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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
現役を退いて以降、さまざまな仕事に取り組んでいる高橋さん。走ることが仕事だった現役時代と比べて、アプローチの仕方に違いはあるのだろうか。
 

現役時代と変わらぬ姿勢で仕事に取り組む

 
現役の頃は日々、目標を設定してそれをクリアするべく一生懸命トレーニングに取り組み、目標の8割くらいを達成できたら、ある程度納得してその日を終えていました。そのように、毎日の練習に妥協せずに取り組み、少しずつステップをアップしてきたんです。現在の仕事への向き合い方も当時と同じで、自分の理想像を思い描きながら、それを具現化するために今日の自分ができることは何かを探して、仕事に臨んでいます。目標に向かって1日を積み重ねていくと、少しずつ向かうべき方向性が変わってきて、道筋が見えてくるような気がするんです。
 
ただ、今の仕事は競技とは勝手が違いますし、何をもって成功かというのが、はっきりしない部分もあります。キャスターの仕事も最初は、自分の思うように話すことができなくて、目標の2割にも達していないと落ち込むこともありました。それでも自分の理想とする形を目指して続けていく中で少しずつ、自分の言葉で伝えたいことを伝え、聞きたいことを聞くことができるようになってきたと思います。それでも、現役時代で実践していた達成目標の8割には届いていなくて、まだ大学生が就職活動しているようなレベルかもしれないですけどね(笑)。
 
 
目標を立て、それを達成するために全力を尽くす毎日の中で、苦境に立たされたときに高橋さんはどのように立ち向かっているのか。そこにも、現役時代に培った経験が活かされていた。
 

ポジティブ変換で気持ちを切り替える

 
現役時代には大変なことがたくさんありましたけど、そこはポジティブシンキングで乗り越えてこられたかなと思っていますし、現在も、その思考法を役立てています。現役時代にネガティブになりがちだったのは、ケガをしたときです。練習ができなくなってしまうと、ライバルと差がついてしまうから不安で、どうしようと焦ってしまうのに、走ることはできない。
 
現役時代は365日、いつも走っていたんです。日曜日でも必ず2時間くらいは走ると決めていて、休みなく延々と走り続けていました。でも、ケガをしてしまったらそれができない。そのときに、「神様が今は休め」と言っているんだと思うようにしたんです。そうやって気持ちを切り替えることで、「今は走れないけど、別の部分を鍛える時間なんだ」と前向きに捉えて、いつもよりも多めに腹筋をするなど、弱い部分を補える時間だと考えるようにしたんですね。
 
そうやってマイナスなことを前向きなことに変換する。これを私は“ポジティブ変換”と呼んでいて、これができるようになると、逆境にあっても後々その時間があったからこそ今があるんだと、後につながるチャンスだと思えるようになるんです。何かマイナスに感じることがあったときに、少し視野を広げて自分自身を客観視して、マイナスのことをポジティブに変換してみる。今の仕事でもこの、ポジティブ変換は大いに活用しています。
 
これができるようになったのにはきっかけがありました。それは1998年にタイのバンコクで行われたアジア競技大会のときです。場所がバンコクということもあって、競技の日は、気温が30度、湿度は90%以上になるだろうと言われていて、メディアの方からもその点についていろいろと聞かれて、不安になっていました。
 
でも、あるときに思ったんです。「当日の天候や気温なんてどうなるか誰にもわからない」というように。自分の力ではどうにもならないことを考えて不安になって、ネガティブな時間を過ごすよりも、腹筋を50回多くやったほうが力になるわけですよ。前向きな気持ちで時間の過ごし方を変えていくだけで、不安を乗り越える力になるんです。結果として、その大会では2時間21分47秒のアジア最高記録で金メダルを獲得できました。