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皆さまこんにゃちわ。大川です。
 
ナオトインティライミが苦手です。
 
さて、日本中の変わった人から相談が届くこの連載も今回で8回め。
 
本来は真っ当なビジネスについて質問が来るのをお待ちしていたんですが、
終身雇用制も崩れ、経営者も前年比くらいしか目指すもののなくなった昨今、
多くの人にとって大切な人生を費やすのに「ビジネス」というコンセプト自体が
もう古いのかもしれません。
 
とはいえあらゆる社長さんにとって企業経営というのは「乗りかかった船」であり、
需給バランスが崩れたからってなにもかもを放り出してドロンさせてもらえるはずも
なく、ふりかかる災厄をひらひらと避けて、火傷だらけの身体で地平線に立ちすくむ頃
になってやっと
 
「あぁ、あの人は立派だね」
 
と言われることもあるのでしょう。
 
そんな皆さまの孤独で清廉な日常を、いつも遠くからしっかりと支えていければ
これ以上ない幸せだよと、僕は心から思ってます。
 
それでは今月も、ひとつめの質問から。
 
 
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先生こんにちは。
 
機内食の工場で働いているヒロシと申します。
まいにち朝8時から原付で出勤して、だいたい1日1万食以上の機内食をみんなで
黙々と作っています。
 
最近ではいろんなコラボメニューなんかも次々と追加されまして、京都とか銀座の
有名な料亭が監修したというテイで作られる機内食なんかもたくさん導入されました。
 
その中の和食の前菜に海老があるんですが、その海老にゼリーのようなものを
 
ちゅっ
ちゅっ
 
と乗せているのが私です。
 
海老の形はまるいので、真ん中にできる空洞の部分に
 
ちゅっ
ちゅっ
 
と乗せていくのがポイントです。
 
 
さて、みなさんの職場もそうだと思いますが、工場というところは常にリスクと
隣合わせの戦場です。
 
異物の混入や食中毒の防止にも細心の注意が払われており、真っ白なユニフォームで
全身を覆った僕らは豪快なエアシャワーを浴びて工場に入り、それぞれの持ち場で
黙々と仕事をこなします。
 
僕らが詰めた機内食はブラストチラーと呼ばれる急速冷却器で一気に3℃まで
冷やされて、菌が繁殖する間もありません。
 
冷温に保たれた機内食は、表裏あわせて56食ずつが1台のカートに押し込まれ、
順番にガラガラと工場の外へと運びだされていきます。空港で飛行機に積まれたカートは
遠い空を飛んで空っぽになってまた戻ってくるんですが、なんというか、最近気づいたんですが、
こう、送り出す喜びも戻ってきた喜びも、まったく感じることがないんです。
 
仮にも作っているのは誰かの食事で、毎日数千人の方が食べてくれているはずなんですが、
その人が食べているときの顔も想像つかないし、喜怒哀楽一切の感情がわきません。
 
お肉が好きかな? とか、ニンジン苦手じゃないかな? とか、そういうことを考える間も
なく言われたとおりに部品を詰めて、次々とカートを送り出すだけです。
 
四角く囲われた無菌の機内食は、僕らの工場をそのまま小さく再現したような箱庭で、
コラボ料亭のひとには申し訳ないんですが、本当にこんなもん食べておいしいのだろうか
と考えてたら、とても悲しくなってくるんです。
 
そしてある日、僕はそんな状況に我慢ができなくなり、右手にグリーンピースを握りこんで
工場の隅にある炊飯レーンにこっそりジョインしました。
 
できあがった白米のアルミ箔を丁寧にまくりあげ、右手からひと粒ずつグリーンピースを
置いていき、食べてくれる人に何かのメッセージを書こうと思ったんです。機内食を作って
いる僕の反対側に、ちゃんと人間がいてくれることを確かめたくて。
 
