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能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第4回 仮設住宅における生活と健康の注意点

ノウハウ 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 第4回 仮設住宅における生活と健康の注意点 能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が諸注意を解説 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
2024年1月1日に能登半島地震が発生。同地域で中小企業や個人事業主として会社を運営する経営者の中には、避難所で避難生活を送っている方もいるだろう。また、組織としてボランティア活動に乗り出している会社もあるかもしれない。そうした中、被災地ではどのような支援が必要で、被災者はどんな注意をするべきなのか。防災専門家で元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授の古本尚樹氏が、熊本地震や東日本大震災被災地・被災者調査を踏まえて留意点などを解説。4回目は仮設住宅における生活と健康の注意点。
 
 

仮設住宅居住者は不安を抱えて暮らしている

 
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著者は、これまで東日本大震災では多賀城市、大槌町、熊本地震では西原村において、各中長期的な視点で、仮設住宅の被災者、高齢者の生活、健康について調査(量的・質的)、研究をしてきた。そのため、実際に入居した際の困りごとや、その後の長きにわたる生活で起きることも把握してきたので、今回は災害関連死や孤独死を防ぐ一考になるような解説をしたい。
 
筆者は過去に「熊本地震被災住民における健康と生活について~被災地での調査から~古本尚樹. 地震ジャーナル67pp.30-37.2019」を発表した。そこから熊本地震で被災した西原村被災者の不安等についての調査を引用(被災直前と被災から1年後の健康について意識調査)すると、多くの被災者が仮設住宅などに居住していたが、地震前と仮設住宅に移動してからの健康状態を比較すると、「普通」と感じる人が約3割弱減少している。
 
また、全体の3割以上が「強く不安を感じる」と答え、具体的な心配事として「住環境の整備と関連したローンをどうするか」について等、不安を抱いている被災者が多かった。また、ボランティアからの支援に対して「満足」は約半数に上り、ボランティアによる支援貢献度における高さがうかがえる。炊き出しや催し事、がれきの撤去など行政では届きにくい多様な支援にボランティアが、大きな役割を果たしており、今後もその活動は重要になるだろう。
 
一方、仮設住宅に居住する被災者の、居住空間と健康のことについても提示したい。西原村は元来、農業中心の地域で大きめの住宅に多くの家族が住んでいるケースが多かった。そうした人々が被災したために規定サイズの仮設住宅へ入居後、体重が増加し、成人病の兆候が見て取れる事例があった。背景には、コンパクトな仮設住宅の中で、室内で移動することが少なく、“運動量”が減っていることが指摘された。
 
先述のように被災者は、将来への不安を抱いて仮設住宅に入居してくる。その中には、さまざまな階層の人々がいる。そのため課題も個々人によって異なるから、それぞれの思いに寄り添いつつ、官民が連携・分業をしながら、漏れのない支援をすることが重要である。
 
 

メンタルケアも重要

 
筆者は先の発表とは別に「東日本大震災被災住民の生活について 多賀城市仮設住宅住民への聞き取り調査から.古本尚樹.日本プライマリ・ケア連合学会誌vol.37no.4,pp.353-359.2014」において、多賀城市の大規模仮設住宅に居住する方(高齢者が中心)に質的調査を行っている。
 
これによると、実際に入居してからの課題としては、「車いすでの移動ができないので、スロープやアスファルトの整備をしてほしい」「夜間照明が少ないので、増設してほしい」「仮設住宅内のカビがひどくなってくる」という指摘があった。
 
一方で、こうした調査や各種イベントに“協力する”または“顔を出す”被災者とそうではない被災者の分化が著しく、集会所へ来る被災者が固定化されている課題が表面化した。普段から“顔が見れる”被災者は、生活や健康面で把握しやすいが、“顔の見えない”被災者は実態が把握できず、“孤立死”の原因になりかねない。安否に関して自治体職員や仮設住宅を取りまとめる役員らが、巡回してポストに郵便などがたまっていないかを見て、安否を確認するなど、健康を害する予兆を把握することが重要だ。
 
具体的な兆候としては、喫煙量と飲酒機会が増えた人は要注意である。これは自力では止めにくいことで、周りの人が気を付ける必要がある。保健師等行政からの指導なども重要で、ある意味での“見守り”が必要な被災者に該当する。また、仮設住宅で暮らす間はストレスがかかりやすい時期でもあるので、そのメンタルケアも必要だ。ただでさえ被災の影響でふさぎ込むことが増えがちなうえ、仮設住宅という、新たな環境下におかれる生活の変化はメンタルに大きな影響を与えるからだ。
 
妊娠中や乳幼児のいる女性への配慮も必要である。妊娠中のサポートは仮設住宅の被災者同士における助け合いの動きが必要だし、並行して保健師や医療サービスとのつながりがより重要だ。産後鬱のような状態になることも多い。身近に親しい人が乏しいことが多いので、災害弱者層への支援は必要である。
 
気持ちが沈む、喜びや関心、意欲が失われる「抑うつ」や、発災以降の辛い記憶が感情や身体の反応を伴って蘇る「心的外傷後ストレス反応(PTSR)」などは、心身に起こりやすい反応で、多くの人が体験する。地震のストレスは心の健康だけでなく、血圧などの心血管系や免疫系など身体にも影響をもたらすので、そのような観点からもストレスへの対策を講じたい。
 
仮設住宅への入居は原則1年、最大でも2年の時限制である。ただし、最近の大規模災害ではその期限を超えて、入居する被災者が少なくない(例、東日本大震災)。長期で仮設住宅に残る人々は、経済的な理由や家族の支援などが少ない、要配慮者であることが多い。自力再建が可能な被災者は徐々に仮設住宅から退去して、いずれ仮設住宅コミュニティが空きの多くなる状態になりうる。
 
そうなるとコミュニティへの配慮は皆無に近くなるので、その時はさらに要注意の時期だ。各時期に合わせた行政とボランティア等民間、双方の支援が必要だし、被災から年数が経つと風化が進むので、忘れない気持ちでの対応が欠かせない。
 
 
参考文献
http://www.irides-pudh.med.tohoku.ac.jp/pdf/20181119_topic.pdf
知っておきたい避難所・仮設住宅などでの生活.
丸谷 浩明他
 
能登半島地震の発災を受けて、防災専門家が解説
第4回 仮設住宅における生活と健康の注意点
(2024.3.13)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

防災専門家
元熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム実践研究教育センター特任准教授

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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