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能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第3回 課題が山積する災害廃棄物の処理

ノウハウ 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第3回 課題が山積する災害廃棄物の処理 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
2024年1月1日に能登半島地震が発生。同地域で中小企業や個人事業主として会社を運営する経営者の中には、避難所で避難生活を送っている方もいるだろう。また、組織としてボランティア活動に乗り出している会社もあるかもしれない。そうした中、被災地ではどのような支援が必要で、被災者はどんな注意をするべきなのか。防災専門家で元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授の古本尚樹氏が、熊本地震や東日本大震災被災地・被災者調査を踏まえて留意点などを解説。3回目は災害関廃棄物について。
 
 

災害後には多様かつ大量のゴミが発生する

 
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能登半島地震において各避難所で衛生環境が悪化している。その原因の一つが災害を契機として、ゴミの処理ができなくなることだ。実際、避難所でもペットボトルなどが溜まっている現状がある。これまでの災害事例でも、災害ゴミ(災害廃棄物)の処理における課題が発生していた。
 
災害を契機として、多様なゴミが発生する。家庭ゴミから、家具や家電、建築資材のコンクリートや柱、瓦など。また医療材料も多く廃棄され、可燃と不燃が混在した状態で量と種類が劇的に増加するのだ。その一方で、地元の処理施設自体が被災で稼働しなかったり、職員自身も被災して出勤できなかったりするなど、需要と供給が極端に不均衡になる。関連して、仮設トイレなどの、し尿処理も衛生状態を維持するには重要なので、この点も加味されてくる。
 
文末の参考資料(1)によれば、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災での災害廃棄物量は、総計約1980万tで、2004年(平成16)の新潟県中越地震では、49万4979tになっている。また、阪神・淡路大震災での災害廃棄物の内訳は同資料のとおりである。2011年(平成23年)の東日本大震災では、災害廃棄物処理に要する費用を、全額国庫負担することを決めた。宮城県、岩手県および福島県での災害廃棄物の発生量について、その推計値が発表されている。これによると、3県での発生量の合計は約2490万tに達し、阪神・淡路大震災の時の発生量の約1.7倍に相当する。
 
 

後回しになりがちな災害ゴミ処理対応

 
当然ながら、被災地地元で災害ゴミすべてを処理することは不可能であり、近隣自治体などの協力が不可欠である。このように、災害ゴミに関する課題は大きいのだが、この対応については“後回し”感が毎回の災害で感じられる。
 
例えば、まず災害ゴミの仮置き場を設定しなくてはならないが、その設置が後回しになることがほとんどである。というのも災害発災初期は、避難所等での被災者支援で、物資や寝る場所の提供がまず主軸にあるため、仮置き場を事前に協定等準備し、用意して速やかに活用できるようにしている自治体は多くない。仮設住宅の場所を確保することでも苦慮する自治体が多い中で、仮置き場のことまで配慮した事前の対策は難しいのが実態だ。また、事前に想定して押さえておいた用地が地震により使用不可になるケースもあり、大きな影響を及ぼすこともある。
 
望ましいのは、仮設住宅や災害ゴミ仮置き場を設置する場所について、地権者と事前に協定を結んでおくことだ。さらに、地権者が変わったり、地権者の意向が変わったりする可能性もあるので、これを定期的にアップデートすることも重要になる。こうした対応をあらかじめしたうえで、近隣自治体等の協力で、災害ゴミの処理をするわけだが、被災地を超えた広域での処理が必要だ。特に震度7クラスの地震や西日本豪雨のような大規模風水害などのケースがそれに該当する。理由は、近隣自治体自体が被災の影響を受けていていることが多く、処理能力が低下している可能性があるからだ。
 
 

海路利用の必要性・家庭ゴミや被災車両の処理について

 
また、パッカー車やバキュームカーなどの車両が被災地に入る際、道路の破断により、スムーズな走行に影響が出る。東日本大震災では、北は札幌市から南は那覇市まで災害ゴミ処理支援を申し出ていたが、これらの地へ災害ゴミを運ぶには、海路利用が積極的に進められていた。資料(2)を見ると、例えば仙台から北九州市への可燃ゴミを7ヶ月間にわたり、約2万2500t輸送しているという。制度上や輸送船へ運ぶのに必要なトラックやダンプカーの運転手不足などの課題もあるが、大量輸送と広域輸送が可能な海路活用は今後、弾力的に行われるべきだろう。
 
一方で、各家庭での災害復旧に関して、破損した災害ゴミの搬出には、ボランティアの活動が不可欠である。ボランティアによる各家庭のゴミ処理の活動においては、やはり優先されるべきは要配慮者、すなわち高齢者や障がい者等の弱者層である。今回の能登半島地震においてもここへのケアが復旧作業の重要な部分になるだろう。
 
そのほか、大規模災害後の自動車等被災車両の処理については能登半島地震でも大量に発生するだろう。この処理義務は各自治体にあるのだが、内容を把握している自治体は多くないはずだ。資料(3)では、東日本大震災での事例を挙げている。これによると約7万台の被災自動車が発生し、そのうち、損傷が激しく番号がわからない(所有者不明)被災自動車=番号不明被災自動車は約1.3万台発生した。
 
所有者の確認等も必要になり、これについては煩雑な作業が伴うため後回しになることが多く、結果として多くの被災車両が放置される形になっている。一定期間の保管が必要な場合もあり、被災自治体の負担は大きいだろう。関係団体のサポートが必要でもあるが、この分野は、法改正を含め、簡素化したものにすべきではないか。
 
被災者の安否確認自体が困難になっている中、被災車両の所有者を全部把握しようとする作業は、復興自体を遅らすことになっていないか。被災自治体では、被災者支援を中心に多様な用務が課されるわけで、より速やかな復興と自治体職員負荷軽減を考慮した改善が求められよう。
 
(1)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2011pdf/20110501065.pdf
東日本大震災における災害廃棄物の概況と課題
~未曾有の災害廃棄物への取組~ 金子 和裕
(2)
https://www.env.go.jp/content/900536348.pdf
東日本大震災における災害廃棄物の船舶輸送の経験と課題
外山幸平
(3)
http://kouikishori.env.go.jp/action/d_waste_net/pdf/symposium_190122_lecture_03.pdf
大規模災害における
被災自動車の処理に係る自治体支援
(公財)自動車リサイクルセンター
 
能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が解説
第3回 課題が山積する災害廃棄物の処理
(2024.3.6)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

防災専門家
元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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