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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
デビュー当時は「真剣に次ぐ真剣」という姿勢で芝居に臨んでいたという甲本さん。力の抜き方を知り、真剣に遊ぶようになったことで俳優の仕事に楽しさを感じるようになったと話してくれた。
 

言葉にできない楽しさ

 
今の僕は、真剣に演技に取り組む気持ちと、遊び心を持って取り組む気持ちの二つを持っています。そうして感情を動かしながら取り組むことで、バランスを取っていかなければいけないんだなと気付いたんですよ。
 
芝居の楽しさは、言葉にして説明するのが難しいですね。「よし! 楽しもう!」と思って現場に入っているわけでもないですしね。ただ、スタッフさんに囲まれて、共演者の方と一緒に演技をしていると「ああ、楽しいな」と感じるんです。
 
もちろん楽しいことだけではありません。時にはつらくてたまらないこともありますよ。布団の中で「明日の撮影大丈夫かな」と不安になることも多いです。でも、そんなときでも気が付いたら顔がにやけているんですよ。「なんで俺は笑っているんだろう」「ああ、やっぱり楽しんでいるんだな」と気付くんです。
 
俳優業はその繰り返しですね。つらいと思ったり、不安になったりするけど、やっぱり楽しい。その感情の中で揺れ動きながら、自分にとって良いバランスを探しています。30年以上続けていても、一度も良いバランスに出会ったことはないんですけどね(笑)。
 
演技に明確な答えはありません。答えがないことはとっくにわかっているのに、それでも正解を見つけたいと思ってしまうんですよ。答えはないと開き直ることは簡単ですが、僕はそうしたくない。正解がなくても、それに近いものを追い続けたいんです。死ぬまでそうして模索し続けられたら幸せかなと思っています。
 
そうして仕事を続けてこられたのは、応援してくれる方々や仕事を依頼してくださる方がいるからです。俳優はいわば浮遊霊のようなもので、誰かが心霊写真を撮ってくれないと見てもらえることはないんです。だから、写真を撮ってくれる監督やスタッフさんたち、それを観てくれるみなさんにいつも感謝しています。どんな役柄を演じるのか、どんな現場なのかとワクワクしながら待つ時間も楽しみの一つかもしれませんね。
 
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori/ヘアメイク 板谷博美/スタイリスト 部坂尚吾(江東衣裳))
衣装協力
Ermenegildo Zegna
スーツ:40万円
シャツ:参考商品
タイ:2万9000円
ゼニア カスタマーサービス :03-5114-5300
 
 
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甲本雅裕(こうもと まさひろ)
1965年生まれ 岡山県出身
 
大学卒業後は会社員として働くも、1989年から東京サンシャインボーイズに入団。俳優としての活動を始める。『12人の優しい日本人』や『ラヂオの時間』など在籍中はすべての作品に出演した。95年以降、テレビや映画にも活躍の場を広げ、『踊る大捜査線』シリーズや『遺留捜査』など数々の話題作に出演。NHK朝の連続テレビ小説『カムカムエブリバディ』での好演が記憶に新しい。2月11日からは主演を務める映画『高津川』が公開される。
 
『高津川』
https://takatsugawa-movie.jp/
 
 
 
(取材:2021年1月)