ところがいざ何かを書こうとするとこれといってことばが思いつかないもので、こんなとき
に自分の個性のなさに情けなくなるんですが、結局あれこれ考えた結果、
 
「オイシイヨ」
 
とだけ書いてソソクサとその場を去りました。
 
今思えばとても大それたことをしてしまったとおもいます。なにしろ炊飯レーンの山本さん、
めっちゃ怒られてましたから。だけど僕は、山本さんがめっちゃ怒られたことによって、
自分のしごとがだれかとつながっていることがやっと確認できたんです。山本さんには悪いけど、
僕が作っているのは確かに誰かのためのお食事で、ちゃんと感情を持った人間が向こう側に
いてくれるんだと。だけど今回僕が引き出したのはお客さんの「怒り」の部分だけでして
「おいしい!」の部分には程遠いんだよなとも思います。これから先、お客さんを怒らせて
ばかりでは、きっと山本さんがもちません。どうやったら、お客さんに感謝されながら、
仕事の充実感を得ることができるんでしょう。
(ヒロシ 38歳)
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はい。

やらかした事は別として、とても良い気付きだと思います。

自分の仕事が誰かのためになっているという実感は、産業革命以前の働き方では当たり前に
得られた喜びであり、分業やマニュアル化が進むにつれて人々の手元からどんどん失われて
しまったもののひとつです。つまり、作っているものがなんであれ、あなたがそれに「分業」
で関わっている限り、あなたに対して「名指しの感謝」はありません。

その一方、東京タワーや日産GTRのように、チームとして壮大かつ崇高なプロジェクトに携わる
ことで、チームと同化した自らの自尊心が満たされるということもありまして、そういう
ケースを見ていると、必ずしも仕事の喜びは「個人が誉められること」だけじゃないんだよな。
とも見て取れます。

じゃあ、今回のケースはなぜ実感が得られないのか。毎日チームでせっせと食事をつくって
いるのに、なぜ喜びが得られないのか。それは「工夫の余地」がないからです。

有名料亭とのコラボにしても、海老のチュッチュにしても、決められた場所に決められた量を
のっけるという意味で、あなたの個性が入り込む余地がありません。

つまり、

「経験や個性に基づいて料理を任された人」
ではなく
「部品を持ち上げて別の場所に置く人」

になっていることが今回の違和感の正体であり、工夫を許されていない人々がたくさん集まって
チームになったとしても、一体感や達成感を仕事から得ることはできません。

白米の上にグリーンピースを並べるという行為は決して褒められたものではありませんが、その
豆ッセージこそが、あなたの心の叫びが沸点を超えた現象として真摯に捕らえ、この機会に毎日
工夫を続けられる自分だけの弁当をリヤカーに積んで、ぐいぐいと引っ張り回すほうがずっと
気分のいいことでしょう。

いつかあなたの弁当が記録的なヒット商品になり、結局大量生産に向かい、最終的に似たような工場の
ラインをつくることになってしまったとしても、あなたがひとりで始めて工夫を続けた数ヶ月間は、
人生において忘れることのない幸せな時間になることに間違いありません。1日も早く、豆の件が
山本さんにバレる前に、自分だけのフライトに飛び乗って、雲の切れ間を目指して軽やかな
テイクオフをしてください。
 

それでは次の質問。
 
 
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相撲部の高校生です。ハロウィンの渋谷で乳をもまれました。
(17歳 / 男)
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知らんわ!(°ω°)
 
 
 
 
 
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vol.8 機内食の工場で働いています
 

 執筆者プロフィール  

大川弘一 Koichi Okawa

経営コンサルタント/ポーカープレイヤー

 経 歴  

1970年8月生まれ。慶應義塾大学商学部中退後、酒販コンサルチェーンを経て独立。1997年にメルマガ配信事業の株式会社まぐまぐを設立し、現在までにユーザー数は1300万人超を数える。1999年には子会社でナスダックに上場。2013年に代表職を退き、経営コンサルタント業と並行して、ポーカープレイヤーとして世界各地を巡っている。

 フェイスブック 

https://www.facebook.com/daiokawa

 
(2014.11.19)
 
 
 
 

 

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