ。価格の叩き合いになれば、日本のメーカーは韓国や中国の安値攻勢には勝てない。
 
 そもそも経済成長戦略の一つに4Kテレビを選んだこと自体に間違いがあったという見方もある。リビングで使う家電は、社会のニーズに寄り添うべきものだ。「もっとこんなふうに、快適に便利に暮らしたい」という希望を実現するために存在するが、家電メーカーにも国にもその視点が欠落している。それゆえ、「新しいテレビを出したら売れた」という過去の成功体験にしがみついて、水の出なくなった涸れ井戸をさらに掘ることしかできなくなっているのではないだろうか。
 
 

◆リニアには社会を変える可能性

 
 いっぽうのリニア新幹線は、テレビとは存在意義が違う技術だ。こちらには社会を変える可能性が大きく含まれているためである。前述した通り、リニアが実現されれば、東京-名古屋、東京-大阪の所要時間は半分以下に短縮される。そのわりに、運賃は現行の新幹線に比べ、それぞれ700円、1000円程度高くなるだけだという。「時間給」として換算してみれば、大半のビジネスマンにとって、非常にメリットの大きい交通機関と言える。
 
 また、このリニア新幹線が成功すれば、いずれ日本中にリニア網が広がる可能性も高い。それにより諸都市を緊密に結ぶことができれば、地方と首都圏の役割分担が進み、新たな不動産需要も喚起される。品川駅や名古屋駅などは大深度地下に駅がつくられるため、地上に出るのに時間をロスするという試算もあるが、こういった問題は高速エレベーターを多数設置するなど、技術とインフラで解決できる。
 
 

◆寄り添う技術と社会を変える技術

 
 ともに先進的な技術を実現した4Kテレビとリニア新幹線だが、展望の明暗を分けているのは、技術の持つ性格にある。すなわち消費者に寄り添う技術と、消費者を先導して社会を変える技術の違いである。
 
 「寄り添い型」の技術はこれまでの暮らしに一段上の利便性や快適性を与えることが目的であるため、マイナス面に対する消費者の許容度が低い。デメリットを徹底的に廃した、人に優しいインターフェイスが求められる。直近に失敗した3Dテレビは、「専用の眼鏡をかける必要がある」という煩わしさが、普及に際して大きな妨げとなった。開発した技術者は、「そのくらいは我慢できるはず」と考えたのかもしれないが、だとしたらインターフェイスの重要性を読み違えている。
 
 インターフェイスを重視する発想からは、新たな方向性も見えてくる。たとえばテレビであれば、iPhoneにおける「Siri」のような音声認識を搭載してみたらどうだろう? 「大河ドラマを録っておいて」と語りかけるだけで、間違いなく実行してくれるテレビは、高齢者にとってどれほどありがたい存在か。「VHSの録画機なら操作できたが、高性能のハードディスクに変わって以来、使えなくなった」という声は多い。ついでに、ビッグデータ解析をもとに「○○もおもしろいですよ」と、その人に合う番組を勧めるなどすれば、テレビ視聴に対する需要が増し、テレビというアイテムそのものへのニーズが高まるはずだ。
 
 いっぽう、社会を変える「先導型」技術の場合には、インターフェイスについて、そこまで高い配慮は求められない。益の大きいものであれば、少々の難があっても、人は自ら工夫して利用するためだ。むしろより速く、より効率的に、といったプラスの積み重ねが魅力を生み、人を惹きつける。
 
 新しい技術の開発は理系の仕事だが、作り手は往々にして不要な技術があることを認めたがらない。結果、ニーズのないものを世に出すこともある。その罠を避けるには、開発の方向を示す文系の役割が非常に重要である。理系重視が喧伝されているが、技術開発における文系の仕事も再確認されるべきではなかろうか。
 
 
(ライター 谷垣吉彦) 
 
 
 
 
 
 

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