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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

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渡部氏は戦争の実態を知らせる手段としてカメラを選んだ。以来20年以上、世界各地の戦場を渡り歩き、写真を撮り続けている。
 
 

事前の準備が生死を分ける

 
 戦場取材の目的は戦火に生きる子供たちの声を伝えること。日本に帰国してからは子供たちに世界で起こっている現状やそこで暮らす同世代の子供たちの声を伝えることに力を入れています。講義や授業という形で、戦火に暮らす子供たちの日常がどんなものなのか、写真をからめて伝えることが大切な時間となっています。各地の学校を訪問させていただくいっぽうで、取材に飛び出すための準備、ビザを取得したり、現地での取材許可を申請したり関係者にお話をうかがったりしています。日本にいても戦場取材の段取りに時間を費やす時間が日々重なってきます。
 
 戦地に赴くために大事なことは、できることは何でも用意しておくことだと感じています。取材の全体を見渡すと準備が80%、撮影は20%。そう言い切ってもいいほどに、万全の準備に注意を払っていきます。それが、怪我をせずに帰国するためのはじめの一歩であると言えるのかもしれません。もちろん、現場では全てが準備した通りに進むわけではありません。しかし何が起きても柔軟に対応できるようにするためには準備が必要なのだと感じています。カメラマンに限らず、どの仕事においても段取りというものは大切にされていると思います。
 
 20代の頃のぼくは周到な備えもせずに、勢いに任せて危険地帯に突っ込んでいく取材手法をとっていました。今考えると、あまりにも無謀です。たとえば、地雷原を走っている兵士を正面から撮影しようと、地雷が埋まる一帯を自分一人で先回りするようなことをした時がありました。無謀な取材は、最後は怪我をしたり撮影機材を取り上げられたりしてしまい、結局取材が失敗に終わってしまう。
 
 取材をするために現地に飛び込んだにもかかわらず、写真が一枚もとれなかったのでは本末転倒です。ですから、現場から得た経験や世界中の戦場報道に携わるカメラマンの方々からいただいた知識を重ねながら危機管理体制を整えています。準備をすることの大切さを現場で否応なしに体感させられました。
 
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渡部氏は戦場で、死を覚悟した瞬間が何度もある。中でも、レバノンのベイルートで爆撃の嵐の中を逃げ惑った経験を思い出すと、「今でも背筋が凍る思いがする」という。どんな状況におかれても、怪我なく帰国するため自らに植え付けてきた行動術とは――。
 
 

プライドや使命感を捨てて逃げること

 
 戦場取材から怪我をせずに帰国するために気を付けていることがあります。それは「引く勇気を持つこと」。いかなる状況であっても取材を欲張らないことに気を配っています。現場の動きに応じ、柔軟に選択肢をもって進むことを意識し、現場で出会うガイドさんや通訳の方々の声や情報に従うことに気持ちを集中しています。
 
 人は極限状態に置かれると、その場から逃げられるのに、見栄や使命感が邪魔をして逃げるという選択肢を選ばないことがあります。たとえば日常生活の中でトラブルに巻き込まれたりした時、友人と一緒だったりすると、なぜか逃げるという選択肢を頭の隅に追いやってしまう。体と気持ちが逆の動きをしてしまうことがよくあります。
 
 しかし情勢が動いている取材現場では、逃げることも考慮しながら、取材を進めるのが危機管理の方法として重要になってきます。状況次第では自ら率先して逃げることもあります。その現場から一度身を引く。面子や大義にこだわらず、嫌な予感を感じた瞬間に、引くべきタイミングを見計らっていることは現実としてあります。状況は様々ですが、危険を回避することを自分で選べる環境をつくっておくことに気を配っています。
 

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