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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
『海よりもまだ深く』は、1年前に公開された『海街diary』の撮影期間の合間に撮影を行ったという。2つの作品を平行して撮るのは難しいだろうと想像されるが、「今回の場合はむしろ平行して良かった」と是枝さんは語る。
 

自分の奥に眠っているものを探るように撮影を行った

 
当初の予定では、『海街diary』を撮り終わってから、『海よりもまだ深く』の撮影に入るつもりでした。でも、脚本を書いていたら予定より早くできあがっちゃって(笑)。そうしたらもう、「今撮りたい」という気持ちになってしまった。『海街diary』は四季を通して撮影していましたから、その春と夏の撮影の合間に撮れるのではと考えまして。阿部さんにスケジュールを確認してみたら、ちょうど空いていたので「じゃあ撮ろう」と。
 
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 『海街diary』には原作があったので、平行しての撮影が可能だったと思います。2作ともオリジナルだったら、さすがに手が回らなかったんじゃないかな。普段は2つの作品を平行して撮ることはありませんよ。ただ、今回はこれで良かった。『海よりもまだ深く』は、自分の奥に眠っているものを探る感覚で撮影をしていたので、『海街diary』の撮影期間に作品と向き合えたことは、両方の作品に良い影響があったと思います。 
 
樹木さんは、出演を決めていただくまでが少し大変でしたね。台本をお渡ししたら、後日その台本を返されてしまいまして。「わかっていると思うけど、こういう何でもない人を演じるのが一番難しいのよ」と言われました。“犯罪者”であったり“殺人を犯した息子を庇う母親”であったりすれば、役づくりをするにあたっての“とっかかり”がありますよね。でも、今回お願いした役には、そういった役に入り込みやすい特徴的な部分が何もないんです。「だから、樹木さんにしかできないんです」「いや、できない」と1時間くらい押し問答をして、なんとか台本を受け取っていただくことができました。
 
 
作品に込めたメッセージについて聞くと、「ない」と即答した是枝さん。それは、観た人が考えるべきことであり、「こう思ってほしい」と考えるのはおこがましいのだという。そんな是枝さんに、作品をつくるに当たってどんなことに気をつけているのかうかがった。  
 

感情をどこまで説明するのか

 
  自分の経験したエピソードを、観てくださった方にも同じインパクトを持って伝えるのは難しいです。例えば、この作品の中に出てくるラジオは実際に母が使っていたラジオなのですが、生前そのラジオを買ったときに、「防水だからお風呂にも持っていける」と母が言ったんです。それを聞いて僕は「あ、寂しいんだな」と思った。会いに行くことが少なかったので、後ろめたい気持ちもありましたね。そういった個人的な体験を盛り込むときに、どこまで説明したらいいのかよく考える必要があります。
 
母親の「お風呂場でも聞けるから」というセリフだけにするのか、息子の「寂しいんだな、母さん」というセリフも入れるのか。セリフを盛り込みすぎると嘘くさく感じてしまうので、観る人がどこまで共有できる感情なのか、なるべく客観的に判断しなければいけません。
 
どこまで感情を説明していいのか迷う場面は多々ありますが、そういうときは、このエピソードは100人中5人に伝わればいい、これは60人くらいには伝わってほしい、とバランスを考えて撮ります。このラジオの話だと、息子のセリフは入れずに、10人くらいに伝わってほしいと思って撮りました。全てのシーンを全ての人にわかるようにすると、“わかりやすい映画”になってしまうので気をつけています。それに、「このエピソードは私にしかわからない!」と思える場面があったら、観ていて楽しいでしょう(笑)。
 
 
 
 
 

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