◆徳島県の大自然の中に佇む
「世界一美しいコンビニ」とは
徳島県那賀町木頭地区。西日本で二番目に高い山である剣山の南麓に位置するこの地域は、別名「四国のチベット」とも呼ばれ、豊かな自然と人が共生しています。この木頭地区の最西端、居住人口が200人ほどの北川集落に、地域初となるコンビニが誕生したのは2020年4月のこと。その名も「未来コンビニ」です。
道路に面した壁一面はガラス張り、特産である「木頭ゆず」の柚子畑を彷彿とさせる鮮やかな黄色のトラス構造など、開けた空や深い緑の中でひと際目を引くスタイリッシュな外観は、デザインコンセプトの一つである「世界一美しいコンビニ」そのもの。しかし、この未来コンビニが注目を集めているのは、見た目の美しさだけではありません。
各地の山間部同様に木頭地区は限界集落化し、特に、商店がなく最寄りのスーパーまでも車で約1時間かかるなど、買い物難民も多かった北川集落。そうした中、木頭の創生を目指す企業・KITO DESIGN HOLDINGSによる、文化の力で地域を再興するプロジェクト「KITO DESIGN PROJECT」のハブとして、未来コンビニは誕生しました。買い物環境の改善や、地元の子どもたちの交流の場――さまざまな役割を担った未来コンビニを起点とした、その取り組みに注目してみましょう。
◆地域の人の暮らしを支え
子どもたちの未来を育む
未来コンビニには、前述の「世界一美しいコンビニ」を含め、「未来を担う子どもたちのために」「地元のひとの笑顔のために」という、3つのコンセプトがあります。木頭で生まれ育った子どもたちが、多様な文化や人生に触れて刺激を受けることで、未来を紡ぐ人へと育ってほしい。木頭の暮らしに寄り添い支えることで、地域の人々に多くの笑顔を生み出してほしい。そうした思いから、未来コンビニでは地域を盛り上げるための、さまざまな取り組みが行われています。
未来コンビニでは、日用品や食品などの従来のコンビニ然とした商品の販売に加え、イベントとして全国各地の名産品や木頭の農家との協力による「木頭マルシェ」を実施し、新鮮な野菜の販売を行ったことも。公共交通機関が少なく、車に乗れない高齢者も多い中、週3日ほどの移動販売などで日々の最低限の買い物を賄っていた地域の人々の買い物環境は、未来コンビニの誕生により大きく改善しました。また、店内奥に設けたカフェスペースに自然と人が立ち寄るようになり、住民同士だけでなく、外部から訪れた旅行者などとの交流も増え、多くの笑顔が集う場所となっています。
店内には、棚を低めに設計するなど、子どもの目線を意識した工夫が。この設計は、高齢者も商品を手に取りやすいほか、開放感のある空間づくりにも一役買っているとのこと。誰にとっても優しく居心地のいい空間では、子どもたちが地域や将来について興味を深めるきっかけとなるような企画や展示が盛んな点も、未来コンビニの大きな魅力の一つです。
◆ここにしかない魅力を活かして
過疎地を“訪れるべき場所”へ
地域の人が育てたミントのおすそ分けがメニューに活かされるなど、地域の交流のハブとなっている未来コンビニ内のカフェ「YUZU CAFE」。名産の木頭ゆずの香りや風味をそのまま味わえる「木頭ゆずショット一番搾り」や、果汁を強めの炭酸で割った爽快な「ユズキンソン」をはじめとした、木頭らしさ満載のオリジナルメニューがそろっています。
また、木頭ゆずの生産加工販売を行う「黄金の村」による柚子サイダー、スイーツ、フレグランスソープなど、お土産にぴったりな商品もラインナップ。未来コンビニは、地元の人はもちろんのこと、木頭以外の人にも開かれた、訪れる人と地域を結ぶ場所となっているのです。
木頭を盛り上げるために集まったさまざまな経歴を持つスタッフと、地元の人たちが一丸となり、地域の新たな在り方を発信し続ける未来コンビニ。過疎化の進む僻地に、「世界一美しいコンビニ」が誕生したことで、通り道にすぎなかった場所は、“わざわざ訪れるべき場所”へと生まれ変わりました。建築としての審美性に加えて「地域のストーリー性」「サステナビリティ」が高い評価を得ており、2021年8月には世界三大デザイン賞を含む国際的なデザインアワードで賞を受賞し、名実ともに「世界一美しいコンビニ」になりつつあります。未来コンビニは各地の過疎化や高齢化が進む地域を再興する新たなモデルとして、今後も地域性を活かしながら、挑戦を続けることでしょう。どんな未来を切り拓いてくれるのか、未来コンビニの進化にこれからも目が離せません。
〒771-6512 徳島県那賀郡那賀町木頭北川いも志屋敷11-1
営業時間 8:00~19:00
定休日 木曜
https://mirai-cvs.jp/