本の出版? なら、
20万字の覚悟ある?
  
  
 興味は、情報の格差から生まれる。
 つまり、僕が知っていて、あなたが知らないこと、そこの興味が強くてお金を払ってもいいかも? となったら、僕の書いた本を買う可能性がある、ってこと。
  
 だからね、
 たとえば出版社の編集者に会うことができたら、自分のこれまでのキャリアやノウハウに、どれだけのユニークな物語性があって、それを展開してこんな趣旨の本が出したいと表明しなければならない。
  キリッと言い切ったわりには当たり前の話か(笑)。
 そこに編集者として面白みと経済効果を感じたら、出版という大海原へ向けての帆が張られるんじゃないかな。現実はそんなにシンプルでもないけどね。
  
 僕の場合は、具体的に本の内容はしっかり決まってなかった。
ただ、企画書を書いて編集会議にかけたら
「永澤さんの本、出すことに決まりました」と連絡が来た。あまりにあっけなくて、
 ほ、ほんと?
  と、実は、最後の最後まで疑心暗鬼だったんだよね、ほんとに出版されるか。
 
  で、最初に言われたのが
 「とにかく書き始めてくれ。文字数は20万字!」
  。
 え?
 20??
 
 ???
 字????
 すごい数字だね、まったくピンとこない。
  僕は広告のコピーライターでもあるんだけど、新聞広告とかは600字ぐらい、雑誌広告は100字、テレビの15秒CMとなったらへたすると10文字ぐらいだもん。 
 
  スーパーに買い物に行く感覚で国家予算に取り組む、みたいな。下駄を履いたジャージ姿でジャマイカのボルトに挑戦する、みたいな。ティッシュで作った紙飛行機がNASAにケンカを売る、みたいな。なんだかわかんないけど、そんな感じだった。ピンとこない。
  
 もともと僕は、広告の仕事でも、ずっと内容を考えつづけて、作業は瞬発力でやっつけるタイプだったから、20万字、3日間ぐらいでサクッとやるか、と、ほんと舐めきっていて書き始めた。
  
 ごめんなさい。
 めいっぱい書いて400字詰めで3枚。
 で、泣けた。
途方に暮れた。
おかしい。調子がわるいのかな、また翌日、最大限のエネルギーで書いた。また3枚。
   ・・・・・・・・・どうしよう。
  先は長い、っつーか、長すぎる。存命中に仕上がるのか。存命中なのに未完確定?
立ち止まって考えたね。日常的に仕事もしてるしね。
  で、僕の本にも書いた内容だけど、僕の価値の棚卸しをした、謙虚に。
  僕は、広告屋の第一線でがんばってきた僕が持っている知見を、そのまま教科書的に書くのはイヤだった、デザイン的にもアイデアに溢れるカタチで本にしたかった。でなければ、書く意味がない。
  
 僕は、大きく2つに分けた。
 ひとつは、僕が持っているノウハウのジャンル分け。
 「アイデアの発想法」「会議室のやっつけ方」「コミュニケーションの視点と具体的な方法」「ブランドの価値構造」「商品開発」「クロスコミュニケーション」「プレゼンテーション」「セブン-イレブンのプレゼンからのCM完成までの実例」・・・などなど。
  
 そしてもうひとつは、先の内容をどんな風に表現すれば見た目にも楽しくて持っていたくなる本になるか。写真やグラフィックのアイデア、そしてショートストーリーを開発した。たとえば、文字を読んでいてページを開くと見開き全面が強烈なピンク色だけで、
 「ん? んん?」と次ページを開くとそのピンクの意図「オチ」だけが書いてある。ちょっとコンセプチュアルな仕掛け。
  
 さらに文字コンテというのが広告屋の方法論にはあって、絵コンテではなく、CMを文字だけで状況やセリフで表現する。その手法で、短い不思議な物語を読み進むと伝えたい真意がわかる、とかね。
  
 いろいろなやり口をとにかくいっぱい並べて、それぞれにある程度のページ数をかけ表現し書いていく。
 がんばったね。
塵も積もれば20万字だ。
  
 *
  
 ちょっと話は変わるけど、実際ね、
いまの時代は世の中をひとくくりにしては論じられない、大衆をひとつの価値で魅了して大量に売る、ということがとっくの昔に難しくなっているじゃない。個の集合がマスであり、ちいさなグループの集合がマスだもんね。大量消費もマス広告も、黄金時代のノスタルジーだもんね。
  
 だから、自分にできることを細かく整理して、それぞれを充実させて膨らませていく。
 そんなやり方にしたら、案外、ページが稼げた(笑)。
 少しずつ、20万字に近づいていった。
 でも、先はまだ長い。
 執筆大航海の旅は、まだ始まったばかりだ。
  
 
つづく。
  
  
  
 ▼今回のキーワード
 自分の価値って
 ちゃんと棚卸しすると
 道が見えてくる。  
  
  
  
   執筆者プロフィール 
 永澤仁 Hitoshi Nagasawa
 クリエイティブディレクター/run!run!! planning!!! 海の家 店主
  
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  経 歴  
 セブン-イレブン(忌野清志郎さんが歌うブランドの根幹を担う「近くて便利」コミュニーケーション)、バイク王(雨上がり決死隊バージョン)、キリン氷結(発売から6年間)、シチズン(広告&商品開発)など数々のクリエイティブを責任者として手がけ、そのすべてをジャンプアップさせた実績を持つ。競合プレゼンでは独創的なスタイルで3年半無敗を記録。受賞歴は国内外100以上。強い、正しい、面白い! 国も地域も企業も商品もお店も人も、めざすゆたかな高みへ。
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