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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
「負けたくない」というプライドが糧になっていたと話す裕三さんに、現在も同じ考えのもと仕事に取り組んでいるのか聞くと、「モチベーションの上げ方は変わってきた」と答えてくれた。
 

ステージに出たら絶対にウケる

 
僕らの仕事は、本番で化けないとダメだと思っています。例えば、「あの人楽屋ではあんなにボーっとしてたのに、本番になると人が変わったみたいだね」と言われるのが理想です。そうなるためのモチベーションは何でも良いと思っています。
 
以前は「バカにされたくない」という気持ちがモチベーションの一つになっていたけど、今は良いステージをやりたいという思いがモチベーションになっています。お客さんに喜んでもらいたいし、楽しんでもらいたいんです。それが僕の人生の役目だと思っていますね。「ステージに出たら絶対にウケる」というのが僕のテーマです。
 
よく、「自分にもコミックバンドができそうだ」という声を聞きます。でも、そんな簡単にできるものじゃないんですよ。自分の歌を聞いてほしいとか、ギターソロを聞いてほしいという気持ちがある人には絶対にできません。なぜなら、時としてイントロの時点でオチがついてしまうネタもできるからです。
 
ある楽曲をそれぞれメンバーがコピーして覚えてきて、いざネタを考えたときに、イントロでオチがついたとします。コミックバンドをやっている人なら、それに対して「やったー! おもしろいものができたぞ!」と思えなければいけません。「まだ歌ってもいないし、少し歌ってからにしよう」なんて考えるようでは、おもしろいものはつくれないんですよ。
 
だから、音楽に対して未練を持っている人はコミックバンドはやらないほうが良いですね。「今さら歌わなくていいよ」とか、「今さらギターソロなんていいよ」くらいの気構えがないとできないんじゃないかな。そうじゃないと、エンターテイナーにはなれないと思っています。ウケたもん勝ちですからね。
 
 
インタビュー中に何度も「ウケたもん勝ち」「ウケることが主軸にないと」と話してくれた裕三さん。「音楽に未練がある人はコミックバンドをやらないほうが良い」と話す裕三さんが、ウケたもん勝ちだと考えられるようになったのは、いつ頃だったのだろうか。
 

予想を下回るオチをテーマに

 
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僕は、学生時代にアマチュアバンドを組んでそのままプロになったので、ずっと自己流で音楽を学んできました。その中で、本当に実力のある人たちに出会う機会も多かったです。あるとき、音大を出ているバンドが楽屋でミーティングをしているのを聞いたことがあります。その内容が、「エンディングのコーラス、今はGの音だけど本番ではEにしよう。じゃあ、よろしく」くらいで終わるんですよ。
 
「この打ち合わせだけで本番できるのか?」と思いました。でも、観ているとその通りにできているんです。実力の差に驚きましたね。僕には絶対にできないし、この先どうしようと思いましたよ。今さら音大にも入れないし。でも、ステージに立って僕らの歌がウケたときに、「ああ、関係ないんだ」と思いました。
 
ウケたほうが勝つんだ、経歴なんて関係ないんだと気付きました。大事なのはお客さんの反応だけなんですよね。プロとして活動を始めて10年ほど経ったときに、ようやく「ウケたもん勝ちだな」と実感できたんです。
 
そういう活動を続けていたら、NHK教育テレビの『ハッチポッチステーション』から声がかかりました。今でもこの番組を覚えてくれている人は多いですよ。テレビ番組に出演すると、プロデューサーさんから「ずっと見ていました!」とよく声をかけてもらいます。
 
ハッチポッチステーションが子どもたちにウケたのは、僕の特技も関係していたと思っています。僕には、「おもしろいことの記憶」と「味の記憶」があるんですよ。おもしろいと感じたこと、おいしいと思ったものはすべて覚えているんです。小学3年生のときに〇〇君がこういうことを言っておもしろかった、というように。だから、ハッチポッチステーションでは小学生のときの僕がおもしろいと感じたものをよく採用していました。そうすると、子どもたちから人気が出たんですよ。
 
ハッチポッチステーションでの僕のテーマは、「予想を下回るオチ」です。オチでかっこいいことを言おうとするのが一番野暮ですよね。月並みなオチでは見ている方が「これなら自分にもできる」と感じてしまいます。でも、予想を下回ると深読みしてもらえるんです。
 
笑いは結構普遍的なものなんじゃないかと思います。特に子どもたちに関しては、原点に近ければ近いほどウケると感じましたね。あまりこねくり回す必要はないんです。また、普段冗談があまり好きじゃなかったり、わからなかったりする人でも、あまりにレベルが低いと思わず笑ってしまうようでした。もちろん、そのオチのレベルが低いとわかってやっていなきゃダメですよ! 本当にバカではダメ。計算のうえで、予想を下回るオチにするんです。だから、僕は5個くらいオチが思いついたら、いつも一番レベルが低いものを選んでいました。