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キャンプやサバイバルに関するアウトドアスクールを主催しているイナウトドア合同会社の森豊雪代表が、アウトドアの魅力をお伝えする連載コラム。火はかねて、人の文明を支えてきた重要な存在であり、感覚を揺さぶるとともに、言いようのない安心感をもたらす。今回は、キャンプであえて焚火をしない選択を取ることで発見できる、内省の機会や自然の豊かさについて考えていく。
 

◎ 焚火をしないという選択

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最近のキャンプを振り返ってみて、焚火をしなかった夜があっただろうかと考える。気付けば、キャンプ=焚火という固定観念が、自分の中にもあるのではないかと思った。
 
実際、キャンプ場に行けば、多くの人が焚火をしている。私が普段利用する場所でも、周囲を見渡せばほとんどのキャンパーが炎を囲んでいる。夕方になると、あちらこちらで火が灯り始め、夜にはその光が点々と並ぶ。その風景は美しく、どこか安心感すら覚える。
 
なぜそれほどまでに焚火をする人が多いのだろうか。SNSやキャンプ文化の影響もあるのかもしれない。私がソロキャンプを始めた頃、焚火は一つのブームのように広がっていた。私の教室でも焚火体験を目的に参加される方は多く、「炎を眺めたい」「火おこしがうまくなりたい」という動機で訪れる方も多い。都心は焚火ができる場所が限られていることもあり、非日常の象徴として、ある種の憧れになっているのだろう。
 
炎はただの熱源ではない。揺らぎ、音を立て、姿を変え続けるその様子は、人の感覚に強く訴えかけてくる。だからこそ、キャンプにおいて焚火は中心的な存在になりやすい。
 
しかし、それはいつの間にか単なる「型」になってはいないだろうか。では、あえて焚火をしないキャンプを選んだとき、何が起きるのか。普段、焚火をすることが当たり前になっている人ほど、その違いは大きく感じられるのではないだろうか。
 
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まず、本来在った暗さが戻る。炎の強い光がない夜は、思っている以上に静かで、そして深い。逆に月のある夜には、その明るさに改めて気付かされる。雲の切れ間から差し込む月光や、遠くの町の明かりが地形の輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。あるのは手元にあるだけの小さなろうそくランタンの明かり一つだけ。その小さな明かりのもとでは、光は必要以上には自分を主張せず、周囲の闇と共存するようになる。
 
そして、音も変わる。焚火のパチパチと弾ける音が消えることで、自然の音がぐっと近くなる。風が草を揺らす音、木々のざわめき、遠くの波の音、虫の声。自然の中で目をつぶって耳を澄ましたことがあるだろうか。そこには、驚くほど絶え間なく流れる多くの音があることに気付かされる。普段は意識の外にあるそれらの音が、急にその主張を強くする。
 
焚火の炎は「f分の1の揺らぎ」として、癒やしの象徴のように語られることが多い。しかし、その揺らぎ効果は焚火だけのものではない。自然界に存在する不規則なリズム、その全てが人に安らぎを与えてくれている。
 
そしてもう一つ、焚火をしないことで大きく変わるのは、時間の使い方だ。焚火をしていると、火を育てる時間がある。薪をくべ、風の流れを感じながら炎の燃焼状態を調整する。その一つひとつは確かに楽しい。炎が安定してくる過程や、思い通りに燃えたときの満足感もある。だが同時に、それは「やることがある時間」でもある。
 
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焚火をしない夜は、その時間がすっぽりと別の時間に置き換えられる。何かをするわけでもなく、ただ座っている時間。空を見上げ、音を聞き、風を感じるだけの時間。時計を見なくてもよくなり、何かを終わらせる必要もない。もしかして最高に贅沢な時間なのかもしれない。
 
少し手持ち無沙汰に感じるかもしれない。だが、その静けさの中でしか見えてこないものがある。私はソロキャンプの時間は内省の時間としても活用している。日ごろの自分をゆっくりと省みることのできる時間。普段は埋もれている感覚や思考が、ゆっくりと浮かび上がってくるような時間だ。
 
焚火をしないキャンプに向いている季節を考えた場合、夏が一番の候補に挙がるのではないだろうか。理由は単純だ。まず、暑い。そのため、火を焚く必要そのものが薄れる。さらに、火の管理リスクも減少する。乾燥や風の影響を受けやすい時期は、ほんのわずかな油断が事故につながるのだが、そのリスクが限りなく低い。そして、夏は夜が短い。焚火をじっくり楽しむ時間が限られている。
 
こうして考えると、夏に焚火をしないという選択は、決して特別なことではなく、むしろ自然な流れなのかもしれない。
 
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それでも、人はなぜ火を求めるのだろう。
 
火は、人にとって安心の象徴であり、文明の象徴でもある。暗闇を照らし、寒さをしのぎ、食を生み出す。火を持つことで、人は自然を少しだけコントロールできる感覚を手に入れてきた。だからこそ、私たちは無意識のうちに火を求めるのかもしれない。しかし、その火をあえて手放したとき、私たちはほんの少しだけ人類が火を扱えなかった太古の時代に引き戻される。明るさを減らし、音に耳を澄ませ、ただそこに身を置くという感覚。それは不便さではなく、本来のアウトドアの姿に近い時間なのではないだろうか。
 
焚火は楽しい。それは間違いない。けれど、焚火をしない夜にも、確かに別の豊かさがある。一度、焚火をしないキャンプを試してみてほしい。そこには、これまで気付かなかったアウトドアの一面が、静かに広がっているはずだ。
 
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イナウトドア(同)では親子向けスクールや焚き火体験なども行っております。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。
https://www.inoutdoor.work/school
 
 
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森 豊雪
学業修了後はエネルギー関連の製造会社に入社し、30年以上にわたって勤務する。55歳を迎えて新しい道を模索。もともと趣味で活動していたアウトドア分野で起業することを決意し、イナウトドア(同)を立ち上げた。現在は、オリジナルアウトドアグッズの開発や、サバイバル教室などの展開、自然保護のボランティア活動に注力している。
 
※保有資格
・NCAJ認定 キャンプインストラクター
・JBS認定 ブッシュクラフトインストラクター
・日赤救急法救急員他
 
イナウトドア 合同会社
〒238-0114神奈川県三浦市初声町和田3079-3
URL https://www.inoutdoor.work
X(旧Twitter)@moritoyo1
 
 
 

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