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「2024年問題」で火が点いた引っ越し戦線(予約争奪戦)

 
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keikyoto / PIXTA
毎年3月は引っ越しシーズンです。今年も、街を歩くと、集合住宅の前に引っ越し業者が2tトラックを横づけして、学生バイト風の人が段ボール箱を荷台にせっせと運び込んだり、一際屈強なベテランふうの男性が養生テープを巻いた大型冷蔵庫を腰から持ち上げるようにして階段をゆっくり下りてきたり、している現場に出くわします。
 
プロレスファンならその姿に「バックドロップはへそで投げる」という鉄人ルー・テーズの名言を思い出すのでしょうが、重量物は確かに、腰を入れて腰椎と胸椎を固定してから大臀筋と大腿筋で持ち上げないと、あっという間に腰をいわします――というようなことも、いずれアシストスーツやフィジカルAIが末端の現場まで普及したら、先輩から後輩へ引き継がれなくなっていくのでしょうか。
 
ともあれ引っ越しです。進学や就職を機に都会へ出る人、キャリアの変化で地方に移る人、etc・・・。分散の掛け声はあれど、産も官も学も4月にいっせいに年度替わりを迎える日本では、引っ越し希望は3月~4月頭に集中します。国交省によると、この時期は通常月の約2倍*1。メディアによっては4.6倍という調査もあります。特に一昨年2024年は、運送業でも労働時間の上限規制法が施行されたことで、予約が完全に埋まって見積もりすら取れない「引っ越し難民」が続出しました。
 
あれから2年。予約争奪戦はさらに激化し、トラック燃料、養生テープや段ボールなど資材、それに人件費が値上がりしたことで、料金相場も高騰しています*2。もともと繁忙期は通常月より1.8~2倍ほど高いですから*3、今年の引っ越し戦線はどうなることやら。
 
 

引っ越しにトランクルームをからめる

 
この流れを受け、近年、トランクルームサービスを引っ越しにからめて利用する人が増えているようです。
 
屋内型トランクルーム最大手キュラーズ社の昨年6月の調べによれば、トランクルーム市場は2008年から16年連続で拡大し、2024年に約850億円。来年2027年には1037億円に達すると予測されています。店舗数は昨年時点で約1万5000店舗あり、ファミリーレストランの1万25店舗を上回っています*4
 
また、同じキュラーズ社の別の調査では、「引っ越し価格の高騰や予約困難を背景に、生活者の引っ越し行動は『一度に運ぶ』から『分けて運ぶ』へと変化」しており、「トランクルームを活用した分散・二段階引っ越しが、新たな選択肢として定着しつつある」と分析しています*5
 
分散・二段階引っ越しとは、転居先でたちまち必要な家具家財のみ引っ越し時に運んでもらい、当面必要ない家財に関しては、料金が高騰している繁忙期の間はトランクルームに預け、オフシーズンになって料金が落ち着いてからあらためて引っ越し業者に運んでもらう方式のこと。
 
関西テレビがキュラーズ社員に取材したところでは、大阪エリアの2月は前年比プラス20%以上の問合せがあるそうです。また、先の同社の調査では、「直近1年以内に東京都へ引っ越しをした人の約3割(29.3%)が分散・二段階引っ越しにトランクルームを利用」し、その6割以上(65.9%)が費用削減を実感したのだとか。
 
確かに、引っ越し料金は荷物の量と作業員の作業量によって変わりますから、月利用料いくらかで当面不要な家財品を丸ごとトランクルームに預ければ、本番で出してもらうトラックを小さくでき、作業員の作業量も減って、相当料金が下がるでしょう。同じ調査で「今春引っ越し予定者の8割以上(86.3%)が、トランクルームを活用した分散・二段階引っ越しの利用を検討中」とされているのも、納得です。
 
 

トランクルームサービスはサブスクサービス(?)

 
ただ、うがった見方をすれば――そしてこれは結構的を射ていると思うのですが――、当面不要な家財品を丸ごとトランクルームに預けるというのは、「とりあえず目の前の断捨離を忘れたい」という心理の表れでもあると思います。
 
ということは、「まぁ・・・いっか。月数千円だし」と思ってなんとな~く預けっぱなしになる人が、相当数いるのではないでしょうか。むしろ、そういう利用者のおかげでビジネスが成り立つという、全てのサブスクサービスに言えることが、トランクルームサービスについても言えると思います。つまり、フィットネス業界が冗談めかして言う、「契約だけしてジムに来ない会員が一番ありがたい」という、あれです。
 
そもそもの話、日頃から適当なタイミングで断捨離をする人、できる人は、引っ越しの際にトランクルームにぶち込むようなものは持たないのであって、続けて所有したい物も数千円×月数で考えて買い替えたほうが良ければ、転居先の街で新品を買います。
 
筆者は以前別記事で中古家電への愛について書いたことがありますが、この買い替えは損得勘定のそれではなく、責任を持って管理するという意味での、モノへの愛です。己の所有物を然るべく愛せない人が安易に外付けサービスを利用してもしょうがないと思います。
 
 

預けっぱなし、ダメ、ゼッタイ

 
もちろん、大半の利用者は実際に一時保管の要に迫られてトランクルームに預けているでしょう(例:オフシーズンのスキー用品)。ただ、それだって「もう、自分、スキーするかな・・・」と一瞬でも迷うくらいなら、買取に出すかフリマサイトで本当に欲しい人に買ってもらうほうが、いっそ正解かもしれません。
 
ちなみに、財務省の広報誌のコラム「リユース市場における消費者の価値観と企業行動」によると、日本ではリユース市場に出回らずに退蔵される不用品が、2022年時点ですでに年7.6兆円ぶん出ています。内訳は、ブランド品1.7兆円、ブランド品除く衣服・服飾品が約1.5兆円、書籍1.4兆円、日用品・生活雑貨1兆円、家具類0.6兆円です*6
 
そういえば断捨離とリユース市場の新潮流についても以前書いたのだった、と思い出しつつ、トランクルーム市場の右肩上がりの拡大を知った今、いったいどれほどの子たちが持ち主のもとから離されて暗い部屋で泣いているだろうと思うと、かわいそうになります。
 
業界からは「それ言わないでぇ~」と言われそうですが、引っ越しでも「預けっぱなし、ダメ、ゼッタイ」ですよ。
 
 
 
*1 引越時期の分散に御協力をお願いします! ~3月の引越件数は通常月の約2倍!混雑時期を外してスムーズな引越を~(令和6年2月12日)
*2 大型高層住宅(例:タワマン)の増加で業者にとって難易度が高い引っ越しが増えていることも、相場価格の高騰を促しているようです。駐車場からの動線が長く、必要な資材も時間も延びることを思えば、さもありなん。
*3 【2026年】引越し繁忙期の料金は高くなる!?引越し業界の最新動向を大調査(株式会社エイチーム「引越し侍」2026年2月18日)
*4 トランクルーム市場、16年連続成長で850億円規模に(プレスリリース 2025年6月12日)
*5 東京都転入者の約3人に1人がトランクルームを活用 分散・二段階引っ越しで6割以上が「安くなった」と実感(プレスリリース 2026年2月19日)
*6 『ファイナンス』2021年12月号40、41ページ
 
(ライター 横須賀次郎)
(2026.3.4)
 
 

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